天才カギ師の少年の明日は明るくあって欲しい
2012/01/24 09:04
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:チヒロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
マイクルは17歳の夏に人生が変わった。
いや、正確には2回目の転機を迎えたというべきか。
1回目は8歳の時、ある事件に巻き込まれ、両親を亡くし伯父に引き取られた。
そしてその時から一言も声を出せなくなった。
そんなマイクルの楽しみは、いろんな錠を開けること。
17歳の夏、友人に連れて行かれた先で窃盗の仲間とされ、
その後は大きな流れにのみ込まれるように犯罪者の道を進む。
マイクルの不運は少年時代からずっと続いているようだ。
皆、彼の才能を知るとそれを利用するためにハイエナのように集まってくる。
逃げるべき時にちゃんと逃げることができないマイクルは、すべてを黙って受け入れる道を選ぶ。
そこに現われた「ゴースト」と名乗る男があらゆる技を彼に教える。
まるでオビワン・ケノビだ。
(残念ながらヨーダほど超越してはいない)
何度も訪れる善と悪に繋がる岐路、マイクル、ここでその場を去れ!・・と師匠ゴーストの警告と同じく、私もつぶやく。
しかし実際彼がどうやってそこから逃げることができるのか。
あとは受け入れるしかないのである。
マイクルが解錠師の道に踏みこむに至った物語と、
その転がり出した玉がぶつかり割れるまでの物語を、
10年後の彼自身が語る。
解錠の仕組みについてはとても深く掘り下げて書いてあり面白かった。
最後に、彼の伯父さんはどうなったのかなと、ふと気になったが。
ミステリーだと思って敬遠している人がいるとしたらもったいない
2012/01/31 16:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は当たりだ。個人的には今年のベスト10入りは間違いないな。ベスト5と言ってもいいかもしれない。
見かけはミステリーだが、実際には少年の成長物語であり、恋愛物語でもある。
現在刑務所にいる主人公が過去を振り返る体裁を取っている。それ自体はありふれているが、2つの地点から過去を振り返っているのが珍しい。まずはAという近い過去の話から始めて、次にBというAから更に10年くらい前の過去の話がそれに続き、AとBが交互に語られ、段々お互いが近接してくるにしたがって話が盛り上がってくる。なかなか凝った構成だ。
主人公のマイクは8歳の時のある事件をきっかけに言葉を失った。その事件が何だったのかはなかなか明らかにされない。途中で薄々は分かってくるのだが、そのことが物語を牽引する1つの力になっている。そして、金庫破りのサスペンスと恋人アメリアとのやりとりが実に読ませる。絵を介してアメリアと心を通わせるところは詩的ですらある。ラストも素晴らしかったな。
同じポケミスの『二流小説家』が「このミス」で1位になったりして話題になったが、個人的には『解錠師』の方が断然面白いね。これは超オススメですよ。
LOCK ARTIST最高です
2015/03/26 16:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:september - この投稿者のレビュー一覧を見る
解錠師としての道を歩むことになった少年は、芸術的な技術を持ちながらも心と口には決して開けることができない重く難解な鍵が掛けられていた。そんなぼくの鍵は一人の少女をひとめ見た瞬間、一瞬にして溶かされたてしまった。翻訳ものにはあまり手を出さないのですが、少年の幼い頃の闇と鍵開けの腕をあげていくのマイクル、そしてアメリアとのささやかな恋愛はどれも心が揺れ動きました。LOCK ARTIST最高です。
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過去の事件が原因で声を発しなくなった少年が、金庫破りの天才【解錠師】として活躍する現在の姿と、そこに至るまでの過去の出来事が交互に描かれていきます。
個性的な犯罪者達、犯罪組織内の軋轢、手に汗握る金庫破りが楽しいクライムサスペンスでもあり、過酷な現実を生きる少年の心模様や初恋が切ない青春小説でもありました。
