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秋山小兵衛、おはるに瞠目する
2011/12/03 12:34
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
>「や!!」
>と、小兵衛が瞠目し、
>「お前も知らぬのか」
>「知りませんよう」
この場面が好きで、漫画のように、目の玉が二倍ほどになって飛び出ている姿を想像してしまう。ここへくるまでに、『鰻坊主』『突発』『老僧狂乱』と、三話も引っ張る作者。もっとも、間に入っている『突発』には、問題のその言葉は出てこない。だから、『鰻坊主』の話が、秋山大治郎と佐々木三冬とが誘い合って秋山小兵衛のところへききに行こうとしている場面で終わってから、どう落ちがついたのか気になって仕方ない読者は、一旦、肩透かしをくわされる。
そもそもは、小兵衛の悪友小川宗哲が、健全(すぎるかもしれない?)秋山大治郎をからかう……つもりもなくて、当然、知っているだろうと思って、まじめな顔で「とんでもないこと」を言ったら、健全(すぎる!)大治郎にはわけがわからず、意味をききかえしてきたので、笑い出して教えなかったのがいけないのだ。だから、大治郎は、三冬にもきくし、三冬もわからないので、飯田粂太郎「少年」にまできく。(きくなよ!知ってたらどうするんだよ!)
作者は、実にうまい。小兵衛がおはるに瞠目する場面よりも前に、大治郎と三冬に問題のその言葉の意味を教える場面があり、そのくだりの最後に一行、おはるはいなかったと、書いてある。だから私も、もし、おはるがここにいたら、さぞかし、大笑いしただろうなあ、と、思った。実は私も、問題のその言葉の意味を知らなかったが、なんとなく、文脈から想像していた。しかし、大治郎と三冬は童貞で処女でウブだから想像もできなかった……、という、小説的表現なんだろうと思っていたら、おはるまでも知らなかったということは……小兵衛と宗哲が不良老人だからいけないのだ!ということになるではないか!
そして、後できっちり、大治郎は小兵衛に仕返しする。すなわち、『老僧狂乱』の終章で、小兵衛が、何々の食べすぎは、「よほどに心ノ臓へひびくと見える」と言うと、すかさず、
>「父上も、お気をつけなされますように」
大治郎、よく言った!
この『剣客商売』シリーズ第四巻『天魔』は、『雷神』の話から始まっている。前の第三巻『陽炎の男』の最終話が、『深川十万坪』で、おはるの、
>「あれ、雷(らい)さまだ。梅雨が明けるよう」
というせりふで終わっていた。その雷(らい)さまが、とんでもないいたずらをする。
前に、Jリーグで、雷がひどかった時に、審判の判断で試合を中断したことがあった。そのとき、こわくて地面に伏した選手もいたという。だから、剣の試合でも、危険を避けるために、中断したり、地面に伏したりするのが、正しいはずだ。小説での勝ち負けの決め方に、私は異論があるぞ。
人のいい弟子落合孫六が、お金のためになれあい試合をしてもいいですかと尋ねたとき、小兵衛が、簡単に許しちゃって、その話を聞いた大治郎が不機嫌になっちゃって、そこまでならこの親子の場合、普通だけど、途中から現れた三冬が、大治郎どのはどうなさったのですか、と小兵衛にきいて、小兵衛が、大治郎の顔色を読んでくれたか、と喜び、それを三冬が恥ずかしがるのが、いい!『陽炎の男』のときから更に、三冬の大治郎に対する恋心が深くなっている。
で、大治郎のほうはどうなのか。これまでの話で、友人として好ましく思っているのはわかるけど、恋人としての想いは無いのか?
シリーズ第一巻から、無外流三代の辻平内・喜摩太・平右衛門のように、妻子を持たずに剣の道に精進した剣客たちが、何人も登場している。大治郎もそういう生き方をするのか?それとも、小兵衛のように結婚して家庭を持つのか?
秋山小兵衛の場合、第一巻の嶋岡礼蔵の話から、大治郎の母とは恋愛結婚だったことがわかるが、おはるについては、彼女を妻に迎える前に「手をつけた」という、その「手をつける」っていうのって、どうも対等でない雰囲気がある。まあ、今、おはるが幸せだからいいけれども。
少なくとも、大治郎が三冬に対して「手をつける」ってのは、無理だと思うし、私も、そんな関わり方はしてほしくないわ。これは、結婚前にからだの関係を持つな、という意味ではなくて、それはいいけど、大治郎と三冬の間は、対等であってほしい。
妻子を持たないといっても、女性と関係を持ち、子供まで生まれていながら、全く顧みずに振り捨てて、まるで独身のように剣の道に打ちこむというのは、ただの自分勝手であり、利己主義である。そんなので修行と言えるのか?
