日本語に加え、中国語と英語、韓国語の4カ国語を操る森迫永依さん。実写版「ちびまる子ちゃん」の子役時代を経て、上智大学を卒業後、現在は語学のセンスを生かし、多方面で活躍しています。テレビ番組「プレバト!!」では、「俳句の才能アリ」と認定されています。語学が堪能になったコツや、大学生活の思い出などを振り返ってもらいました。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長)
日本人であることを実感した留学
――念願の上智大学国際教養学部で実際に学んでみて、どうでしたか。
英語で行われる授業自体は問題なかったのですが、課題の多さには苦労しました。例えば授業のたびに、60ページぐらいのリーディングを予習しておかなければならないんです。だから空きコマも友達みんなで集まって自習していました。予想はしていましたが、それをさらに上回る量で、本当に勉強に注ぎ込んだ4年間でした。もちろん勉強しに行っているので本望なのですが、いま振り返ると、よく頑張ったなと思います。当時はタレント活動もセーブして、出演していたのは土日に撮影があるレギュラー番組だけでした。
――3年次には留学も経験したのですね。どこに行ったのですか。外国での苦労はありましたか。
アメリカ中西部のウィスコンシン州にある大学で、1年間過ごしました。映画や広告手法など、日本のエンタメとの違いを実感する授業もあって面白かったです。別の国の文化を知って、「私って日本人なんだな」とつくづく感じました。また、白人が多い地域だったので、アジア人である自分のアイデンティティーについても深く考えるようになりました。
あるとき、タクシーに乗っていたら、ドライバーさんが「君、日本人なの?」と聞いてきたんです。そうだと答えたら、「日本人なのに英語がうまいね」と。その人は、アジア人は英語が話せるわけがないと思っていたのかもしれません。あくまで自分の感覚ですが、潜在的な差別を感じることもあったし、どれだけ頑張っても越えられない疎外感も味わいました。こういうジレンマとどう向き合えばいいんだろう、と思ったこともありました。
あとは授業のレベルが高く、ペースも速かったので、何も言えずにディスカッションが終わってしまって、「私、何しに来たんだっけ」と思うこともありました。
――そういった悩みはどうやって乗り越えたのですか。
同じディスカッションチームの学生たちに、授業の前後に連絡を取って、人となりを知る努力をしました。話しかけることにも勇気がいりますが、少しでも仲良くなっておけば、そのあとの議論も展開しやすくなりますよね。これは日本でも同じだと思います。お陰で世界中に友達ができて、こちらから会いに行ったり相手が日本に来てくれたりと、いまも交流を続けています。
――大学選びのときの話でも感じましたが、周囲とコミュニケーションを取る力が高いのですね。
いやいや、本当の私は友達も少ないし、人見知りです。でも、やるしかないと思っていたので、もう必死でした。いまでは考えられないし、よくやったと思います。英語は日本語よりもストレートに言いたいことを伝える構造になっているので、その言語の力を借りることができたのもよかったです。いまも、撮影現場の自分と、プライベートの自分は別人だと思っています(笑)。それと同様ですね。
好きなことの勉強は苦にならない
――韓国語も得意と聞いていますが、韓国語を勉強しようと思ったのはなぜですか。
中学のときからK-POPが好きで、特にアイドルグループのSUPER JUNIORのファンでした。好きな人たちが何を話しているのかを知りたかったんです。彼らのラジオも聴いていたので、勉強すればするほど聞き取れることが増えて、どんどん世界が広がりました。韓国語を覚えるのは楽しくて仕方なかったですね。
――やはり言葉のセンスがあるのでしょうね。TBS系列のテレビ番組「プレバト‼」では俳句にもチャレンジしています。これまで俳句を詠んだことはあったのですか。
まったくありませんでした。大学4年間は英語漬けだったので、むしろ日本語との距離ができていたぐらいです(笑)。お話をいただいたときは「えっ? 私が俳句を?」という感じでした。
それで、いざやってみたら、まず一句詠むのにとても時間がかかることに驚きました。最初は、自分の作品をほめてもらっても、「これの何がいいんだろう」と不思議に思うこともあったり、とにかく言葉の選び方など、探り探りやっています。でも俳句も、やっぱり勉強すればするほど、わかることが増えます。今では句集も買うようになって、時間があるときには歳時記を読んで、「へえ、面白い」などと思っています。
好きだと思えれば、勉強することが苦にならないんです。好奇心が向くことを突き詰めて学ぶのが好きなのだと思います。
――そうした言語感覚を生かして、今後やってみたいことはありますか。
高校のときからの夢である、英語での芝居はもちろんやってみたいので、海外作品のオーディションを受けたこともあります。機会があればどんなことでも。俳優という肩書にこだわらず、自分のバックグラウンドを生かしてできることは、何でも挑戦してみたいです。
私だけでなく、アジアの俳優がもっと世界に進出するようになって、可能性が広がるといいなと思います。言語の壁で出たくても出られない人もいるので、自分にできることがあるなら、やらないともったいないなと。
「とりあえず試してみよう」の精神
――進路に悩む高校生に、アドバイスをお願いします。
大学に行ったからできること、行かなかったからできること。きっと両方あると思いますが、行ったから生まれる選択肢というものはとても多いと思います。だからきちんと考えてみてほしいです。そして、とりあえずちょっとでも興味があれば、思い切って飛び込んでみたらいいと思います。大学には本当にいろんな学部や学科があるので、必ず自分の興味と重なるところがあるはずです。先輩や先生や、周囲のいろいろな人を頼って、そこまでの道筋を見つけてほしいです。焦らなくていいから、とりあえず「行ってみよう、やってみよう、試してみよう」。その精神でいきましょう。
――最後に、受験時は森迫さんの親御さんはどんな姿勢でしたか。保護者へのメッセージもあればお願いします。
私は中学受験で第1志望の学校に入れなかったので、そのときのことを教訓にしたのか、うちの親は大学受験では後ろで見守る感じでした。私のプレッシャーにならないように、「好きにしていいよ」と言ってくれましたが、上智大学に受かったときはすごく喜んでくれました。
勉強は強いられると楽しめないし、うまくいかなくなると思います。家族にできること、やってほしいことは、受験する本人が楽しめるような環境づくりでしょうか。勉強の先に何があるのか、勉強してかなえたいことは何なのか。そういう未来や夢を本人が探すのを、親が少し手伝ってあげられるといいかなと思います。
>>【前編】ドラマ「ちびまる子ちゃん」主役の森迫永依さんが、留学経験なしで上智大・国際教養学部に入学できた理由
<プロフィル>
森迫永依(もりさこ・えい) 1997年生まれ。成城学園中学校高等学校、上智大学国際教養学部卒業。2002年から子役として活動を開始。「あした天気になあれ。」「新しい風」など数々の作品に出演。06年には実写版「ちびまる子ちゃん」で主役のまる子役を演じる。近年はバラエティー番組「プレバト‼」で俳句の才能も開花。ドラマ、舞台、CMと幅広く活躍を続けている。
(文=鈴木絢子、写真=加藤夏子)
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