全く喋らず容姿端麗で心に傷を持ち、絵と金庫破りの天才的な才能を持つという主人公はこれだけ聞くと超人化しているのですが、この一風変わった少年に対する周囲の反応と、少年の語りのギャップが楽しく嫌味がないです。
建屋に侵入し、セキュリティーと迫る時間に怯えながらの息詰まる金庫破りのシーンは緊迫感と迫力がありわくわくします。
ぴたりと時間が止まり、金庫と少年の「二人」だけになったような描写が美しく、没頭していく少年の姿がかっこいいです。
一方で、一途な少年が恋をした少女と絵で心を通わせていく過去の物語がロマンティック。
必ず幸せが待っているはずだと思わせるラストが爽やかでした。
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ミステリより青春小説のくくりにするべきかもしれない。
この年末にきて、2011年の海外ミステリのベスト1か2か迷う1冊に遭遇。
おもしろかったなー。
ミステリアスな主人公のマイクルは、幼少期のでき事で口をきくことができなくなった17歳の少年。解錠師としての天賦の才能から犯罪の道へ流されていくのが、思春期の少年の真っ正直な正義感やかたくななほどの矜持からだというのが切ないようです。
青春期のままならなさ、大人たちの狡知に抗えない幼さが、いっそいとおしいくらいで。
しゃべれないマイクルの心の中の独白という語りが、彼の繊細さをあぶりだすようで魅力的でした。
最終的に彼にもたらされた希望が、せつなくも美しいと思いました。
文句なく5つ星。
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小さいころのある出来事をきっかけに口を聞くことができなくなった少年が金庫破りになって波乱に満ちた生活を送る話。2011年アメリカ探偵作家クラブのエドガー賞最優秀長篇賞と英国推理作家協会のイアン・フレミング・スティール・ダガー賞をダブル受賞したあって、読むうちにぐいぐい引き込まれました。
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装丁のイメージとはちょっと違い、とても瑞々しい青春ストーリー。
幼い頃に心の傷を負い、言葉を話さない主人公。ひょんなきっかけから犯罪への道へと足を踏み入れてしまい今は監獄にいる。
どんないきさつがあって犯罪と関わるようになり今に至るのか、その前段で過ごしたまっとうな日々と彼女との出会い。2つの時間軸を交互に描きながらストーリーが展開される。
犯罪もからみ、ミステリ仕立てではあるが中心となる謎は犯罪自体ではなく主人公の過ごしてきた人生と未来。自分的にはとても活き活きとした物語だと感じた。
ただ、青臭い、僕と彼女の物語が好きでない人はそれほどおもしろくないかも。
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Lock Artist8歳で親を亡くし、同時に言葉を失った少年マイクル。彼には、絵を描く、そして鍵を開けるという2つの才能があった。愛しのアメリアを危険から遠ざけるため、「デトロイトの男」に絡め取られ、転がる石のように犯罪に手を染めていくマイクル。彼はいつしか凄腕の金庫破りとなり、それ故にアメリアとは断絶した生活を送っていた。彼に明るい未来はやってくるのか。面白いけど、いまいち。まず2つの時系列を並行して進める書き方に特に効果が感じられず、ただ鬱陶しい。ヒロインのアメリアのメンヘルビッチなキャラクターを考えるとこんなオチはアンリアル。装丁はわりと好きです。
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どんないきさつで解錠師になったのか。
幼少の頃に受けたショックで口がきけない主人公の半生を描く。
終止しゃべる事のない、若き解錠師が中々ハードボイルドでいいキャラ。
彼女と絵で会話する所は結構好きなシーン。
もちろん南京錠や金庫などを解錠して行く様は、超一流の金庫破りに取材しただけあって、緻密でリアリティがあって醍醐味がある。
もう少し人物相関が緻密だったらという所だけが残念。
ミステリーというよりもむしろ青春小説といったテイストだった。
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幼少時の事件がきっかけで自分の声を失った主人公・マイクル。
プロローグで、彼はどうやら刑務所の中で10年を過ごしてきたことがわかる。
