海自と防衛産業 癒着構造にメスを入れよ(2025年1月20日西日本新聞『』-「社説」)
公表された海上自衛隊と防衛産業との癒着は一部でしかない。徹底した調査で全容を明らかにし、うみを出し切らなくてはならない。
海自の潜水艦修理を受注した川崎重工業が、少なくとも40年ほど前から他企業との架空取引で裏金をつくり、潜水艦乗員への物品提供や飲食接待に使っていた。
架空取引による裏金は、判明した2023年度までの6年間で約17億円に上る。養生材などを大量発注したように装っていた。
これらは、防衛省の特別防衛監察と川重の特別調査委員会が昨年12月下旬に発表した中間報告の内容だ。組織的な不正が長期間にわたって続いていたことがうかがえる。
乗員に提供された物品は、潜水艦業務に使う照明器具や防寒具のほか、ゲーム機やゴルフ用品など私的な娯楽用品が含まれていた。ビール券や商品券、懇親会の飲食費にも充てていた。
海自側が「要望品リスト」を渡していたというから、あきれるほかない。
潜水艦は年1回、数カ月の検査が必要だ。乗員はドックに近い川重の施設に滞在し、社員らと共同で作業に従事している。このときに癒着を深めていったとみられる。
これほどの不正が、長くただされなかったのはなぜか。海自と川重は国民に説明してもらいたい。規範意識の欠如どころではない。
不正は大阪国税局の川重に対する税務調査で発覚した。
防衛省が修理に必要な原価を調査したところ、川重は架空取引の費用を含めて報告していた。利益が出過ぎて、将来の契約金額が下がらないようにするためという。
担当社員と潜水艦乗員との関係が悪化しないようにする意図もあった。
国民の税金をだまし取るのと同じことだ。防衛省は超過利益を算定し、川重に返納を求める。当然の措置だ。
潜水艦修理を受注する別の企業で問題がないかも確かめる必要がある。
今後、不正の全容が把握できた段階で関係者を処分し、再発防止に向けて隊員の法令順守を徹底することになる。それだけでは足りない。
防衛力を抜本的に強化する政府方針に沿って、防衛費は27年度までの5年間で総額43兆円を投じる。これは規模ありきで、使途が精査されているとは言い難い。
今回の問題のように予算がいいかげんに使われるなら、防衛費増額に対する国民の疑念は膨らむ。政府はそう自覚すべきだ。
川重と海自の癒着 組織体質の改善徹底的に(2025年1月14日『新潟日報』-「社説」)
癒着が長期にわたり、構造的に続いてきたことが明白になった。断絶に向けて両組織は体質改善を急ぎ、徹底的な意識改革に取り組むことが欠かせない。
架空取引は遅くとも約40年前に始まり、額は2023年度までの6年間だけで計約17億円に上る実態が判明した。
川重の工事担当者(工担)は、作業後に撤去されるため証拠が残らない養生材を取引先企業に大量発注したように装うなどして、裏金を捻出したという。
取引先から納品された物品と、工担が発注した内容を突き合わせることもなく、過去に工担を経験した上司の決裁を素通りした。
組織的な裏金づくりがまかり通っていた。あきれる事態だ。
裏金の使途もあぜんとする内容だ。防寒着や雨具など業務に必要な物品にとどまらず、飲食接待や、乗員向けの家電製品、携帯用ゲーム機など、任務と無関係のものが含まれていた。
乗員側から要望リストが渡され、中には乗員が自宅に配送を頼むケースもあった。
川重側には、乗員との関係構築や、利益が出すぎて契約金額が下がらないように、原価をかさ増しする目的があったという。
海自側は、防衛費が今より少なかった時代に、部隊から十分に物品が支給されず、川重側に頼ったことがきっかけになった。
しかし、それぞれの主張は、不正行為を40年も続けてきたことの言い訳にもならない。川重、海自とも、国民の血税を使うことへの意識が著しく欠けている。