それが、第二話『箱根細工』の話である。横川彦五郎は、良い師匠や友や弟子や隣人に恵まれ、礼儀正しく、潔く生きてきた。彼が生ませっぱなしにした息子は、父以外の人から剣を学び、父親に挑んで負けた。
その後の顛末を読むと、あのとき横川彦五郎は、なんとしてでも息子を追いかけてつかまえて鍛え直してやるべきだったのだ、あれは息子の方から父を訪ねてきてくれた、最後の和解のチャンスだったのにと、私は思う。
結局、大治郎が、父子ともども、死に立ち会うことになってしまった。それがせめてもの慰めだったと、横川彦五郎は言う。備前兼光の大刀を大治郎へ、波平安国の脇差を小兵衛へと、形見にする。こののち、小兵衛が波平安国の脇差を遣う話が幾つも語られて、藤原国助の大刀とともに、剣客秋山小兵衛の重要アイテムとなる。
大治郎は箱根細工をおみやげにした。「母上」こと、おはるに。これは、小兵衛とおはるとがいい夫婦になっていることを、認め、喜んでいると伝えるものじゃないかしら。だから、おはるは、涙ぐんだのでしょう。ここに来て大治郎も、小兵衛とおはるのような幸せな家庭を築きたいと思い始めたんじゃなくて?
第三話『夫婦浪人』は、けなげな男の一生の話だ。
>「弥五さん、御助勢」
と、小兵衛が言って助太刀に加わる場面が好きだ。それまでの小兵衛は、「女房浪人」の弥五七が、心変わりした「夫」と愁嘆場を繰り広げるのを、笑ったこともあったし、つきあってみて、彼の一途さに感心するものの、うんざりしたときもあった。だが、しまいに小兵衛は、誠実で勤勉で書と剣に優れた弥五七に、尊敬を抱くようになる。最後に、愛する人に去られ、ただひとりの友へと遺した手紙を、小兵衛が読んでいくときには、私も、じいんとした。
第四話『天魔』では、小兵衛と大治郎とが剣客として認め合う。第五話『約束金二十両』で、大治郎と三冬の仲が進展する。『陽炎の男』でも語られた三冬の妄想が更に過激になり、まことに健康である!そして、大治郎と一緒に老武士平内太兵衛との腕試しに出かけて行くが、ふたりとも、及ばない。上には上がいるものである。その後、太兵衛と小兵衛とが試合をする。小兵衛同様に小柄でやせた太兵衛に、もたれて昼寝する「憎々しいまでに」肥えた大きな赤猫や、何かと太兵衛の世話を焼く「物干しざおのような」小娘おもよが、おかしみとあたたかみをかもしだしている。
不良老人小兵衛は、おもよを鉄鍋で煮た大根みたいに太兵衛に食べさせて、「うまくてうまくて、たまらぬ気もちに」させたいようだが……。
三冬浪漫〈きらめき〉
2003/06/22 02:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:流花 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自らの剣によって、相手をうち負かすこと…つまり人殺しが快感となり、虜になってしまった怪物。このキャラクターは、たびたび『剣客商売』シリーズに登場する。剣の道は、強くなることばかりを求めるものではない。人としての生き方を磨くものである。“魔物にとりつかれ、いったん道を踏み外すと、二度ともどってこられない。”作者は、怪物を勝たせるようなことは、絶対しない。世の中とは、そうあるべきだからだ。
そんな剣の道に、必死になって打ち込んだ青春時代を持つ二人。今、その二人に遅すぎた第二の“青春”が訪れている。三冬にとっても、大治郎にとっても、一緒に過ごす、この様々な瞬間は、まさに、第二の“青春”であろう。まだ“恋”であることに気付かず、期待とみずみずしい躍動感に満ちた毎日。神田明神門前の茶店の脇に立った立て札、「私と立ち合って、私が勝った場合、金三両いただく」…この立て札の主のところへも、二人で訪れた。立ち合わずして負けたけれども、そんなことはどうでもいい。一緒に青春の1ページを埋めていく幸せ。例の“毛饅頭”も、二人で真剣に考えてしまった。小兵衛曰く、「あきれ果てた人びとじゃ。」…それも青春の1ページ。
きらきらと輝いている。道を踏み外すことなく、真っ直ぐに育ってきた大治郎。自分を飾らず、「知らぬことをたずねるが、何故、ばかなのでございましょうか?」と素直に聞ける三冬。そんな二人に、最後の磨きをかけるがごとき小兵衛。
こんな、きらめきと躍動感にあふれた本書『天魔』を、心を躍らせずに読むことなどできないであろう。
良いですね
2024/04/28 16:38
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつもの登場人物が懐かしく思え、気がつくと読み終えていました。エピソードも良かったですね。さすが池波先生!
