特別講演
ゲノム情報×ビッグデータ解析による予防医療
是川幸士
NTT メディカル事業推進室長
兼 NTTライフサイエンス 代表取締役社長
働き手が減少する時代。企業が実践するべきは「健康経営」
我が国では少子高齢化、人口減少が予測され、とくに生産年齢人口が減っていくといわれています。つまり企業にとっては今後ますます働き手が減っていくという課題があります。一方、医療費は2040年には現在の1.8倍、約70兆円にも膨れ上がると言われています。こういったことを踏まえ、企業においては従業員の確保、一人ひとりの生産性の向上が求められるわけです。
そこで企業が取り組むべきは、従業員の健康に対する積極的、継続的な関与、健康経営の推進だと考えます 。健康経営とは、企業の将来的な収益性を高めるという考えのもと、従業員の健康管理を行うものであり、健康経営の取り組みに関しては経産省などを通じて国レベルで様々なことが行われています。ただ企業のアンケート結果を見ると、まだ健康経営は十分に実践されていないのが実態ではないでしょうか。個人においてもなかなか健康意識というのは高まりませんし、継続するのも難しいことです。また企業も健康経営やデータ活用の重要性は分かるけれども、どこから取り組めばいいのか、また何をすればいいのかが難しいのだろうと思います。
こうした現状において、私どもは毎年健康診断を受ける従業員の数、年間約6,200万人という数字に着目しました。この健康診断は個人の健康意識を高めることにつながる機会ですが、それに加えて、個人の健康状態を表す検査値データや生活習慣を把握するうえでも重要な機会です。この貴重な機会を、ICTとかけ合わせるなかで、個人の健康意識を高め、また継続させられるようなサービスを提供できればと考え、私たちは「健康経営サポートサービス」をつくりました。このサービスは遺伝子検査、行動変容支援、健康経営コンサルティングの3つの機能で構成されています。この健康経営サポートサービスを通じて、従業員の皆様には遺伝子検査を受診していただき、行動変容のアドバイスを提供、また企業の皆様には従業員全体の健康経営の促進をサポートしていきたいと考えています。
健康経営サポートサービスが個人の健康増進に寄与
NTTライフサイエンスは、NTTグループとして、ライフサイエンス分野に積極的に取り組んでいくことを目的に、 2019年7月に新たに設立しました。この会社はパーソナルデータを活用して従業員自身の健康増進につないでいくような取り組みをしていきたいと考えています。
NTTライフサイエンスが提供するサービスの主な3つの特徴ですが、まずはスーパーヒーローモデルの確立です。既存の遺伝子検査は研究論文に基づき疾患リスクを解析・判定するものですが、我々が提供するサービスはこれに過去からの健診・問診データを組み合わせて新たな知見を導きます。このなかから健康な状態である方がどのような生活習慣を実践されていたのか、過去のデータからスーパーヒーローモデルとして確立し、その生活習慣を他の方々にも行っていただきたいと考えています。この研究は東京大学医科学研究所とのコラボで進めており、NTTライフサイエンスがこの共同研究から生み出された成果を社会に実装していきます。
2つ目は遺伝子検査を受けていただくと個別に疾患リスクの結果がフィードバックされますが、これだけでは生活習慣の改善にいたるような行動変容につなげるのは難しいと思われるため、スマホアプリを使った運動管理や食事管理などに取り組んでいきます。3つ目は全国の医療機関との提携です。健康経営サポートサービスを、様々な企業の方にご利用いただけるインフラとして展開できればと考えています。
ゲノムはこれからも解明が進む分野です。我々は今後、よりゲノムと健康の関係について解明し、またその支援をしていきたいと考えています。我々が提供する健康経営サポートのプラットフォームを多くの皆様にご活用いただいて、企業の価値向上はもとより、個人の健康増進につなげていきたいと思います。