情報を活かすとは、どういうことなのか
2008/01/29 22:25
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投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
太平洋戦争の敗北の一因としてアメリカは情報収集を徹底し、かなり上手く活用したのに、
日本側は情報が全く活かせてなかった(三国同盟締結あたりから)
というものがあります。
どうして活かせてなかったのかという原因までもう用意されていて、
日本軍、取り分け陸軍参謀本部は、情報重視というより
作戦重視だったと言われています。
作戦万能論で、どんな難敵、どんな難しい任務も頭を使い
いい作戦さえ立てれば、打ち破れるという考え方です。
(しかし、なんの情報もなければ、作戦も立てられないと思うのですが)
このため、情報収集に人員から予算さえあまり割かなかった、と。
これが、定説になって一応原因までわかり、帰結します。
が、実は、違ったというのが、本書の主旨。
本書を読む限り、日本軍の情報収集はかなりのレベルで行われていました。
しかも、上述した、情報軽視の代表としての陸軍のほうが、
海軍より情報収集能力も暗号解読の実績もあったそうです。
(ただし、この解読した情報を陸軍、海軍で共有するということには、
なりませんでした。典型的なお役所のセクショナリズムで)
しかし、陸軍の情報収集は、主に対中国、対ロシアでアメリカ、英国に対しては
殆ど準備がなかったのも事実です。
又、情報の秘匿、防諜に(スパイ・カウンター)関しても、
陸軍のほうが優れており海軍は、何度も失態を見せています。
ここでも、合理的でスマートだったといわれる海軍の意外な一面が垣間見えます。
(この辺の原因に関して本書では、あまりページを割いて触れて
いませんが、海軍と陸軍で人員の差が、物凄いあったのが
原因じゃないでしょうか?
海軍は装備にお金がかかるため、予算的には大きくても、
実際の総人員数は少なく、ポストの数もかなり少ないため、
ハンモック・ナンバーが重視されたりした弊害があったと聞きます)
情報は、割と取ることが出来ていた、
じゃあどうして、活かせてなかったのか、と矢張りなるのですが、
本書では、表題にインテリジェンスと言う言葉を使ってあるとおり
インフォメーションとインテリジェンスの差についてしっかり解説されており
尚且つ、インフォメーションから、実際にしっかりとした、評価をして
インテリジェンスにすることが、いかに重要かと説いてあるわけです。
後、勿論、今までの説、作戦重視、情報軽視だったこと。
又、上記した。統合的に情報を共有するシステムがなかった
セクショナリズムの問題。
それと、長期的視野欠如なんかも、取り上げています。
つまり、本書での最もいいたいことは、
情報と言うものは、それこそ、長期的視野から、活かすシステムまで
どういう目的で、どう活かすかこそが、一番重要なのだということです。
これは、別に戦争中の軍隊に限ったことだけでなく、
平時のなにか執り行なう組織、人間全てに当てはまることです。
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投稿者:藤和 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本国軍は優秀な情報組織を持っていたのにそれを活かせていなかった理由を解説している本。
政治と情報の距離が近すぎると恣意的に使われてしまうし、遠すぎると見向きもされなくなる。
この辺りは戦前から現在まで、あまり変わっていないなと言う印象。
情報の取り扱いについては、国家レベルだけで無く個人レベルでも身につまされるところはあるかも。
卵が先か鶏が先か
2016/04/03 00:36
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投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
テーマは面白かったし、作戦偏重で情報部の地位も評価も低かったため、比較的に良質な情報部の動きも活用されなかったなどの話は新鮮なであった。こうした日本軍の失敗ネタの本を読むと感ずるのは根本的な欠陥が見えてこない苛立ちである。官僚主義的で動きの鈍い、セクショナリズムの強い組織がなぜゆえに実権を握り得たのかの解答を追究しないと、日本の現状では同じことを繰り返してしまうような気がする。答えを求めてさらなる読書を続けよう。
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一般に「低レヴェル」と言われる戦前期日本軍のインテリジェンスの実力を再考。対象は太平洋戦争に限られるが、豊富な史料に基づき様々な事例を紹介している。
