2021 年 99 巻 2 号 p. 459-472
2016年8月後半に、ユーラシア大陸上でのロスビー波束伝播及びそれに伴う日本の東海上における高気圧性のロスビー波の砕波に伴って、モンスーントラフが日本の南海上で強化した。本研究では、このモンスーントラフ強化の予測可能性を、大気大循環モデルを用いた緩和予報実験の手法により評価した。緩和予報実験では、日本の東海上の砕波域、ユーラシア大陸上の波束伝播域、及び両領域の計3つの領域における対流圏上層のモデル予測値を再解析値にナッジングした。モンスーントラフの強化は、気象庁現業1か月アンサンブル予報では予測されなかったが、緩和予報実験ではその再現性が向上した。また、ナッジングを行わない予報実験結果との比較より、緩和予報実験ではユーラシア大陸上での波束伝播の強化や日本の東海上での砕波の強化が再現され、対流圏上層でのロスビー波の増幅が高渦位大気の南西方向すなわち日本の南東海上への侵入を促進することにより、モンスーントラフ強化の再現性が向上することが分かった。さらに、緩和予報実験の結果より、主に日本の東海上の砕波域及びユーラシア大陸上の波束伝播域における予報誤差の改善が、モンスーントラフ強化の予測可能性を向上させることが示された。一方、これら2つの領域が予測可能性向上をもたらす相対的な寄与率は、先行研究においてアンサンブル予報を用いた簡易予報感度解析から得られた値と整合的であった。