不正が発覚せずにきた背景について、川重の橋本康彦社長は、潜水艦を修理する担当部署が人材の入れ替えが少ない「閉じた組織」だったことを挙げた。
潜水艦の製造や修理は2社が独占しており、市場原理による競争が働かない。乗員と担当者のなれ合いが続けば、同じことが繰り返される懸念がある。
双方の組織は、個人の問題と矮小(わいしょう)化せず、組織風土を変える改革に本気で取り組むべきだ。
中間報告を昨年の仕事納めの日に公表した対応も疑問だ。
自衛隊では昨年、潜水手当の不正受給をはじめ、信頼を揺るがす不祥事が相次いで表面化した。
処遇改善は大事だが、そもそも、不正が相次ぐ組織に人材が集まるはずはない。
規範意識の欠如が甚だしい。防衛産業大手の川崎重工業が海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡み、架空取引で裏金を捻出し、潜水艦乗員に物品を提供していた問題だ。提供品には家電製品や携帯用ゲーム機もあり、乗員から要望リストが渡っていた。雨具や防寒着の多くは有名メーカーのブランド品だったという。業務で必要な物ならば自らの組織で正規の手続きを経て購入すべきであり、私物ならば自己負担するのが当然だ。
中間報告によると、川重の工事担当者らは取引先企業と結託し、作業後に撤去されるため証拠が残らない「養生材」を大量発注したように装って資金を捻出。一部を裏金としてプールし、乗員向けの物品購入や飲食接待などに充ててきた。架空取引は遅くとも約40年前に始まり、その額は2023年度までの直近6年間だけで計約17億円に上る。年数の長さと金額の大きさにあぜんとする。
川重側には乗員との関係構築や、利益が出過ぎて契約金額の引き下げにならないよう原価をかさ増しする目的があったという。だが、同社が架空取引分を含めた修理費を国に報告したことで多額の税金が無駄遣いされたことになる。「国民の血税」を使うという意識が欠けていたと言わざるを得ない。
海自側のチェック機能が不十分だったことも明らかだ。政府は23~27年度の防衛費総額を約43兆円とする方針で予算を急増させている。財源確保のため、来年4月には法人税とたばこ税の増税を始める方針だが、ずさんな税金の使い方をしていては国民の理解を得られまい。
潜水艦は自衛隊の装備品の中でも特に機密性や専門性が高く、事業への新規参入は事実上不可能という特殊な環境がある。海自は現在25隻を保有しており、いずれも川重と三菱重工業が製造した。3年に1度の定期検査、それに伴う修繕作業などは基本的に2社が担っている。競争原理が働きにくい中、官と民の間で癒着、なれ合いが生じたのではないか。
特別防衛監察では三菱重工も一部の修理契約で仕様書と異なる対応が判明している。川重と同様、相当額を調べて返還させるという。
不足する自衛官 有為な人材確保へ規律を正せ(2025年1月11日『読売新聞』-「社説」)
日本周辺の安全保障環境が悪化し、大規模な災害も多発している現状を踏まえれば、自衛官のなり手不足を解消することは急務と言える。
自衛官の定員割れは深刻だ。約24万7000人の定員に対し、実際の人数は常に2万人前後下回っている。
こうした状況を改善するため、政府は、自衛官の確保に向けた基本方針をまとめた。
自衛隊には、最初から任官される自衛官のほか、一部に教育訓練を経てから任官される自衛官候補生の制度がある。基本方針はこの候補生制度を廃止し、当初から任期を限った自衛官として採用する制度に改めることを明記した。
自衛官候補生の初任給は最近まで15万7100円で、警視庁の警察官(19万3400円)などと比べると見劣りするため、自衛官採用の 足枷 あしかせ になっているとの指摘が出ていた。新たな任期付き自衛官の初任給は22万円超とする。
