灘の日本酒を、大学生が世界へ発信 留学で気づいた日本文化の魅力

2024/12/05

■名物教授訪問@関西学院大学

会計学を専門とする関西学院大学国際学部の木本圭一教授は、ゼミの学生と「関学・日本酒振興プロジェクト」に取り組みながら、経営戦略分析と財務諸表分析を実践的に学ぶ機会を設けています。若者の日本酒離れが進むなか、学生たちは酒蔵を訪れて日本酒について学び、国内外で魅力を発信しています。具体的な活動の内容や、その意義について、聞きました。(写真=関西学院大学提供)

留学をきっかけに日本酒に興味

木本教授がゼミの学生と2014年から取り組んでいるのが「関学・日本酒振興プロジェクト」です。日本酒の国内出荷量は数十年にわたって減少傾向が続いています。関西学院大学がある兵庫県には、「灘五郷」と呼ばれる日本酒の名産地があることから、日本酒の需要を増やすために貢献できることはないだろうかとプロジェクトを始めました

きっかけになったのは、西宮市が主催したビジネスアイデアコンテストで学生が提案した、日本酒をジンジャーエールで割って飲みやすくした商品を販売するというプランが準優勝したことでした。木本教授はそのプランを実行に移そうと、酒造会社の協力を得てプロジェクトをスタートしました。

コンテストで提案した商品をさらに改良しようと、学生たちは地元のバーテンダーに相談。そこで生まれたのが、日本酒とジンジャーエール、ライム、ミントを使った「宮モヒート」という創作カクテルでした。通常のモヒートよりアルコール度数が低いので飲みやすく、日本酒の香りも楽しめます。バーテンダーから作り方を教わり、14年の「西宮酒ぐらルネサンスと食フェア」で販売しました。以来、さまざまなイベントやアメリカンフットボール部の試合などで、日本酒カクテルのブースを出したり、試飲会を開いたりしています。これまでに連携してきたのは、灘五郷や伏見などの酒造会社である、白鷹、大関、辰馬本家酒造、日本盛、剣菱、月桂冠、旭酒造、茨木酒造、沢の鶴、西山酒造場の10社です。

毎年ブース出店している「西宮酒ぐらルネサンスと食フェア」。「宮モヒート」のほか、学生たちが考案した日本酒カクテルも販売する

「学生の原動力になっているのが留学時の経験です。国際学部の学生は2年から3年にかけて、ほぼ全員が留学します。留学先で日本文化について質問され、日本酒についても尋ねられましたが、20歳を迎える前や直後でもあり、うまく答えることができませんでした。そういう体験をしてきた学生たちが、日本酒のことをもっと知りたいとプロジェクトに参加しています」(木本教授)

プロジェクトから経営戦略を学ぶ

学生は連携する酒造会社の酒蔵を見学して蔵主や杜氏に詳しく話を聞き、その思いをブースに来たお客さんに伝えます。お客さんの反応やアンケート調査の結果を酒造会社に報告し、意見交換します。若い世代に日本酒を知ってもらいたい酒造会社にとっても、意味深い活動になっています。

留学を経験した学生たちの視野は海外にも広がっています。これまでにオーストラリア、シンガポール、台湾、アメリカで、日本酒を紹介するブースを出店し、試飲会を開きました。

2018年にはオーストラリア・シドニーでブースを出店。国際学部には英語の得意な学生が多く、自然にコミュニケーションを取っている

「海外の人に日本酒を味わってもらい、その反応に関するデータも取っています。今年は海外各地にある同窓会支部の協力を得て、世界の酒類嗜好(しこう)調査を本格的に実施しようとしています。国内では留学生やインバウンドへの訴求も行っていきます」

連携している酒造会社の戦略はそれぞれ違います。たとえば、日本酒を飲みやすいようにアレンジした商品を出すところもあれば、昔から変わらない味を守ることに注力するところもあります。
学生は酒蔵の蔵元や杜氏と話すなかで、その蔵の方針を理解していきます。これは経営戦略について学ぶ、非常に有効な場にもなっています

企業との連携で、成長と自信

プロジェクトの枠組みは木本教授が設計しましたが、そこからの進行は学生に任せ、なるべく口を出さないようにしています。

「学生が主体的に動かないと意味がありません。連携先の酒造会社から出店などの依頼をいただいたときに、受けられるか、だれが責任者になるかなどは、すべて学生が決めています。各社には私から『メールの文面や段取り、お預かりする商品などに関して学生の対応がまずい点があれば、厳しくご指摘ください』とお願いしています」

企業ブランドに傷をつけぬよう、学生は真剣に取り組みます。ゼミの先輩から教えてもらうなどしてビジネスメールも書けるようになり、場面ごとの対処法も次第に自分で考えられるようになっていきます。

全国の酒蔵が集う、神戸で開催された日本酒フェスに出店したことも

「学生は短期間に驚くほど成長します。企業と連携した活動に責任を持って取り組むことが、成長を促しているのでしょう。また、自分たちの創意工夫を評価してもらい、学生ならではの視点を『参考になる』と言ってもらうことが自信につながっています

木本教授は教育効果を測定する研究も行っており、日本酒振興プロジェクトに見られるような教育形態が効果的だという研究発表もしています。

会計学を学べば、世界へ視野が広がる

ところで、木本教授が専門とする会計学は、そもそもどんな学問なのでしょうか。

企業の活動に関わる利益、借金、財産などを測定し、活用するための学問です。各企業が独自の基準で測定するのではなく、どのように測定し、公表するかというルールが必要で、そのルールを検討するのが会計学の重要なところです」

世界で統一されたルールとして国際財務報告基準(IFRS)があり、多くの国の企業はこの基準に沿って会計を行っています。初めて学ぶ人にとって、最初のハードルは高いものの、その基本を修めれば、視野が一気に広がることが会計学の魅力だといいます。「ルールをいったん習得すると、全世界の財務諸表を読んで分析できるようになります」と木本教授。日本酒振興プロジェクトは、見積もりを作って発注する、売り上げを予想するといった会計について、実践的な学びの場にもなっています。

人の役に立つために能力を磨く

木本教授の教育上の信念は、関西学院がスクールモットーとして掲げる「Mastery for Service(奉仕のための練達)」と重なります。「社会や人の役に立つために自分の能力を磨きなさい、という意味です」(木本教授)。中学部から大学院まで関西学院に通った木本教授も、長年このモットーをよりどころに、会計学を通して学生を育てる教育を志してきました。そして学生にもこの精神を身につけてほしいと願います。

「大学選びにあたっては、知名度や偏差値だけではなく、その大学に通ったら自分はどう成長するかという観点を持つといいと思います。お金儲けや出世を考え出すと自分の目標がブレますが、だれかの役に立つということを中心に置くとブレません。卒業後の長い社会人生活も、後悔することなく送れるのではないでしょうか」

プロフィル
木本圭一(きもと・けいいち)/関西学院大学国際学部教授。関西学院大学商学部卒、同大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。近畿大学短期大学部助教授、関西学院大学商学部准教授などを経て、2010年から現職。専門は会計学。会計基礎理論、企業分析、会計教育などを研究している。

>>【連載】名物教授訪問

(文=仲宇佐ゆり、写真=関西学院大学提供)

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【写真】灘の日本酒を、大学生が世界へ発信 留学で気づいた日本文化の魅力

全国の酒蔵が集う、神戸で開催された日本酒フェスに出店したことも
全国の酒蔵が集う、神戸で開催された日本酒フェスに出店したことも

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