ここに一書あり。
大雑把に分類すれば嘆願状に含まれる。
さるハワイアン女性からアメリカ国民全体へ訴えかけた文である。
一八九三年二月十三日というのが、その書の
左様、一八九三年、ハワイ王国落日の
(ハワイアンたち)
書き手は
やがて国を継ぐべき者だ。
その大任に相応しい「自分」を形成するために、故郷を遥か、地球の反対側まで行って研鑽に励んでいたところ、当の祖国が亡んだと、かたじけなくも現王は叛臣どもに取り囲まれて玉座を棄てるの已むを得ざるに至ったと、そんな悲報の入電だ。
疑いもなく踏みしめていた足元が、いきなり海に変化したのも同然のショックだったろう。私はどうすればいいんだと、髪ふり乱して絶叫しても許される。切羽詰まった袋小路の局面で、しかし彼女はペンを執り、慄えんとする指先を意志の力で抑えつつ、一文字一文字、掘り込むように
ここまで言えば分明だろう。
やがて国を継ぐべき御方、手紙の送り手、「彼女」とは、当時に於ける王位継承権第一位、ヴィクトリア・カウェキウ・ルナリオ・カラニヌイアヒラパラパ・カイウラニ・クレゴーン王女殿下に相違ない。
前置きはもう十分だ。
肝心要の手紙の中身を以下に引く。
米国民に訴ふ。
四年前、余はハワイ内閣大臣サーストン氏の要求により、一個人として教育を受け、ハワイの憲法によって余が
二月十八日ロンドンに於て
カイウラニ手署
実に達意の名文である。
留学の甲斐はあったと看做して可であろう。
大きな国の都合によって磨り潰される小さな国の断末魔。その曲調は哀切を帯び、聴者の胸を否が応でも締めつける。人類誕生からこっち、天と地の狭間の浮世にて、数多響いた葬送曲の中にあっても、これは
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