日本軍のインテリジェンス入門書として最適のもの。
2007年度山本七平賞奨励賞受賞。
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旧日本軍の情報活動がわかった。情報の取り方や扱い方など参考になった。
また、それを使う側にすべてが左右されることもわかった。
自分個人がイメージしていた旧日本軍とは少し違った、発見があった。
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情報の有益な使い方と重要性を正しく理解していなければ貴重な情報も宝の持ち腐れとなり、都合の良い情報のみを捉えて手前味噌に曲解するのが当たり前になる。日本軍は高い暗号解読能力や情報収集能力を持ちながら有効に利用することができなかったというのは意外だったが、教訓は今に活かされているんだろうか。
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22,3,12
1、組織化されないインテリジェンス
2、情報部の地位の低さ
3、防諜の不徹底
4、目先の情報運用
5、情報集約機関の不在とセクショナリズム
6、戦略の欠如によるリクワイアメントの不在
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作戦部が自部署内に諜報部を抱えており、インフォメーションをインテリジェンスに加工する専門の情報部を軽視していたため、必要な情報のリクワイアメント(要求)をしなかったり、作戦部に上がってきた情報を無視していた
作戦部は多忙な業務を抱えているためインテリジェンスとインフォメーションの区別をする余裕が無く、主観的な判断で自分たちの立案した作戦に都合のいい情報を選んでしまう
短期的、戦術面では前線からの情報がリアルタイムで入るので、情報の劣化が少なく即フィードバックされ、有効に活用されていた
日本の意思決定が調整型のため、各部署の調整後に新たなインテリジェンスが出てきても、また1から調整し直さねばならず無視してしまう
天皇陛下「サラトガの撃沈は4度目ではないか」
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太平洋戦争前から太平洋戦争に至るまでの陸軍・空軍のインテリジェンスについて。日本軍の失敗に学ぶ、情報の扱い方や情報を活用できる組織の形態の話。米・英・ソ・中などの話もあり。
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太平洋戦争時の日本国内におけるインテリジェンスの扱いについて、他国との比較や軍部の傾向から、冷静に分析した本。
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旧軍のインテリジェンス能力は巷間で言われているほど低くなく、むしろ高かった。問題なのは情報を有効に使えなかった作戦部門にある。情報を有効に使えないのは今も昔も日本のデフォなのか…?
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日本軍のインテリジェンスは一般的に認識されているように決して低くなかった。特に陸軍に関しては難解と言われるストリップ暗号をほぼ完璧に解読していたことなどから極めて優秀だった。
しかし日本軍の場合その優秀なインテリジェンスを有効に活用するだけの組織体系が全く整っていなかった。
日本軍の作戦組織は情報組織の役割を軽視し、情報そのものを自分たちの主観的判断によって解釈した。
例えば三国同盟などはドイツの対イギリス戦の見通しの悪さなどから情報部の見解は同盟そのものに否定的だったが、作戦部はそういった情報を無視し「アメリカへの牽制」と称して同盟に踏み切った。
海軍は対アメリカ戦が長期化した場合、状況はどんどん苦しくなるだろうということは予め予想していた。しかし攻撃を仕掛ければ相手を萎縮させられるだろうという希望的観測を元に攻撃に踏み切った。
作戦組織と情報組織を明確に分離し情報そのものを「インフォメーション」から「インテリジェンス」に加工しそれを作戦組織に提供する専門の組織が必要である。
作戦組織は常に戦略を思考し続け、その為の情報を得るために情報組織に対して「リクワイアメント(情報要求)」することが重要である。
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【要約】
