平成24年度卒業式式辞
本日、大学院学位記授与式、卒業証書・学位記授与式を挙行できますことは本学にとりまして誠に大きな喜びであります。只今、学位記、卒業証書をお渡しした諸君に、心からお祝いを申し上げます。
特に、薬学部の諸君は新設以来六年が過ぎ、初めての卒業生となります。後輩の規範となり、輝かしい薬学部に発展する様、一期生として誇りを持って、歴史をつくり上げていってください。
さて、諸君が今日あるのは、ご両親、ご親族の皆様の今日までのご支援があってのことであります。関係の皆様は卒業生以上にお慶びの事と思います。心からお慶び申し上げます。また、学内にあっては今日までご指導下さった教職員各位に対して、学長として深甚なる感謝の意を表します。
さて、一昨年の卒業式は「東日本大震災津波」発災の前日三月十日に挙行されました。早二年が過ぎました。発災直後の大混乱の中、本学は全県の災害拠点病院としての任を遺憾なく発揮しました。県災害対策本部内に災害医療の司令塔のセクションを構築し、情報収集から、災害医療チームの派遣に至るまで、まさに獅子奮迅の働きをしたと言って良いでしょう。大学の強力なリーダシップのもと他県に先駆けて一早く医療体制整備を確立した事実は広く内外に知られる事となり、今週初めにはWHO主催の「災害からの健康分野の復興に関する国際会議」が被災経験国約二十カ国、国連始め、多くの国際機関の参加の下、本学矢巾キャンパスで開催され世界にメッセージを発信したところです。
来月には、かねてより建築中であった災害時地域医療支援教育センターが竣工し活動を開始します。長くかかるであろう災害からの再生の拠点となるばかりでなく、大災害時の活動拠点となるなど、本学にはさらに一層の活躍が期待されています。厚生済民、不撓不屈の学是の下、皆様と共に努力してまいります。
医、歯、薬の学部卒業生諸君に申し上げます。諸君には、「病を抱えた弱者の立場に立つ良識ある医療人」として自己研鑽して頂きたいと思います。医学医療は、病のみを診るのではありません。病を抱えた「人」を診るのであり、「医療人たる前に誠の人間たれ。」という本学の建学の精神は「人」を診るという全人的医療の基本であります。
また、日々進歩し変わってゆく医学・医療の中で、生涯にわたり学習を継続してゆくことが「有能な医療人」たる条件です。病を抱えた弱者のために最善を尽くそうとする高邁な理想を持っていても、日々刻々と進歩発展し変わってゆく「医療の技術と知識」の中で、最新医療を実践できる力がなければ、患者の幸せには結び付きません。従って、「知識と技術」を最新のものとする生涯学習の努力なしには「誠の医療人」にはなれないことを認識して頂きたいと思います。
次に、新博士・修士となられた諸君に申し上げます。大学院は最高学府の中の最上位に位置し、学位の称号は、学問の深奥を極めた人にのみ授与されるものであります。しかし、研究には終わりはありません。その意味では、生涯続く研究の新しいスタートラインについたというべきでしょう。諸君には更なる研鑽を重ね、自らの研究を発展させ、学者として、指導者として、人類の福祉のため医療の発展に一層の努力をされることを切に望みます。
さて、本学の源は三田俊次郎先生によって明治三十年に創設された私立岩手病院、医学講習所にさかのぼります。昨年、極めて貴重な資料が県立図書館から見つかりました。
私立岩手病院、医学講習所の実情をまとめたものです。この資料により、明治三十年にはすでに学生が学んでいた事が明らかとなりました。当時は後に旧帝国大学の一部となる第一から第五高等学校医学部等や、私学では野口英世が学んだ済生学舎、後に慈恵になる成医会講習所などしかなく、本学の前身は、地方において、志高く私財を投げ打って医療人育成を行っていた希有な学校だった事が証明されました。
以来、長い歴史を綴ってきたのです。現在総合移転整備計画の最終段階にある新病院、内丸メディカルセンターの運用が開始される予定の数年前の2017年には、明治三十年から丁度百二十周年を迎える事になります。この歴史は京都大学と全く同じです。
創立百二十年となる四年後には大々的にお祝いしたいと考えております。
諸君は、この様な輝かしい歴史を有する岩手医科大学の同窓の一員となりました。先人のご労苦があってこそ、諸君の今日があるということを忘れてはなりません。従って、歴史を後輩に引き継いでゆく責務を負ったという自覚を強くもって頂くことを切望します。
現在、本学は、教育、診療、研究共に、本邦のみならず世界に向かって様々な新たな試みを発信しております。この実績を基に世界に冠たる大学として飛躍発展を目指します。諸君は、母校を誇りに思い、その誇りを糧に世界へ羽ばたいて頂くことを切に願います。
最後に、諸君は、医師、歯科医師、薬剤師、研究者、教育者として社会から大きな期待を寄せられています。今後は、社会に貢献し、引いては母校に光を当てる人材になって頂くことをご期待申しあげ、式辞といたします。