【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのはスタジオジブリのアニメーションの新作『アーヤと魔女』(2021年8月27日公開)です。ジブリ初のフル3DCG作品で、企画は宮崎駿、演出は宮崎吾朗監督。
宮崎駿監督が映画化した『ハウルの動く城』(2004)のダイアナ・ウィン・ジョーンズの児童書の映画化作品です。
劇場で観てきましたよ!いろんな意味で考えさせられる作品でした。では物語から。
【物語】
「こどもの家」で育ったアーヤは何でも思い通りに元気に成長してきましたが、10歳になったとき、ベラ・ヤーガとマンドレークという魔法使いの男女に引き取られました。
アーヤはベラに「私は魔女。手伝いが必要で、アンタを引き取ったんだよ」と言われますが、天真爛漫で気の強いアーヤは「じゃあ、オバサンの手伝いをするから魔法を教えてよ」と交換条件を出しました。
しかし、ベラは魔法を教える気などなく、アーヤをこき使ってばかり。そこでアーヤは反撃に出ることに!
【ジブリ史上、もっともたくましいヒロイン】
これまでジブリ映画には多くの魅力的なヒロインが登場してきました。気の弱いヒロインよりも、苦しんだり悩んだりしながらも、意志を貫こうと闘う女の子が多かったと思います。
アーヤも強い女の子ですが、これまでのヒロインとは違います。彼女は決して凹むことも、弱みを見せることも、葛藤することもない。
その強さは、どちらかといえば、図太さからくる強さ!
アーヤは「こどもの家」で、何でも思い通りにしてきた子で、それを魔法使いの家でも実行しようとします。
「私は何でも操れるのよ」みたいなセリフがあるのですが、すごく自己評価が高いんですね。だから行動に迷いがない。アーヤは魔法使いの家に引き取られて、よりいっそう自分の自信をつけて、たくましくなる!という物語なんですよ。
【強すぎるゆえに、物足りなさも…】
ちなみに宮崎吾朗監督も公式インタビューで「アーヤは良い子じゃない」とはっきり言っています。
「ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの作品は“清く正しく美しく”みたいな子は出て来ません。だいたいクセがあり、悪く言えば自己中心的、良く言えば主義主張がはっきりしていて、人のいいなりになんてならない。それどころか、アーヤは〈操る〉ことで周りを自分の思い通りにしていこうとする女の子。そこにこの作品の面白さを感じました」(公式インタビューより)
良い子じゃないけど、悪い子でもない。ただ、自信に満ち溢れすぎて、うまくいきすぎて、個人的には、逆に物足りなさを感じました。
だって、絶体絶命のピンチをアーヤがどう乗り越えるか……という物語のハイライトがないのですから。
【生きずらい世の中を生き抜く力!】
『アーヤと魔女』は最初にNHKで放映をしており、本作はその劇場版。
“生きずらい世の中を生き抜いていかないとならない、現代の子供たちのために、アーヤのようなたくましさを身に付けてほしい” という宮崎監督の願いが込められている映画なのかもしれません。
ちなみに初の3DCG映像は背景などリアルに描かれていましたが、すでにいろいろな映画で、3DCG映像を観ているので、大きな驚きはなく……。
個人的には、いつものジブリらしい2Dアニメーションで観たかったな~と思いました。
執筆:斎藤 香(C)Pouch
『アーヤと魔女』
(2021年8月27日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
原作:Diana Wynne Jones 田中薫子 訳 佐竹美保 絵/徳間書店刊
企画:宮崎 駿
監督:宮崎吾朗
声の出演:寺島しのぶ(ベラ) 豊川悦司(マンドレーク) 濱田 岳(猫のトーマス)平澤宏々路(アーヤ)
※宮崎駿さんの「崎」は正しい文字が環境により表示できないため、「崎」を代用文字としています。
(C)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
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