また、航空管制や野外演習などの手当を新設する。さらに隊舎内の居室の個室化を進め、主な艦艇ではSNSを使えるようにするという。生活・勤務環境の改善を求める声に応える狙いがある。
近年、自衛隊の役割は拡大する一方だ。中露や北朝鮮の脅威が高まり、空海域での警戒監視の任務は大幅に増えた。また、災害時には人命救助に限らず、がれきの撤去なども手掛けている。感染した家畜の殺処分も担っている。
国民の生命・財産を守るため、多様な任務をこなしている自衛官の処遇を改善するのは当然だ。有為な人材を確保し、任務の遂行に支障が生じないようにしたい。
なり手不足の背景には退職後の生活不安もあるのではないか。
自衛官の定年は一部の幹部を除き、働き盛りの55~56歳だ。一般企業に比べて早くにリタイアしてもらうのは、自衛隊の精強さを保つためだが、最近は体力のある中高年も増えている。定年の大幅な引き上げは検討課題となろう。
政府を挙げて、各業界や経済団体に幅広く退職自衛官の再就職を働きかけることも大切だ。自衛官の中には特殊車両や操縦士などの免許を持っている人もいる。そうした技能や知見は、物流や航空などの分野で生かせるだろう。
もっとも、いくら処遇を改善しても自衛隊の組織風土が堕落していたら、人は集まるまい。ハラスメントや手当の不正受給、機密情報の不適切な取り扱いといった不祥事を一掃し、規律ある組織へと改めていくことが不可欠だ。
川重が海自に便宜供与 癒着の構造断ち切る時だ(2025年1月9日『毎日新聞』-「社説」)
自衛隊と防衛産業の長年にわたる癒着の構造が明るみに出た。今こそ悪弊を断ち切る時だ。
艦内業務に使用する部品や工具だけでなく、家電やゲーム機、ゴルフ用品、釣り具、腕時計まで贈られていた。
川重は神戸工場で潜水艦の定期的な検査をする際、下請け業者との資材などの取引を装い、2023年度までの6年間だけで約17億円の裏金を作っていた。
それを物品の購入に充てたほか、乗組員との飲食代に使ったという証言もある。架空取引や物品提供は遅くとも40年前から始まっていた。
業務用の部品などは本来、正規の手続きで入手すべきだが、時間がかかることなどから、早急に対応してくれる川重に依頼していたという。
より悪質なのは、海自側が私物を含め、要求する物品のリストを作っていたことだ。長期間、組織的に続けられており、順法意識の欠如は明らかだ。
川重は「要求を断れなかった」と説明しているが、ビジネス上のメリットもあった。
提供した物品の費用は、潜水艦の点検・修理の原価に含められた。原価を水増しして利益率を少なく見せかけることで、将来の受注額を削られないようにする思惑があったとみられる。
結果的に税金が無駄に使われていたことになり、看過できない。防衛省が川重に過剰請求分の返還を求めるのは当然だ。全容の解明を急ぎ、関与した乗組員を厳正に処分すべきだ。
今回の不正は、川重に対する税務当局の調査で初めて判明した。自衛隊、川重の双方でチェック機能が働かなかったことは深刻だ。
防衛費は増額され、27年度までの5年間で計43兆円が投じられる。より厳格な予算執行が求められている。
海自と防衛産業 国民裏切る癒着の構造(2025年1月9日『京都新聞』-「社説」)
防衛産業との根深い癒着の実態に、政府が急拡大させる防衛費の内実を疑わざるを得ない。
乗員側から家電製品などを要望する「おねだり」も常態化していた。その原資は契約金額を膨らませた防衛費であり、許し難い。
「防衛力増強」に巣くう産業との癒着や、腐敗の構造に徹底したメスを入れなければ、防衛のための増税など国民に理解されまい。
中間報告によると、川重は取引先企業と結託して養生材などの大量発注を装い、2023年度までの6年間だけで計17億円を捻出。うち約6億円を裏金とし、乗員向けの携帯用ゲーム機や服飾の購入、飲食接待に充てていた。乗員側は靴サイズまでリスト化して要望しており、あぜんとする。
