日本で発売されてから50年近くになるロングセラー飲料製品「ミロ」が売れている。2019年比で売り上げは約3.5倍(21年3月以降)で、「子供のいない購買層」に限定した購入率を見ると19年同期比で5倍に拡大。きっかけは20年7月にTwitterに投稿されたあるツイートだったという。
購入者層、大人が2年前の約5倍に
「ミロ」は、スイスに本社を置く大手食品・飲料会社ネスレ社が製造、販売するココア味の粉末麦芽飲料だ。不足しやすいカルシウム、鉄という2種のミネラルと、6種のビタミンをバランスよく配合した栄養機能食品で、日本では1973年に発売された。「強い子のミロ」のキャッチフレーズで知られるように、成長期の子供が飲む飲料のイメージが強い。しかしネスレ日本(神戸市)によれば、マレーシアなどのアジア諸国では、年齢を問わず国民的な飲料として、日常的に飲用されているという。
ロングセラー商品であるミロの日本での売り上げが、突然、前年比約2倍に拡大したのは、2020年7月のこと。同年9月末には主力商品の「ネスレ ミロ オリジナル240g」が売れすぎて一時販売休止にせざるをえなくなった。増産態勢を整え同年11月中旬に販売を再開したものの、販売休止中に入手できなかった人たちが殺到し、供給計画をはるかに上回る約7倍超(前年比数量ベース)の発注が続き、翌月の12月8日に今度は日本で販売する全てのミロ(「ネスレ ミロ オリジナル 240g」、「ネスレ ミロ オリジナルスティック 15g×5本入り」、その他チャネル限定品)が販売休止に追い込まれた。
生産態勢をさらに増強したことで、21年3月1日の販売再開以降は安定供給できており、売り上げは19年同期比の約3.5倍に拡大(21年3~8月と19年同期の売上金額ベースでの比較)。
ネスレ日本によれば、特に増えているのが子供(0~18歳)のいない層の顧客で、購入率は約5倍(21年3月~8月と19年同期の比較)と高い伸びを見せたという。また21年6月発表のインテージによる「2021年、上半期売れたものランキング」の「2021年1-5月の金額前年比ランキング」でも、「麦芽飲料」が1位にランクイン(「インテージ 知る Gallery」21年6月30日公開記事)。ミロの売り上げの影響の大きさを感じさせる。
個人ツイートで貧血とミロが結び付く
売上急拡大のきっかけは、実はネスレ日本が仕掛けたものではなく、20年7月に投稿されたあるツイート(現在は削除済み)がバズったこと。「(おそらく医師に)体内の鉄分が平均の7分の1しかないと指摘された」という投稿者が、「ミロを飲んだことで平均値になった」という、貧血解消に関するものだった。
当該ツイートがきっかけで、女性を中心に、貧血の悩みを持つ人たちの間で、ミロを飲んで貧血対策をする「ミロ活」という言葉が広く流布。それまでは「子供のいる家庭」中心に売れていたが、20年夏以降、栄養素の補給が目的と思われる「子供のいない人」の購買数が急増した。ネスレ日本によれば、直近のミロの購入世帯数は「子供のいない家庭」が「子供のいる家庭」を上回っているという。
SNSをきっかけに一時的に商品がヒットする例は珍しくないが、一方で関心を持続し、売り上げを維持するのは容易ではない。だがミロは、元のツイートが削除された後も売り上げを伸ばし続けている。その要因について、ネスレ日本 飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&RTDビジネス部の西川原誠氏は大きく2つあると考えているという。
1つは消費者の問題解決につなげられたこと。日本では多くの大人の女性が鉄分摂取の推奨量を満たしておらず、さまざまな不調の原因となっている。「ミロは牛乳に混ぜて飲むだけで手軽に鉄分やカルシウム、ビタミンDなどが補給できる製品。現代人、特に女性に多い鉄不足の問題解決につながったことが大きいと思う」(西川原氏)
もう1つの要因は、「ミロは健康にいい飲料」というブランドイメージが長年にわたって浸透しており、安心感や信頼感を得られていることだ。「われわれは健康をサポートするミロの良さを、ブランドとしてぶれることなく、伝え続けてきた。あの投稿がなければ現在の状況はなかったと考えられるが、投稿そのものはわれわれが仕掛けたわけではない。関心の高まった商品が、多くの方が飲んだことがあるもので、おいしさや、健康サポートイメージを想起しやすかったことが大きいと思っている」(西川原氏)
確かに、誰も聞いたことのないマイナー商品だったら、試す人も限られただろうし、そもそもバズらなかった可能性が高い。子供の頃に飲んだことがあり、安心感や懐かしさも手伝って「もう一度飲んでみよう」と飲み始め、体調の改善を感じたため継続している……そんな購買層が多いのかもしれない。
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