はじめに
積水ハウスは、もともと鉄骨建築主体のハウスメーカー(HM)ですが、1995年に木造建築であるシャーウッドを発売しました。決算発表時の資料を見ると、今では受注件数の3~4割を木造(シャーウッド)が占めているようです。
マイホーム建築を考えるなか、当初は鉄骨志向で、ヘーベルハウス、パナソニックホームズ、積水ハウスが気になっていました。一方、断熱・気密を考慮すると木造志向になり、住友林業推しに。検討を重ねるうちに、意中のHMが、住友林業→三井ホーム→積水ハウスと変わっていき、木造のシャーウッドで建てることになりました。
振り返って、「積水ハウスで建てるなら、鉄骨と木造のどっち?」という点について、改めて考えてみました。
積水ハウスの営業マンに聞いてみた
数年前、最初に積水ハウスの営業マン(今回担当してくれたIさんとは違う方です)に鉄骨と木造、何を基準にしてどちらを選べば良いのか聞いてみたことがあります。すると、
当時の営業マン:
- インテリアは木造でも鉄骨でも同じように施工できます
- 他の面でも片方でできることは、他方でもほとんど実現可能です
- ベルバーン(シャーウッド用の外壁材)とダインコンクリート(鉄骨建築用の外壁材)のどちらが好きか?で決めればいいと思います
これを聞いて、
「家の躯体のような大事なものを、外壁材の好き嫌いで選べって、なんていい加減なんだ!勉強していないか、質問への回答を面倒臭がっているか、いずれにしても真摯な態度じゃない!」
と、この営業マンに対する不信感が一気に募りました。これだけが原因だったわけではありませんが、最初の営業マンに対する評価が決定的になるのに、この時のやりとりは大きかったです…。
それもあって、2023年春に本格的に家づくりに取り組む際は、新たな営業マンについてもらいました。それが今担当してくれているIさんです。
契約前ですが、打合せをはじめて3か月ぐらいたったころ、Iさんに同じ質問をしたことがあります。すると・・・。
Iさん:
「どっちでも同じことができますよ。ベルバーンとダインコンクリートのどっちが好きかで決めればいいんじゃないですか?」
と同じ答えでした。最初の営業マンさん、ごめんなさい。きっとこれは会社からそう言えと教育されているのですね。
それでも性懲り無く展示場見学の際、別の方に同じ質問をしたところ、
別の営業マン:
「鉄骨も木造も数字的には同じ性能を出せますが、お客様からの声を聞くと、体感では木造の方が暑い夏や寒い冬に快適という印象を受けてます」
と話してくださる方もいました。きっとこれは、言っちゃいけないんでしょうね。
全体として、積水ハウスは鉄骨も木造も両方大事にしており、他方の価値や印象を棄損することはしないように、バランスを取っているように感じます。
社内の体制
営業部隊
以前は、木造住宅と鉄骨住宅で営業部隊が分けられていたこともあるようです。木造のモデルハウスに行くと木造住宅の営業部隊が、鉄骨のモデルハウスに行くと鉄骨住宅の営業部隊がいるイメージだったのでしょうか?
しかしながら、数年前から営業部隊は統合されており、現在は同じ営業マンが同時に鉄骨住宅と木造住宅を担当していることが一般的だそうです。そもそも、打合せの途中で施主が木造→鉄骨、または鉄骨→木造に変更することもあるようで、同じ営業マンが両方担当できる方が、理にかなっていますね。
設計士・インテリアコーディネーター
これに対して、設計士については、設計を担当できる資格?が、鉄骨住宅と木造住宅で異なっているようで、両方持っている設計士もいる一方、片方だけを扱っている設計士もいるとのことでした。
質問したことはないのですが、インテリアコーディネーターは特に鉄骨・木造で分かれていなさそうに見えます。
鉄骨の位置づけ(完全な推測!)
