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やはりこれが基本。
2005/05/30 19:57
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:荻野勝彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
トヨタ自動車の張富士夫社長は、日米両国における企業経営の経験をもとに、日米のビジネス文化の違いを「育てる文化」と「選ぶ文化」の違いだ、と表現している。そして、日本製品の高品質は「育てる文化」なくして実現できないが、米国では「選ぶ文化」ゆえに現地法人新設に必要な各分野の専門家の調達が容易であったと述べている(経団連機関誌「経済Trend」2004年6月号)。
その是非や優劣を問うことはあまり意味があるとは思えないが、労働市場のあり方はこうした「文化」と密接にかかわっており、企業経営もそれと無縁ではありえない。日本では、高度な仕事になればなるほど「こんな人がほしい」という人材は外部労働市場ではなかなか見当たらない(米国では日本より見つかる可能性は高いようだが、そのコスト=年俸もたいへん高いようだ)。
したがって、本書が指摘するように、日本企業は古くから「自社が必要とする人材は自社で育てる」ことを実践してきた。そして、これに成功した企業のみが長年にわたり存続することができた。もちろん、育成にはそれなりの手間がかかり、高度な人材ほど多くの時間を要する(米国ではその手間と時間をおカネで買っているわけだから、年俸が高騰するのは当然だろう)。ところが、近年流行した(過去形で語っていいだろう)「成果主義」は、こうした長期の人材育成を妨げるものであり、それ自身うまくいかないだけではなく、企業の長期的発展にとっても悪影響がある。これが本書の前半の主張である。基本的には著者の前著「虚妄の成果主義」の主張の敷衍であり、実務家の実感にまことによく一致する。
本書の後半ではまず、それでは人は何によって育つのか、どうすれば育つのかという議論が展開される。具体的な事例をもとにした議論はきわめて明快かつ説得的であり、あえて言えばごく基本的ともいえる。その基本を忘れて舶来(というか、米国産)の技術に走ったのが成果主義騒ぎの一面でもあっただろう。さらに続けて、競争優位の源泉となる「育てる経営」の合理性が経営学的に示される。
そして、「例解」として、世情を賑わした職務発明の対価をめぐる中村修二氏と日亜化学の訴訟において、著者が高裁に提出した意見書が紹介される。経営学・人事管理論および日本企業と日亜化学の経営・人事管理の実態をふまえて、一審判決を綿密に検証し、その誤りを論理的に指摘しており、まことに読みごたえがある。本書の白眉というべきであろう。
成果主義の困った点の一つは、「年齢や学歴の高い人が高い賃金を受けるのではなく、成果の大きい人が高い賃金を受けるべき」という理屈そのものにはもっともなものがあり、それゆえこれを旗印に成果主義を導入した企業はそれを転換することが難しいことだ。しかし、現実には著者も指摘するとおり多くの企業が「成果主義の改善」、ときには「成果主義の徹底」と称して、事実上成果主義を後退させているし、目端の利くコンサルなどは「成果主義そのものではなく、その運用が問題」などと方向転換し、新たな儲けをもくろんでいる。おそらく十年後には「成果主義?あれもアイデアとしては悪くなかったんだけどねぇ」と苦笑交じりに語るときがくるのだろう。昔も今も、企業経営者たちは「理屈が立派でも、実行しなければ意味がない」と言い続けてきたし、それは今後も変わらないだろうから。そして、そう言ったあとにこう付け加えるのだろう。「やっぱり、〈育てる経営〉が基本だよ」。
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