読解力があるうちに、この人のものをもっと読んでみたかった。基礎教養があまりに足りなくて、果せなかった。 とある吉田秀和評に、こんな一節があった。音楽の吉田秀和、美術の高田博厚、文学の小林秀雄。三人の文章を、たんに音楽論・美術論・文学論として読むべきではない。ジャンルの垣根を越えた芸術思想論・哲学論として読むべきだ、と。高田博厚と小林秀雄はすでにわが読書範囲に入っていたから、いっこうに不案内だった吉田秀和という名に、新たに強烈なスポットライトが投じられた想いがした。 志の背丈が高い、怖い人を想像した。だが NHK 教育テレビに出演して音楽解説する姿は違った。白髪混りの長髪姿に含羞ただよう温厚な表…