「省エネが一層重要になる中で、断熱性を高めるためには鉄骨住宅は不利だから、今後は鉄骨メーカーは苦戦する。徐々に木造にシフトしていくはず」という声をちらほら耳にします。
しかしながら、積水ハウスは今後も鉄骨を大事にしていくのではないかと感じています。これまで鉄骨住宅の研究開発に投じてきたコストを無駄にしないという、サンクコストの観点もありますが、より大きいのはシャーメゾンや、住居とオフィス・商店併設型建物で使われる重量鉄骨建築が存在するためです。
積水ハウスのセグメント別売上や収益を見ると、シャーメゾン部門の比率は高く、将来性も請負ビジネス(注文住宅)より高いと考えられます。シャーメゾンは戸建よりも規模が大きいため、軽量ないし重量鉄骨建築が基本です。
鉄骨住宅でないとできないこと、あるいは鉄骨住宅の方が低コストでできるケースというのは依然として存在するはずです。コアビジネスの一つとして鉄骨建築を追求していくとすれば、資材調達・研究開発の観点でも、それを注文住宅に生かさない手はないと思うのです。
鉄骨でないとできないこと
積水ハウスの仕様では、木造建築の場合、スパン(柱と柱の間隔)は最大6mだそうです。これに対して鉄骨の場合、スパンは最大7mまで取れます。
木造で6mのスパンを取るのは結構大変
私たちのプランでは、5mx5.5mのリビングと、4.5mx6mのDKが隣接しており、LDK全体で9.5mx5.5m(途中から6m、約32畳)の柱無し空間をとりました。スパンで見るとシャーウッドの規格ぎりぎりの横幅になります。
仮にこれ以上広い空間を取ろうとしても幅は広げられないので、縦を伸ばして細長くするか、L字型の構造にするしかありません。実際にはこれ以上広げるニーズが無かったため、表面的には問題は無かったのですが、やはり一筋縄ではいきませんでした。直接的には、
- 一階天井の梁が非常に太くなった。結果として、天井に埋め込みできるものに制約ができるなど副作用も発生しました。コスト面でも影響しているはずです。
- デザインと耐震性を両立させるため、屋内の耐力壁の取り方が少し変則的になった。これは施工段階で大きな問題が発生する要因になった。←問題は解決しています。
といった副作用がありました。また、設計士のOさんは構造計算をしながら、慎重に柱や梁の配置・種類を調整してくれていました。こうしたことができる・やる気のある設計士でなかったら、私たちの間取りは実現できていなかったと思います。
鉄骨であれば、少なくとも1m余裕がある
もし鉄骨建築であれば、私たちの間取りでもまだあと1m分横幅に余裕があります。つまり、強度的なゆとりがあるということです。このゆとりを空間に広げるのに使うことできますし、コスト面でのメリットを得ることもできるでしょう’。
また、オーバーハングや、大きなビルドインガレージ、そして大空間と吹き抜けの組み合わせなどを希望する場合も、鉄骨建築の方が得意なはずです。
多くの場合は、鉄骨でも木造で同じ間取りを実現できる
一方で、こうした家の強度の限界を試しに行くような間取りが必要ない場合、特にボリュームゾーンである30坪から40坪で総二階に近い形の家を建てる場合には、「どちらでも同じことができます。」という説明はあながち嘘ではないとも感じました。
鉄骨の方が耐震性が高いのか?
実現できるスパンでみても、鉄骨の方が工法として強度にゆとりがあるという点は間違いなさそうです。しても、実際に建てる家が鉄骨の方が耐震性が高いどうかは、別問題です。
どこまで強度を確保するかは、コストとメリットのバランスの問題
積水ハウスは耐震等級3取得を前提としていますが、この基準を一定のマージンをもってクリアしていればよしと考えるのではないでしょうか?
鉄骨の本数を増やしたり、より太い鉄骨を使うことが可能で強度を更に上げることは可能ですが、コストアップにつながり、価格があがることになります。
従って一定の基準があり、工法の中のパラメーター(柱の本数、太さ、耐力壁の取り方、構造用資材の使い方など)を調節して施主の希望にそった家を合理的なコストで建てるべく設計してるはずです。
私たちのケースでも、構造計算に基づいて、当初想定していた梁では太さが足りなかったので、梁を太くしたりするなどのの調整が行われました。もし最初からできる限り高い強度を満たすことが目的だったら、必要かどうかに限らず最も太い梁を最初からつかっているはずで、こうした調整は起こらなかったでしょう。
従って、それぞれの家がどの程度の強度をもっているかは、ハウスメーカーが社内基準として設定指定している水準次第です。外に耐震等級といった物差しがある中で、敢えて木造と鉄骨で異なる基準値を設定しているようなことがなければ、積水ハウスの木造と鉄骨はほぼ同じ強さをもっていることが予想されます。
ダインコンクリートも耐震性には不利
耐震性に大きな影響を与えるのが家の重量です。厚みが6㎝あるダインコンクリートは、非常に重量があることで有名です。木造の躯体ではこの重みを支えきれないため、ダインコンクリートを採用することができません。
