低温槽の中にヘリウムとアルゴンの混合気体を入れ,ヨウ化銀煙をたねまきして水飽和の条件下で氷晶を成長させた.温度は-3℃から-20℃まで変えた.低温槽の底へ落下した氷晶の形と大きさを底のガラス窓を通して直接に測定した.レプリカ法を使用しなかった.この実験の結果,以下に述べるように氷晶の形と大きさがヘリウムとアルゴンの混合比とともに系統的に変ることが明らかになった.ただしここでは平均分子量をもってヘリウムとアルゴンの混合比を表現することにする.
1.板状結晶も柱状結晶もともにa軸とc軸の両成長速度とも平均分子量が小さいほど大きかった.
2.板状結晶の中央部に見られる表面構造のない部分の大きさは,平均分子量が小さいほど大きかった.
3.板状結晶は成長してある臨界の大きさに達すると六角板の隅から枝を出し始めたが,その臨界の大きさは平均分子量が小さいほど大きかった.
4.上記項目1,2,3のすべてについて平均分子量29のヘリウム•アルゴン気体中に成長した氷晶と空気中に成長した氷晶とは良く一致していた.
5. -7℃,水飽和でヘリウム中に成長した柱状結晶は小さな凹み(hollow)を伴っていたが,アルゴン中に成長した柱状結晶は凹みを伴っていなかった.この事実が結晶成長に関する形状不安定性の理論と矛盾するかどうかはまだわからない.
6.水飽和の条件下で,氷晶の形は温度に依存するばかりでなく,ヘリウムとアルゴンの混合比にも依存していた.
7.ヘリウム•アルゴン混合気体の分子粘性は両気体の混合比によってほとんど変化せず,大体一定の値をとることが知られている.したがってこの実験から見出された氷晶の成長のヘリウム•アルゴン混合比に対する依存性は落下状態の差異に起因するものではない.
8.ヘリウム•アルゴン混合気体の水蒸気拡散係数と熱伝導率は両気体の混合比で大きく変るから,この実験の結果は氷晶の成長の様子が気体の水蒸気拡散係数と熱伝導率などの物理常数に依存することを示すものと解釈することができる.
9.なおヘリウム•アルゴン混合気体の全圧を1気圧から適当にさげることによって,水蒸気拡散係数が一定で熱伝導率のみが異なる場合およびその逆の場合について実験をおこなって両因子の氷晶の形に対する効き方の差異を見出すことができたので,別の論文に発表する予定である.
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