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薬物代謝動態学分野

投与された薬がその効果を発揮するためには、標的となる部位に適切な量が到達し、適切な時間だけ作用し続ける必要があります。薬の体内での動き(薬物動態)は、治療の効果や副作用の発現を決める重要な要素になるのです。医薬品の開発に携わる研究者や臨床現場で医薬品の適正な使用が求められる薬剤師は、薬物動態学の理論を基本から学び、薬物治療における問題を解決する能力が求められるのです。

分野からのひとこと

幅野 渉 教授

薬物代謝動態学分野の教員は令和6年4月1日現在、教授:幅野渉、講師:寺島潤の二名です。
薬物動態とは薬が体内に入った後の動く様(さま)のことです。この「動き」には、薬の移動の他に、薬が代謝によって別の形に変わることも含まれます。例えば、錠剤1錠は膨大な数の薬物分子から成ります。体内入ったこの分子たちが時間をかけて血液中に吸収されます。そして血流に乗って全身を循環する間に、さまざまな臓器に入り組織との間で行き来をします。このとき標的となる場所に到達した一部の薬の分子が薬理作用を示して効果を発揮することになります。しかし、これらの薬の分子はいつまでも体内に留まり続けることはありません。一部の分子は腎臓から尿といっしょに体外に出ていきます。また、一部の分子は肝臓を通過する間に酵素と出会い、代謝を受けて別の形に姿を変え作用を失います(これらの代謝物の多くも尿中から出ていきます)。薬は我々の体にとっては異物でもあるため、腎臓や肝臓のはたらきによって守られているわけです。
薬物動態学は、血液中や尿中の薬の濃度を手掛かりに体内の薬の動きを推測し、有効で安全な薬物治療に貢献することを目指す学問です。

分野の基本理念

薬物の体内動態は患者の状態(加齢、妊娠、病態、遺伝的要因など)や併用された薬物、飲食物の摂取によって変化します。例えば、高血圧治療薬の一部はグレープフルーツジュースといっしょに服用すると降圧作用が強く現れることがあります。これはグレープフルーツジュースの成分がこの薬の代謝を阻害するために、血液中の濃度が普段よりも高く推移してしまうためです。また、イリノテカンという抗がん剤は一部の患者において好中球の減少や下痢などの副作用を引き起こします。その原因として、イリノテカンの代謝に関わる酵素のはたらきに遺伝的な差異が関係することがわかっています。このように、薬物治療による効果や副作用の現れ方には個人差があり、特に「代謝」の変動が原因となっている場合が多く見受けられます。このような薬物動態が変動する原因が明らかになれば、これを予測することでより適切な薬物治療を提供することが可能になります。
当分野では薬物の代謝動態が変動する分子生物学的なメカニズムを探索し明らかにすることを目指して研究を行っています。

主な研究内容

  1. 薬物代謝動態関連遺伝子の発現変動に関わるエピジェネティクス機構の探索
  2. 薬物代謝酵素とその関連分子のがん細胞恒常性、悪性化、抗がん剤耐性獲得における役割

 

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