川重側には現場の関係構築に加え、利益が目立って契約金額が下がらないよう、積算額をかさ増しする目的があったという。
国内で潜水艦建造・修理は川重と三菱重工業だけに限られる。防衛関連は市場競争が働かず、相次いだ過剰請求や汚職、談合への対策として15年発足の防衛装備庁に調達を一本化したが、架空取引を上乗せした契約が見逃されてきた。なれ合いは現場レベルにとどまるだろうか。三菱重工とも問題契約が見つかった。
川重や三菱重工の防衛関連の受注額は23年度に2倍超に増えて急拡大している。
防衛省は川重を厳重注意し、過剰分の返納を求めるが、それで済む話ではない。膨らむ支出内容の厳正な精査と関係者の処分、実効性ある再発防止策が欠かせない。
近年の防衛力強化では、高額な戦闘機やミサイルを「爆買い」する一方、約2万人の隊員定員割れを踏まえ、給与引き上げなど処遇改善方針を掲げた。
国防の足元を見つめ直さねばならない。
陸上自衛隊第15旅団(那覇市)は、沖縄戦を指揮した日本軍第32軍の牛島満司令官の「辞世の句」を公式ホームページ(HP)に再掲載した。昨年10月、「ホームページのリニューアル」を理由に取り下げていたが、今月1日の更新で再掲載した。
15旅団は2018年のHP開設時から、前身の臨時第1混成群の初代群長が1972年の沖縄施政権返還の時に出した訓示と共に牛島司令官の句を掲載していた。昨年6月以来、「自衛隊と日本軍を一体化するもの」との批判が上がっていた。
15旅団は師団への移行を予定している。今回の再掲載について15旅団は「2027年度までに(旅団から)師団になるにあたって、県民の理解が不可欠だ。当時の資料をそのまま示すことにした」と説明する。
この説明は受け入れられない。15旅団の師団化に向けて県民の理解を得るための広報活動に牛島司令官の句が必要なのか。逆に県民の不信をあおるだけである。ただちに掲載を取りやめるべきだ。
1945年6月18日、沖縄本島南部での戦闘が最終局面にある中で、牛島司令官は陸軍首脳に宛てた決別電と共に二つの「辞世の句」を発した。決別電は沖縄戦での敗退を天皇や国民にわび、残存兵力によって「最後の一戦」を展開するという内容である。HPに掲載された句は戦場となった沖縄が「御国の春」によみがえることを願うもので決別電と一体を成している。
これらの「決別電」や「辞世の句」からは沖縄県民を根こそぎ動員して、戦場へと駆り立てた末、本土決戦準備のための持久戦を長引かせ県民に多大な犠牲を強いた第32軍の罪や牛島司令官の責任を読み取ることはできない。ここに貫かれた「皇軍の論理」は戦争を放棄した日本国憲法によって明確に否定されたはずである。
専守防衛という戦後日本の国是から逸脱する形で急速な軍事要塞化が沖縄の島々で進んでいる。今回の「辞世の句」再掲載もそれと符合するものとも言えよう。沖縄を再び軍事的な防波堤とする動きに抵抗する意味でも再掲載を認めるわけにいかない。
【川重の裏金問題】官民癒着のつけは国民に(2025年1月8日『高知新聞』-「社説」)
「潜水艦ムラ」で官民が甘い汁を分け合い、そのつけは国民に及んでいた。信頼を大きく損ねる事案だ。実態を徹底調査し、説明責任を果たさなければならない。
海上自衛隊の潜水艦修理を巡って浮上している裏金問題で、防衛省が特別防衛監察の中間報告を公表した。修理業務を請け負う川崎重工業が架空取引で裏金を捻出し、海自の乗員にも利益供与していた実態が、まだ不透明な部分はあるものの明らかになった。
川重は取引先企業と結託し、養生材などを大量発注したように装って資金を捻出。金は社内で使ったり、乗員に物品を提供したりしていた。架空取引は遅くとも約40年前に始まり、2023年度までの6年間で計17億円に上るという。
看過できないのは、国による修理費の原価調査に対して、川重が架空取引を含めた費用を報告していたことだ。予算額に反映されて、本来は不要な公費が支出されてきた可能性が拭えない。
