代表曲「ワタリドリ」が2024年9月から小田急線の駅の列車接近メロディーに採用されるなど、幅広い世代から人気を集めている4人組ロックバンド[Alexandros]。ボーカル兼ギタリストの川上洋平さんは、青山学院大学在学中にバンドを結成し、会社に就職した後に音楽の道に入りました。川上さんは青学で、どのような学生生活を過ごしたのでしょうか。(聞き手:「朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長)
大学で、プロの音楽家を目指す
――24年9月から「ワタリドリ」が小田急線・相模大野駅の列車接近メロディーに採用されたのですね。
とても光栄です。相模大野駅は実家の最寄り駅で、地元なんです。もともとはライブで「ワタリドリ」を、列車接近メロディー風にアレンジして演奏したのがきっかけで、それを聞いたファンの方や地元の方がSNSで拡散してくれて、使ってもらえることになりました。
――相模大野駅のある神奈川県相模原市には、川上さんの母校・青山学院大学の相模原キャンパスもありますね。小学生の頃からミュージシャンを目指していたそうですが、進学先に青山学院大学を選んだのはどうしてですか。
青山学院大学は、バンドや音楽で活躍している出身者が多いというのがいちばんの決め手でした。経営学部、法学部、文学部英米文学科に合格し、当時、最も就職率がよかった法学部を選びました。もちろんバンドでメシを食っていきたい、プロになりたいという気持ちが強かったので、就職は第二の道だったわけですが。
――受験会場で[Alexandros]のメンバーである磯部寛之さんと出会ったそうですね。
僕が入試会場に一番乗りだったんですけど、その後に入ってきたのが磯部くんでした。結局、彼も法学部に入ったのですが、最初はあまり印象がよくなくて(笑)、1年の終わりごろまで接点はありませんでした。
僕は大学に入ってすぐにメンバーを集めてバンドを始めましたが、2週間くらいでバラバラになってしまいました。「プロを目指そう」と言うと、みんな「そこまでは考えてなかった」という感じになってしまって。
――プロになるために大学に入った川上さんとはモチベーションが違いすぎたのでしょうか。
バンド系のサークルにも入ってみましたが、みんな好きなバンドの曲をカバーするだけで満足していて、僕が目指しているものとは違っていました。楽しむためにバンドをやるのもいいなと今は思いますが、当時は毛嫌いしていました。
1年の終わりくらいに磯部くんが彼女と別れてしまい、金髪にするなど目に見えてヤサぐれていました(笑)。「ロックバンドに誘うなら今だな」と思って声をかけたら、「やる」と言ってくれて、そこからバンド活動を始めました。
――1、2年のときは当時の厚木キャンパス*に通っていたと思いますが、どんな印象がありますか。(*2003年に閉鎖)
厚木キャンパスが移転する最後の年でした。キャンパスはのどかな場所にあって、20分くらいかけてバスで通っていました。その風景は好きでしたね。途中から実家の車で通うようになってからは、授業の後にみんなでラーメン屋に行ったりして、楽しかったです。3年からは青山キャンパスだったのですが、僕は取り損ねた必修科目があったので、3年になってからも、厚木キャンパスから移転した相模原キャンパスにも通いました。「相模原返し」と言われていて、3つのキャンパスを経験しました。相模原キャンパスは、きれいで良かったですけどね。ダメな学生でした(笑)。
――音楽活動が忙しかったのではないですか。
オリジナル曲を作って、厚木や町田のライブハウスに出演していました。青山キャンパスに通い始めてからも、空いている教室を探してギターを弾いたりして、バンドのことばかりやっていました。当時の青学では、大学にギターを持ってくること自体がマイナーだったと思うし、「ちょっと変わった人扱い」されていたかもしれません。周りのみんなのように授業終わりにコンパに行ったり、クラブで遊んだりということもなかったので、青山という街を堪能することはありませんでした。バンド以外の人たちとはあまり交流がありませんでしたが、弁護士を目指していたり、起業を考えていたりする人が多かった気がします。青学には華やかなイメージがありますが、僕には地道に頑張っている人が多い、という印象があります。
音楽のために、就職を選ぶ
――卒業後はいったん就職したのですね。
大学には6年も通ってしまいましたが(笑)、まだ音楽で食べていける状況ではありませんでした。バイトしながらバンド活動を続けるか、もしくは就職して正社員で働きつつデビューを目指すか、迷いました。どちらにしても自分の思いとしては、音楽で生計を立てるまでの期間をつなぐための選択肢というつもりでした。レコーディングの費用や機材の購入費などもかかるし、経済的に安定したほうが音楽活動に打ち込めると思ったので、就職しました。
仕事は、精密機器を取り扱うBtoB(企業間取引の事業)の会社の営業職でした。3年間勤めましたが、自分は仕事に向いてないんだと痛感させられました。組織のなかで「だれかが作ったものを売る」ということが僕には難しかったんです。自分で作ったものを売るほうがまだ向いていたかもしれません。けれど、会社というのはそういう場所ではなくて、作る人、売る人という役割分担があって成り立っていくもので……。本当にダメ社員だったから、今でも当時の上司の方に対しては、申し訳なかったなと思っています。
――そもそも、いずれバンドをやるために選んだ就職ですからね。
ただ、会社勤めをした3年間で学んだこともたくさんあります。社員の中には、仕事自体はそれほど好きではないけど、「愛する家族のために頑張っている」という人もいました。そのときにわかったのは、どんな仕事をするにしても、人生においては、「自分にとって大事なものをしっかり持っているか」が重要なんだなということでした。
僕にとっていちばん大事なのは、もちろん音楽です。何度も壁にぶつかったけれど、「俺には音楽がある」という気持ちはまったく変わらなかったし、音楽を嫌いになることもありませんでした。目標があったからこそ、自分には向いていない会社勤めを逃げ出さずに3年続けたし、むしろマイナスな気持ちを音楽にぶつけて、そこから生まれた曲もあります。一度、音楽から離れて、社会に身をおいたことで、音楽は自分にとって普遍的なもので、ずっと愛を注ぐことができるということを確かめられたのもよかったと思っています。
>>【後編】デビュー前、音楽活動を反対された[Alexandros]川上洋平さん 「親は最初の壁 元気なうちに、紅白に出るのが目標」
[Alexandros] 川上洋平/1982年、神奈川県生まれ。ロックバンド[Alexandros]のボーカリスト兼ギタリスト。9歳から14歳までシリアで過ごした経験を持つ。2007年、青山学院大学法学部卒業。24年9月18日ニューシングル「SINGLE 2」が発売。
(文=森 朋之 撮影=今村拓馬 ヘアメイク=坂手マキ(vicca))
【写真】[Alexandros]川上洋平さん 大学入試の会場で、運命の出会い
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