道内を車で走っていると、時折、無性に寿司が恋しくなる瞬間がある。
そんな時、俺の心に浮かぶのは、回転寿司屋「とっぴ~」で提供される「イカ耳」の握りだ。
イカ耳とは、イカのエンペラ部分、つまり耳にあたる部分のこと。
その食感は他に類を見ない。口に入れた瞬間、上品な甘みが広がり、次第に海の力強さを感じる歯ごたえが訪れる。
それはまるで、遠くの海から寄せては返す波の音が聞こえてくるかのようだ。
イカ耳は特別な新鮮さがないと、この独特の甘さは味わえない。新鮮だからこそ、シンプルに醤油とわさびを少し添えるだけで、素材そのものの旨味が際立つ。
そして、その美しさにも目を見張る。透明感があり、まるで宝石のように輝いているのだ。
食べる前から、目で楽しむことができるこの握り寿司は、俺にとって何度食べても飽きることがない一品だ。
寿司には、ただ美味しさを超えた何かがある。
それは、シンプルながらも奥深い旨味を持つ素材と、それを引き立てる繊細な技術が結びついた瞬間の芸術だと言える
寿司屋の息子として育った俺にとって、寿司はただの食事ではない。
小さい頃から寿司を主食のようにして育ったせいかもしれないが、寿司には人生のあらゆる記憶が染み込んでいる。
農家の息子が米を食べて育つように、俺は寿司を食べて大きくなった。
そして今も、道内を旅している最中、寿司が恋しくなるのは、そんな幼い頃の記憶が俺を寿司へと引き寄せているのだろう。
「とっぴ~のイカ耳」は、そんな俺の旅の途中にいつもそっと寄り添ってくれる存在だ。
小腹が空いたときに立ち寄り、数貫だけ食べる。それだけで、旅路の疲れが癒され、また次の目的地へと進む力が湧いてくる。
寿司が心を豊かにしてくれる瞬間…俺にとっては、まさにそんな特別な一品なのだ。
また、とっぴ~が俺を呼んでいる気がする。次に訪れたときも、きっとイカ耳が待っているだろう。