太平洋戦争当時の日本軍の情報能力は欠如していた、という欧米の定説が間違っていることを、史料を通して明らかにした。しかしそれでも見劣りがすることは否めないが。海軍より陸軍のほうが進んでいたが、情報収集と解析を別の組織が行い、しかも情報そのものを軽視する風潮が強かったため、情報部の調査が活かされなかった。陸軍は対ソ連、海軍は対英米が強かった。防諜に関しては陸軍は憲兵隊を持っていたので陸軍のほうが強かった。英米では大学出の頭脳は重宝されたが、日本では学徒出陣で最前線へ送られる始末。
【興味深い事例】
・ワシントン海軍軍縮会議で日本の暗号は英米に解読されていた。
・ツィンメルマン事件
・ウルトラ情報
・盧溝橋事件を受けて近衛首相は特使を派遣しようとしたが、その暗号をなんと日本陸海軍が解いて特使たちを逮捕してしまう、という事態が発生。
・米空母「サラトガ」は四度撃沈されたことになる作戦部のずさんな状況把握により、昭和天皇は「サラトガが沈んだのは今度でたしか四回目だったと思うが」と苦言を呈するまでに。
・アメリカがハル・ノートで強行主張に出たのは、アメリカと日本が妥協してほしくない中国が妥協案をリークしてしまったためで、本当は妥協案を提示したかったハルは苦虫をつぶした顔をした。
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新たな視点を得られた良書。
日本軍の情報戦略的な失敗は常識化しているが、それはインテリジェンスとしての情報を全く持っていなかったという事では決して無かったのだ。感心の低さからくる人員等の配分こそ他国に明確に劣っていたが、インテリジェンスを獲得する能力自体は、特に陸軍においては決して引けを取らなかったようだ。
結局、組織的な構造、関心の低さ、戦略の欠如等がインテリジェンスを無駄にしてしまうという事になった。作戦部の優越性などからも、いかに情報部が軽視され、無意味な組織構造をもたらしてしまったかが窺い知れる。
現状の日本においても、ここから学ぶべき事が多いように感じる。むしろ、その体質は基本的に変わっていない。
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日本はなぜ負けたのか。作戦重視、情報軽視の宿痾を抉る。
暗号解読など優れたインフォメーション解読能力を持ちながら、なぜ日本軍は情報戦に敗れたか。「作戦重視、情報軽視」「長期的視野の欠如」「セクショナリズム」。日本軍最大の弱点はインテリジェンス意識の欠如にあった。インテリジェンスをキーワードに日本的風土の宿痾に迫る。
第一章 日本軍による情報収集活動
第二章 陸軍の情報収集
第三章 海軍の情報収集
第四章 情報の分析・評価はいかになされたか
第五章 情報の利用 成功と失敗の実例
第六章 戦略における情報利用
第七章 日本軍のインテリジェンスの問題点
終 章 歴史の教訓
インテリジェンスとは、分析済みの情報のこと。
「戦争中、日本は情報線に負けた」と言われているが、それは暗号を解読されていたという単純なレベルのものではないと著者はいう。本書を読むと、暗号解読に関して言えば、日本軍も連合国の暗号をある程度解読していたという事がわかる。深刻な問題は、日本がインテリジェンスを組織的、戦略的に利用することができなかったという組織構造や、対外インテリジェンスを軽視するというメンタリティーにあるという。
戦前日本は、情報を軽視した訳ではない。むしろ、陸軍は人員や資金不足の割には相当な暗号解読能力を有していた。なぜ、情報を生かすことが出来なかったのか。本書では、セクショナリズムをあげている。陸軍と海軍のみならず、軍の中でも作戦部が情報部を軽視していた弊害があげられている。
エリート意識に凝り固まった作戦部は、独自にインフォメーションを集め、それを基に作戦を練れば良いということから情報部を軽視する事となる。日本の命運を決めることになる政策決定に参謀本部の情報部長が関与していなかったという事実には驚かされる。しかも、作戦部が情報を扱いだすとどうしても戦略や作戦目的のために情報を取捨選択してしまい、作戦ありきで情報は目的を正当化するために使用される弊害がある。
政策サイドが意思決定を行う際に、情報サイドにインテリジェンスを求めると言う思考が欠如しており、政策決定者は自らのイメージや観念に沿って政策を進めていた(情報の政治化という)。このことにより、政策決定者が望む情報しか望まれず、望まない情報は雑音として排除されることとなった。
独軍の英本土攻略作戦や、独ソ戦について、情報部が冷静な判断をしていたが、生かされることはなかった。
個人的には、インテリジェンスが生かされない理由として、日本の組織が、トップダウンではなく、ボトムアップであるということもあげられると思う。有力な政治家が組閣すれば政治が主導するが、弱体な内閣の場合、官僚が主導することとなる。アメリカ型ともイギリス型とも異なる日本の問題があるのではないか。
本書は、丁寧に日本軍の失敗の本質に迫っており、丁寧な仕事に好感が持てる。内容も面白くおススメである。