川重側は、乗員との関係づくりのほか、利益が出過ぎて契約金額が下がらないよう原価をかさ増しする目的があったとするが、規範意識を欠いていたのは明らかだ。公金詐取と言われても仕方なく、防衛省が過剰分の返納を求めるのは当然だ。
一方で、海自側の意識や対応も批判を免れない。川重側から提供した物品には家電製品や携帯用ゲーム機、Tシャツなどが含まれ、乗員からの要望リストがあった。飲食代にも使われたとされ、たかっていた疑いもある。受発注関係にある民間企業との付き合い方としてはあまりに不適切だ。
癒着の背景には、潜水艦は自衛隊の装備品の中でも専門性や機密性が高く、他社の新規参入も難しい環境が挙がる。海自の潜水艦は川重と三菱重工業の2社が製造し、定期検査なども両社がほぼ担う。そのために「なれ合い」が生まれやすいとされ、特別監察では三菱重工業でも不明朗な取引が判明している。
防衛省、自衛隊を巡っては昨年、特定秘密の不適切運用や海自隊員による潜水手当不正受給など不祥事が相次いで発覚。7月には最高幹部を含めて200人以上が処分され、組織の緩みや順法意識の欠如を露呈した。潜水艦修理を巡る民間との癒着も、そうした課題が顕在化した結果だとみてよい。
緊迫する東アジア情勢を背景に、政府は防衛力の抜本強化を決め、そのための増税を国民に求めている。しかし、今回のような無駄遣いとも捉えられる使い方がまかり通るなら国民の理解も得られない。
防衛装備の費用の多寡は、国民には判断が難しい面もある。適正化を進め、透明性を高める取り組みも進める必要がある。
自衛隊の不祥事 国民の信頼失墜させる愚行だ(2024年12月29日『読売新聞』-「社説」)
川重側が接待費に充てるために行っていた下請け企業との架空取引は、2018~23年度の6年間だけでも約17億円に上っていたことがわかった。架空取引は40年近く行われていたという。
架空取引で捻出した裏金は、乗組員から要望があった炊飯器や冷蔵庫といった備品の購入や、乗組員との飲食に使われていた。
特別防衛監察では、三菱重工業も海自に、契約にはない備品を納入していたことが判明した。
自衛隊と防衛産業大手が「癒着」していたら、防衛費の増額に疑いの目が向けられても仕方ない。不正の根絶が不可欠だ。
防衛省は、安全保障上の機密情報である「特定秘密」に関連した新たな不祥事なども発表した。
なぜ書類を偽造したのか。廃棄は本当なのか。防衛省は徹底的に調査する必要がある。
非公表とした判断について、防衛省は「犯罪の組織性が疑われていたためだ」としているが、実態を解明して説明すべきだ。中谷防衛相は、この対応が適切だったかどうか検証してほしい。
このほか、海自隊員が潜水手当を不正に受給していた問題では、新たに86人を処分した。すでに公表した分と合わせ、処分者は160人に上った。順法精神の欠如には目を覆いたくなる。
川重は遅くとも約40年前から下請け企業との架空取引で資金を捻出し、潜水艦の乗組員に家電や高級ブランド品などを贈っていた。架空取引の金額は2023年度までの6年間だけで約17億円に上り、一部は裏金としてプールしていた。
橋本康彦社長は会見で「(担当部署は)人事のローテーションがほとんどなく、中に閉じこもっていた」「残念ながらまったく関知できなかった」と述べ、謝罪した。
不正を防ぐ仕組みの立て直しと風土改革が求められる。川重は11月1日付で社長直轄の「防衛事業管理本部」を設けた。潜水艦や航空機といった機密性の高い防衛事業のコンプライアンスを一括して監査するという。実効性を高めてほしい。
組織統制が厳しく問われるのは、海自も同様である。