自在の境地の八篇収録
2023/05/14 18:31
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
前三巻はそれぞれ七話収録だったので、一日一話を読んで一週間で一冊読み終える算段を組めたところ、本巻からは八話収録となり計算が狂ったのだが、それはさておき、ますます円熟の技が冴えた作品群の一冊。堪能致しました。(なお、「毛饅頭」の意味(331頁参照)は、評者予想のとおりでした(笑)。にしても、表題作である「天魔」の決闘場面の描写(185~7頁参照)は見事。)
本シリーズの構造骨格だが、悪事物(天魔)と人情物(約束金二十両)の両端をx軸とし、善人かと思ったら悪人(老僧狂乱)あるいは悪人かと思ったら善人だった(鰻坊主)という対蹠をy軸とするxy平面における座標点として、各話をプロットできるように思われる。これで、平面分布図を作ってみたら面白いのではなかろうか。
因縁の起こす悲しい陰を描きつつ、ユーモアを交えて爽やかさを残す、剣客商売シリーズ第四弾。
2011/02/10 19:11
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投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書、剣客商売シリーズ第四弾は、因縁の悲しさ、やりきれなさを描きつつ、ユーモアを交えて爽快な印象を残す作品である。
因縁が引き起こす事件の暗さを払拭するユーモアには、下のものも混じっているが、大治郎や三冬の、その方面の幼さを示すのに効果を発揮している。
本書には全八話を収録。
小兵衛の元門人・落合孫六が行った、八百長試合の思わぬ結末を描く【雷神】
小兵衛と、同門の剣客・横川彦五郎の陰と陽、互いの息子に及ぶ奇妙な因縁を描いた【箱根細工】
男色浪人の深いつながり『念友』の、悲哀を描いた【夫婦浪人】
小兵衛に因縁を持つ恐るべき男が現れた。剣客を次々と餌食にし、小兵衛が頭を抱えるほどの男との対決を描いた【天魔】
小兵衛と互角の腕を持つ老剣士・平内太兵衛と、醜女の百姓娘のエピソードを暖かく、ユーモラスに描く【約束金二十両】
悪どい浪人を騙して金をせしめる鰻面の坊主の正体と、その悲しき運命を描く【鰻坊主】
小兵衛の突然思い立った用事が、女の企みを暴き、男の命を救う【突発】
情欲の強い老僧が遭遇した浪人たちの悪巧み。『箱根細工』で描いた下のユーモアのナゾを解き明かしつつ、情欲の強い僧と絡めて締めくくる【老僧狂乱】
「毛饅頭とは、いかなる薬なのですか?」
大治郎と三冬が大まじめに小兵衛に問うた『毛饅頭』とは……。
今回は、少々私好みでない作品が多目で残念でした。
2017/09/23 12:24
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今回は、少々私好みでない作品が多目で残念でした。徐々に、息子・大治郎が裏稼業に慣れ始め、主役交代の時期が迫ってきたかなという感じ。相変わらず、佐々木三冬の出番が少ないが、恋する対象が明らかに小兵衛から大治郎に変わって来ており、何となく私までソワソワしてきます。(笑)
[一話;雷神] 秋山小兵衛の元弟子が金の為に八百長試合をする許可を得に来る。事情を知り許可した小兵衛だったが、対戦相手の腕は予想を遥かに上回るものであった。あわやと思った時に、対戦相手が異状に嫌う雷が鳴り、試合放棄してしまう。 3点
[二話;箱根細工] 小兵衛の同門の昔馴染みの見舞いを頼まれた大治郎は道中で胡乱な浪人と出会い、気にしていると同じ宿に泊り誰かを狙っている。結局、商人夫妻を襲った浪人を討ち果たすが、その浪人は見舞った人の息子であった。 3点
[三話;夫婦浪人] 小兵衛が偶然知り合った、同性愛の浪人夫婦の顛末。 3点
[四話;天魔] 小兵衛知己の道場主の息子・笹目千代太郎が江戸に帰って来る。異状に小さい体で、跳躍力を活かした剣を使うらしい。殺戮を繰り返す笹目千代太郎を葬るため、小兵衛が戦いを決意するが、代わって大治郎が立ち合い討ち果たす。この時の戦略が、敵の跳躍力を殺すため立ち合いと同時に後退し、敵が追込んできたところで突如前進に転じ、敵が跳躍したところを薙ぎ払うというものであった。この作戦は、対決前夜に、小兵衛が大治郎に授けようとした策と同じであった。父子交替の時期が迫ってますね。 5点
[五話;約束金二十両] 平内太兵衛重久:雲弘流剣術家なる者が3両での賭け試合の立札を出す。興味を持って大治郎・三冬が見に行くが、その凄腕に3両を置いて帰って来る。小兵衛が赴き、その技を見て何かを悟ったが3両を置いて帰って来る。しかし、あれ程の剣士が何故金を欲しがるのかに興味を持った小兵衛は、翌日また立ち合いに行くが相打ちとなる。平内の技は、実は相手の刀を奪って使うものらしい。平内は金を欲しがったか。それは、世話になっている近所の農家の娘が茶店を持つための20両が欲しいという願いをかなえる為であった。結局、小兵衛と意気投合。付き合いは長くなりそう。 5点
[六話;鰻坊主] 偽金を使って欲深い人間から金をまきあげる騙り(詐欺)坊主(納得できない兄の仇討に出された元侍)を助け、江戸から追放する。義侠伝ですね。 4点
[七話;突発] 煙管店主・友五郎のあばずれ後妻が医師と密通した上、結託して謀殺しようという策謀を見抜き阻止する。 3点
[八話;老僧狂乱] 大治郎が昔世話になった和尚が「美人局」の策謀に嵌って150両も巻き上げられそうになったのを小兵衛が阻止する。放蕩和尚は無理がたたり死ぬ。 3点