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野性こそ安らぎか
2008/04/02 23:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
熊狩りで飼い主とはぐれた猟犬ゴロが、本能と匂いの呼ぶ力に惹かれて北海道から1400Km離れた東京へ独り向かう。果てしない旅路、体を苛む餓えを振り切ってひたすらに走る。その姿は悲壮。限界と執念のせめぎ合いが体に充満しているとでも言うのだろうか。その姿が引力の様に触れ合う人間を惹き付ける。さらに殺人事件に巻き込まれ、犯人の匂いを知っているとして「組織」にも追われるようになるが、そのために関わった人々をも理不尽な運命の奔流に巻き込むことになる。
そもそも、人間と犬では生きることに向き合う姿勢がまったく違う。人間の犬に向ける友情と、犬が人間に向ける目線もおのずから異なる。嗅覚による世界把握は、過去にその場所にあった存在を認識する、すなわち時間を越えるのだという指摘は衝撃的だ。それでもなお、ゴロを探して列島を縦断する飼い主の妻との絆の強さがあるのは、フシギであり、この世の驚異だ。これには作者の犬に対する心底からの愛情と信頼の現れだろうが、リアリティを越えて胸を打たれるものがあることは、その後本作が映画、ドラマに何度も翻案されたことでも示されているだろう。
文庫での上下巻は、元は第1部、2部の構成で、第1部では北海道から、第2部ではその因縁により今度は鹿児島から東京へと向かう。その旅路の中で、ゴロを追う飼い主の妻は過酷な経験でまったく人生が変ってしまい、同じく北海道県警の老警視は巨大な敵との戦いに燃え尽きようとする。その覚悟のある者はまだいい。ただゴロの力強さに引き込まれる者が、突然奔流に放り込まれて押し流されるのは不幸としか言いようがない。さらに汚職事件の痕跡を消すために雇われた殺し屋までも、犬退治に駆り出され、混乱を拡大していく。しかし、それもこれも人間の為すことと思えば不幸なのであって、考えようによっては吹き抜ける一陣の風である。あるいは荒ぶる神。善良な人々も殺し屋も、等しく吹き飛ばされる暴風だ。
流浪の中で少しずつ野生を取り戻していき、ますます人間には不可解な地平へ駈け去っていくゴロ。人間が犬、あるいは動物を愛し、信頼するのは、それが自分と異質で、理解出来ないからこそであり、理不尽さに身を委ねる瞬間を待ち望んでいる証しなのだろうか。
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