大気中のエアロゾル粒子を日本の3地点:都市(名古屋),山岳(乗鞍后)と海洋(南西諸島海域)上空3.0kmまでの高度でインパクターを川いて採集した.そして直径0.5μm以のエアロゾル粒子1個1個をX線マイクロアナライザーで分析した.エアロゾル粒子中の硅素,ナトリウムと硫黄の元素組成として次の結果が得られた:(1)名古屋近辺上空では,エアロゾルが混合層の中でも,またその上空においてもしばしば硅素あるいは硫黄を多量に含む粒子から成っていた.(2)乗鞍岳の山頂では,日昼の対流活動の活発な時にはエアロゾルが硫黄を多量に含む粒子から成るのに対し,夜間の大気の沈降時には硅素及び硫黄を高い濃度割合で含み,ナトリウムを僅かしか含まない粒子から成っていた.(3)南西諸島海域では,高度の違いで組成の異なる2種類のエアロゾルに大別できた:海面上2km程度の海洋大気中ではエアロゾルが主に海水の組成に類似の組成を持つ粒子から成っているのに対し,その上空では海水の組成に比べて硅素及び硫黄を高い濃度割合で含む粒子から成っていた.これらの硅素,ナトリウムと硫黄の元素組成から粒子中の硅酸塩,海塩と硫酸塩成分の相対含有割合を見積った.これらの解析によって,硅酸塩と硫酸塩成分を高い濃度割合で含み,海塩を微量しか含まない直径0.5μm以上の混合粒子が本州から沖縄に至る日本上空の自由大気中に広く分布することが示唆された.
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