あきれたことに、乗組員がリストを川重側に渡し、ゲーム機などを要求していた。約20年前から金額がエスカレートし、飲食費のツケ払いにも充てられたという。調査に「(応じないと)業務がしづらいと感じた」と語った川重社員もいる。乗組員が企業にたかる悪習があったのではないか。
川重は、架空取引を含めた修理費を国の原価調査に報告していた。利益が出過ぎて防衛省との契約金額が下がらないように、原価をかさ増しする目的だったという。防衛装備品をめぐる官民の癒着そのものであり、徹底調査が不可欠だ。
25年度の政府予算案で、防衛費は過去最大の8・7兆円が計上された。膨張する防衛費の積算根拠は果たして信頼に足るのか、国民が疑念を抱くのは当然である。防衛省はこのたびの不正の全容解明を急ぎ、説明責任を果たすとともに、再発防止を徹底しなければならない。
川重の不正/官と民の癒着を断ち切れ(2024年12月29日『神戸新聞』-「社説」)
閉鎖的な組織は「事なかれ主義」に陥りやすく、不正行為に対する感覚が鈍くなる。
海上自衛隊の潜水艦修理をめぐる裏金問題で、川崎重工業(神戸市中央区)が発表した特別調査委員会の調査報告は、潜水艦の修理や検査を担当する部署のコンプライアンス(法令順守)を軽視する風土や、会社として自浄作用が機能しなかったことを浮き彫りにした。
川重は遅くとも約40年前から下請け企業との架空取引で資金を捻出し、潜水艦の乗組員に家電や高級ブランド品などを贈っていた。架空取引の金額は2023年度までの6年間だけで約17億円に上り、一部は裏金としてプールしていた。
橋本康彦社長は会見で「(担当部署は)人事のローテーションがほとんどなく、中に閉じこもっていた」「残念ながらまったく関知できなかった」と述べ、謝罪した。
不正を防ぐ仕組みの立て直しと風土改革が求められる。川重は11月1日付で社長直轄の「防衛事業管理本部」を設けた。潜水艦や航空機といった機密性の高い防衛事業のコンプライアンスを一括して監査するという。実効性を高めてほしい。
組織統制が厳しく問われるのは、海自も同様である。
あきれたことに、乗組員がリストを川重側に渡し、ゲーム機などを要求していた。約20年前から金額がエスカレートし、飲食費のツケ払いにも充てられたという。調査に「(応じないと)業務がしづらいと感じた」と語った川重社員もいる。乗組員が企業にたかる悪習があったのではないか。
川重は、架空取引を含めた修理費を国の原価調査に報告していた。利益が出過ぎて防衛省との契約金額が下がらないように、原価をかさ増しする目的だったという。防衛装備品をめぐる官民の癒着そのものであり、徹底調査が不可欠だ。
25年度の政府予算案で、防衛費は過去最大の8・7兆円が計上された。膨張する防衛費の積算根拠は果たして信頼に足るのか、国民が疑念を抱くのは当然である。防衛省はこのたびの不正の全容解明を急ぎ、説明責任を果たすとともに、再発防止を徹底しなければならない。
自衛隊の人員不足が深刻化している。人口減少下でも持続可能な組織にしなければならない。
石破茂首相が議長を務める関係閣僚会議が、対策の基本方針をまとめた。
現在の定員は約24万7000人だが、約2万3000人が不足している。昨年度は約2万人を募集したが、半数程度しか採用できなかった。
警察や消防、民間企業との人材獲得競争で後れを取っている。危険な任務が多く、組織に古い体質が残っていることも若者らに敬遠される一因とみられる。
対策の柱は処遇の改善だ。警察官と横並びの給与水準を引き上げる。隊舎で生活する新入隊員への給付金などを新設し、既存手当も拡充する。
定年後の生活を安定させるため、再就職支援も強化する。
自衛官は一般公務員より定年が早く、多くは56歳で退職する。再就職先のあっせんや、転職先の給与とは別に支払う給付金の水準を高める。
岸田政権は防衛費に2027年度までの5年間で総額43兆円を充てると決めた。装備拡充に注力する一方で、使いこなす人的基盤の強化への目配りは乏しかった。
