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 新型コロナウイルス感染症対策の切り札と期待されていた接触確認アプリ「COCOA」。そのAndroid版で「接触を検知・通知できない」という根幹機能に関わる不具合が4カ月以上放置されていた問題は、開発体制の見直しや原因調査に波及しようとしている。同問題は2021年2月3日に厚生労働省が公表した。

 「アプリそのものの出来があまりよくなかった」――。平井卓也デジタル改革相は2021年2月9日、現状のCOCOAについてこう断じ、今後は内閣官房IT総合戦略室がCOCOAの保守・運用などに関与していく考えを示した。一方でCOCOAを担当してきた厚労省は不具合発見が遅れた原因について第三者による調査を検討しているという。

 現在の体制は、厚労省と発注先ベンダーの両方が問題を抱えている。ただ原因を究明するならば、厚労省の前任者らが関わっていた発注プロセスが最善だったのかという点まで踏み込んで検証すべきだ。

 というのも厚労省の説明や関係者の話を総合すると、厚労省は発注当初、接触確認アプリに十分な知見がないベンダーや、開発グループを公平に選べない立場にあったベンダーに実質的にベンダー選考を委ねていたからだ。新型コロナ禍でリリースを急いだとは言え、「技術や開発体制の優劣で開発ベンダーを選ぶ」という選択肢を放棄したことが、現在まで続くバグの遠因になった可能性がある。

「元請けに再委託先の選考を一任」

 遡ると厚労省は2020年5月下旬、COCOAの開発をパーソル プロセス&テクノロジー(パーソルP&T)に発注した。当時同じく開発を急いでいた「HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)」の発注先が同社だったからだ。

 厚労省がCOCOA開発を発注した2020年5月当時、HER-SYSプロジェクトのために元請けベンダーとなったパーソルP&Tにとって降って湧いた接触確認アプリの開発は単独で請け負えるものではなかった。HER-SYS開発が佳境を迎えていたうえ、何より同社は実態として接触確認アプリ調達に十分な知見がなかったからだ。

 「2020年5月当時は接触確認アプリの開発が複数のグループで進んでいることは認識していたが、詳しい開発状況を把握していなかった」。パーソルP&Tで一連の厚労省案件を担当しているDXソリューション統括部の責任者は2020年9月に日経クロステックの取材にこう答えている。

 そこで同社は2020年5月~6月のCOCOA開発初期、「アプリの調達やプロジェクト管理を日本マイクロソフトに全面的に頼った」(パーソルP&TのDXソリューション統括部の責任者)。日本マイクロソフトはパーソルP&Tの下請けとしてHER-SYSの工程管理などを担当していた。

 その結果、パーソルP&Tを元請けに、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)や技術支援で日本マイクロソフトが、COCOA向けクラウドの監視でFIXERが、COCOAの保守開発でエムティーアイが再委託先に名を連ねた。このとき発注者である厚労省は「再委託先はパーソルP&Tに一任しており、厚労省は一切関与していない」(健康局結核感染症課)という。

厚生労働省が調達したシステムとベンダー発注体制
厚生労働省が調達したシステムとベンダー発注体制
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 開発費の流れはこうだ。厚労省はHER-SYSで確保した予算9億4000万円(2020年度第1次補正予算時点)の一部を振り分ける形で、COCOAの開発をパーソルP&Tに発注した。パーソルP&Tはそのうち1615万円をエムティーアイに支払う契約を結んだ。ただし契約当初は保守開発でなく主にユーザーサポート業務を想定したものだった。

 その後、厚労省は予算を積み増して、最終的にパーソルP&Tからエムティーアイなどに支払われたCOCOAの開発関連費は約3億9000万円にのぼるという。2021年2月8日に田村憲久厚労相が国会で答弁した。