鉄骨だかrあこそ、あの重厚感があるダインコンクリートを採用できるわけですが、逆に鉄骨の持つ耐震性のポテンシャルの一部をダインコンクリートを採用することで相殺している、ということもできます。
耐震性も等級だけでなく、数値があればわかりやすかった・・
耐震等級は、元来耐震等級1で求められる強さを1として、1.25倍をクリアしていれば等級2、1.5倍をクリアしていればそれ以上はどこまでいっても等級3になっています。
UA値やC値と同じように、この何倍という数値を公表するようになれば、いろいろとわかりやすくなりますね。こうした連続的な数値ではないにしても、一条工務店が最近発表した「耐震等級5相当」を狙うオプションもこうした流れにつながるかもしれません。
断熱性・気密性について
断熱性
柱の部分以外の家の外皮全般の断熱性は、使う断熱材の材質と厚み、窓サッシの性能、玄関ドアの性能によって決まります。これらについては、鉄骨・シャーウッド共にほぼ同じ仕様を選べるため、この点での断熱性の優劣はでません。
残るは、木材の柱と、鉄骨の比較です。よく目にする議論は、
鉄骨は木材に比べて圧倒的に熱の伝導率が高く、外の温度をダイレクトに伝える。柱も梁も鉄骨で組むことで、家全体に熱を伝えやすい熱橋(ヒートブリッジ)ができ、例えば冬の寒さをダイレクトに家全体に伝えるので、鉄骨造は寒い。
というものです。鉄骨が木材に較べて熱を通しやすいことは事実ですが、この結論に飛びつくのは早計です。これは、シャーウッドの柱は幅が12cmあるために柱の部分には断熱材が入らないのに対して、鉄骨の場合には以下の図のように、鉄骨の内側(室内側)に断熱材が入るからです。
従って、鉄骨自体に全く断熱効果が無いとしても、比較すべきは12cmの木材と、それよりは厚みの薄いロックルールです。
木材の熱伝導率(0.12 W/mK)は、ロックウール(0.038 W/mK)の約3.16倍あります。同じ厚さではロックウールの方が約3倍断熱性能が高く、4㎝弱の厚みのロックウールが鉄骨と屋内の間に入れば、計算上は鉄骨造と木造の断熱性に題する柱の影響は同じになります。
このことから、鉄と木材を比較した印象論で、鉄骨の方が寒いと決めつけるのは間違いであることがわかります。
気密性
断熱性では、一般的な通説に反して鉄骨と木造は同程度の性能を持ちうると考えていますが、気密性については木造に分があると言わざるをえません。
理由として温度差で伸縮しやすい鉄骨に配慮して施工するため等言われていますが、今一つ腹落ちする説明に出会えていません。しかし、積水ハウスの鉄骨と木造のそれぞれで気密測定をした方々のデータを見ると、結果は明らかです。
木造の場合、施工が良ければC値が0.6ぐらいは出る可能性があるけれど、鉄骨の場合にはC値が1.5を切れたら上出来、といったレベル感だと思います。ただし、私たちはシャーウッド+気密施工でとても残念な結果に終わったので、0.6程度の水準に到達できるかは、運にも影響されると言わざるをえません。気密測定の顛末は別記事に纏めているので、そちらもあわせてご覧ください。
シャーウッド工法についての印象
シャーウッドがベースにしている木造軸組工法は、他社でも広く利用される工法です。積水ハウスと言えば鉄骨のイメージが強いと思いますが、積水ハウスであえて木造(シャーウッド工法)を選ぶ、あるいは数ある木造HMの中であえて積水ハウスを選ぶ理由は何でしょうか?
シャーウッド工法の良い点としては、鉄骨建築で培った技術や知見、そして工業化のノウハウをを木造に組み込むことで性能・品質・コストパフォーマンスの向上につなげられることだと思います。
基礎のダイレクトジョイントをはじめとして、鉄骨建築の延長として科学的アプローチで取り組んでいるんだろうなと感じます。
逆に、残念な点としては、木造ならではの良さや、木造が鉄骨に対して優位性を持つ点を追求しきれない点だと思います。特に断熱・気密については常に鉄骨がおいてけぼりにならないように配慮しながら木造に取り組んでいるような気がするのです。この点で、住友林業や、三井ホームなどとは印象が異なってきます。
さいごに
鉄骨派から木造派になったのちに振り返ってみれば、工法ってそんなに重要だっけという気持ちになっている自分がいます。
工法は耐震性などを担保するための手段なので、同じ水準の耐震性が確保できているという前提であれば、デザインや間取りへの影響などその他の要因で柔軟に考えて良いと思うのです。
そのためには、耐震性がどれぐらいかが客観的にわかることが助けになります。イメージとしてはヘーベルハウスやパナソニックホームズは他社よりも高い耐震性を目指しているように感じるのですが、これもデータが無いと本当のところはわかりません。
まずはきっちりと耐震等級3をとるというところがスタート地点です。将来的にはより高い耐震等級ができたり、等級の根拠になっている数値が開示されたりするようになると、判断がしやすくなりますね。
建方工事を見ていて気付いた鉄骨と木造の違いについては、こちらの記事もご覧ください。