彼はその時点でも声が出せない。彼がこれまで人生について述懐しようとするシーンでプロローグは終わる。
声を失ったマイクには、二つの才能が与えられた。
ひとつは絵を描くこと。もう一つはどんな錠でもあけることができる解錠師《ロック・アーティスト》となれたこと。
前者は彼の恋心を表現する唯一の手段であり、後者は暗い犯罪に身を落とす象徴のようでもあった。
1999年の夏と2000年の夏を交互に語る一人称小説であり、
主人公が口の訊けない人物である小説を書くとなると、高い技術を要すると思うがしっかり描きこめている。
ミステリというよりは青春小説に近いが、
トマス・H・クックの「緋色の記憶」「夏草の記憶」のようでありながら、
最後に希望を持たせる描写には胸をうたれた。
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最近のポケミスで面白い本に出会うことが多いが、これは秀逸な作品だった。
解錠、つまり錠前を開ける天才的技術を身に付けた少年が、心なくも犯罪組織と関わりをもっていく物語だが、この少年のキャラクターの純粋な部分がみずみずしく伝わってきて、読後感のよい小説になっている。
クライムノベルであるとともに、それ以上に少年の成長物語である。
気が早いけれど、個人的には2012年度のベスト5クラスに入る。
ミステリーファンにお薦めの一冊。
思えば、この作者の第1作は買って読んだなあ。
まあ水準作ではあったけれど、その後は読まなくなってしまった。
この本の後書きを読むと、そのシリーズの何冊かは日本で未訳とのこと
翻訳ものは、今日本では売れないんだな、と思わされる。
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面白かった。ストーリーテリングに秀でているというわけでもないのだが、気がつくと読み終えていたという感じ。口のきけない少年、トラウマ、錠、犯罪者集団、恋──ありがちな要素が完璧な割合でブレンドされているので、ただのよくあるミステリでは決してない。
言葉を失った主人公の一人称が読み手に与える印象は大きい。そこを最大限利用して、読者の共感を誘う作者の手腕が巧い。話せないハンデなどどこ吹く風、作中のストーリーは多くの動きや会話に支えられ、少年の語りと併せて、静と動の対比が作品にメリハリを与えている。
解錠師としてのテクニックや緊張感を描くシーンも面白いが、もうひとつのストーリーである少年と少女の恋物語に惹きつけられた。言葉の代わりに得意の絵で会話するシーンは素晴らしく、少年のトラウマの真相と共に、このふたりの行く末の吸引力は半端ない。
ラストのやりとりはやられた。脳裏に焼きつくイラストと、少年の決意が余韻となって長く残る。施錠されているのは金庫だけではない。頑なな少年の心もロックされたまま。ダブル・ミーニングなタイトルの意味と、地味に計算された構成の妙に感服する秀作。
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外国文学って、情報がないの読んでみようって気持ちになかなかならないのですが、今回は、エドガー賞受賞作ということで、初めてスティーヴ・ハミルトン氏の作品を読んでみました。
一言でいうと、「面白い!」です(笑)解錠師というプロの金庫破りの話なんだけど、過去の出来事が原因で声を出すことができない若い主人公。ささいな事がきっかけで、金庫破りになってしまったけれども、泥棒って感じを受けない、というか主人公がそういう気持ちを持っていないのではないのかな~?
ジェフリー・ディーヴァ―の作品ほど、大どんでん返しみたいなものはないけれど、淡々とした話の流れの中にも、すごくドキドキする感じが、とても私好みでした♪
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8歳の時にとある事情で声を失った主人公の特技は絵と解錠。ひょんな事から裏社会に取り込まれ…。この歳にして「ハヤカワ ポケミス」初体験(笑。金庫を破るシーンがリアルだという宣伝文句ですがあまり興味も湧かず。「とある事情」も予想通りで平凡かと。
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最初の1行から読者を巻き込む形で始まる。マイクルが言葉を発せなくなった訳とは?犯罪に手を染めていくマイクルはどうなる?ラストまで飽きさせることなくストーリーは展開していく。