本来の業務以外の仕事を兼務せざるを得ないなどの支障が生じている。企業でも賃上げが進んでおり、対策は必要だ。
ただ、経済的に困窮する若者らの弱みにつけ込むような形で、募集することは慎むべきである。
人手不足は日本の構造的な課題となっている。無人機の導入や人工知能(AI)による業務の効率化が不可欠だ。サイバーや宇宙など新たな領域に対処する人材の育成も求められる。陸海空の人員構成の見直しも欠かせない。
方針では「組織文化の改革」もうたっている。若者らがやりがいを実感でき、働きやすい組織に向けて体質を改善することが問題解決への第一歩となる。
川重だけではない。三菱重工も、川重に比べ少額とみられるが、仕様書にない備品を納入していたことが特別監察で判明した。調査を徹底させ、根深い癒着のうみを出し切らなければならない。
中間報告によると、川重が繰り返した架空取引は2018年度からの6年間で約17億円に上る。一部をプールして裏金にする一方、架空取引分は経費に加えて計上し、防衛省に報告していたという。
架空取引で捻出した十数億円については、国税局も経費とは認めず、所得隠しをしていたと判断するようだ。厳しい対応が求められる。
海自の潜水艦は25隻全て、川重か三菱重工が製造。1年ごとの運用検査や3年に1度の定期検査と、それに伴う修繕作業、臨時の修理も原則、この2社が担っている。
修繕作業中など、川重社員と潜水艦の乗員が一緒に過ごす時間が長くなっていた。それが長年続き「社員は制服を着ていない自衛官」といった身内意識が双方に芽生えた。こうした環境が「なれ合い」を生み、隊員はけじめを欠き、公務員倫理にもとる行動をとってしまったようだ。
裏金による具体的な金品提供の詳細は、特別監察で調査を続けている。今のところ、飲食接待のほか、商品券や携帯型ゲーム機、ブランド品の作業着、高額の家電製品などを贈ったとみられている。多岐にわたる金品は、両者の深いなれ合いを象徴している。
架空取引は一体いつ始まったのかは分かっていない。中間報告は18年度からと判断したが、10年以上も前からの慣行だったとの指摘もある。川重自身も調査中だ。防衛省の発注額は適正だったのか。金品提供は川重か海自か、どちらの主導か。それらを含めて明らかにすべきことは多い。
自衛隊・防衛省は7月に、特定秘密の不適切運用などで過去最大級となる218人もの大量処分をしたばかり。うち、海自トップの海上幕僚長を含む117人が懲戒処分になった。組織の規律が緩んでいないか。不正を許さぬよう隊員の意識改革や、組織風土の抜本的改善が急がれる。
まずは、防衛産業との癒着の全容解明が不可欠だ。それをせずして、再発防止も望めないし、防衛増税への理解も進むはずはない。
政府が自衛官の処遇を改善する基本方針をまとめた。日本周辺の安全保障環境などが悪化するにつれ、自衛隊の任務の幅も広がっている。国を守る担い手の確保は安保上の喫緊の課題であり、総力を挙げて取り組むべきだ。
石破茂首相が議長を務める関係閣僚会議で決めた基本方針は、自衛官の給与水準の引き上げや勤務環境の改善、退職後の再就職支援などが柱だ。特殊任務や重要任務に就く人向けの計33の手当の新設・拡充や、体力面の観点から多くの隊員が50代で迎える定年年齢の引き上げの検討などを盛った。
一方で自衛官は定員およそ24万7千人のうち3月末時点で1割ほどの欠員が生じた。昨年度の採用想定人数の充足率は過去最低の51%だ。訓練を受けて2〜3年の勤務に就く任期制自衛官の候補生ら現場の隊員が減っている。
政府は防衛予算の大幅増と新たな装備品の取得を打ち出したが、それを使いこなす人的基盤が心もとない。安心できる生活設計を含めた一定の待遇の改善策は人を集めやすくするうえでも妥当だ。
高い士気で国防にあたる人材を質量ともに維持するため、国は手を尽くさねばならない。