2020年1月20日、第164回芥川賞・直木賞が発表されました。クリープハイプの尾崎世界観さんや、NEWSの加藤シゲアキさんの作品がノミネートされており、注目度が高かった今回。

芥川賞を受賞したのは、宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)。直木賞を受賞したのは、西條奈加さんの『心淋(うらさび)し川』(集英社)でした。

芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』は、河出書房新社のオウンドメディア「Web河出」で、なんと40ページ分を無料公開中です!

あっという間に読み終わるので、この機会にぜひ!

【40ページをイッキ読み!】

2020年夏に文芸誌『文藝』に掲載されて以降、SNSで大反響を巻き起こした『推し、燃ゆ』。

単行本発売をきっかけに、出だしから40ページ分が「試し読み」として無料公開されました。

物語の最初は

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」

という一文から始まります。

まさしくこの言葉どおり、主人公の “推し” であるアイドルがファンを殴ってしまい “炎上” してしまう……というストーリー。

主人公は炎上事件をきっかけに心の均衡が次第に崩れ、推しを失う痛みに直面して、もがき続けることになるのです。

【描写も会話もリアルです】

ある日のこと「推しがファンを殴った」というセンセーショナルなニュースがネットを駆け巡り、現実味を失うほどショックを受ける主人公。

推しの現状をおもんばかって、日常生活をうまくこなせなくなる描写は、非常にリアルです。

また主人公と姉が交わす会話にもリアリティーがあって、

「どのくらい変わるんだろうね、人気」
さあ、と言った。「ライト層の割合によるんじゃない?」
「流れるからってこと?」
「ステラブ以降のファンとか結構離れると思う」
恋愛映画『ステンレス・ラブ』で推しは急激にファンを増やした。主演ではないがヒロインの後輩役の一途かつ不器用な演技も絡めて人気が出たから、今回の報道は特に痛手だろう。

といった会話は、現実のアイドルファンのあいだでも交わされていそうです。

【推しがいる者として共感しかない】

私が印象に残ったのは「推しは “背骨” 」という表現。

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。

無料公開にもあるこの文章は、心に推しがいる者として、共感せざるを得ない……!

推しの存在は、逃避でも依存でもなく、自分の軸となる「背骨」である。

何度も「いいね」ボタンを押したくなるほどの絶妙な表現で、SNSを中心に大きな話題となったことにも納得です。

直木賞受賞作『心淋し川』と並ぶ話題作の『推し、燃ゆ』。推しがいる人はもちろん、そうでない人も、ぜひ読んでみてください。

参照元:Web河出公益財団法人日本文学振興会
執筆:田端あんじ (c)Pouch