3人の洞察力に、おどろき
2019/09/11 17:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:燕石 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、橋爪大三郎と大澤真幸、さらに宮台真司を加えた三人の社会学者が中国について語った鼎談。テーマは、帯にあるように「そもそも『国家』なのか? あの国を動かす原理は何か?」である。
まず、中国というのは近代的な意味での国家ではなく、2000年以上前にできたEUのようなもの、中華連合と考えるべきだという。EUの背後にはキリスト教というバックボーンがあるが、中国では王朝によって儒教だったり法家だったり、あるいは仏教や道教だったり、統治イデオロギーをさまざまに取捨選択してきた。「儒教を捨てて三民主義を採用したり、三民主義を捨ててマルクス主義を採用したり、マルクス主義を捨てて改革開放路線を採ったりできる。政治的統一が根本で、政策オプションは選択の対象、という順番は変わっていない…ここに中国の本質がある」(橋爪)。
中国ではどの王朝でも、安全保障の優先順位がきわめて高い。王朝(政府)が存在するのは安全保障のためと言ってもいいくらいだ。儒教にしろ法家にしろ、その選択は安全保障をどうするかという問いにどう答えるかに他ならなかった。
近代になってからも、国民党も中国共産党も伝統中国の支配のあり方を忠実になぞっている、と橋爪は言う。ならば毛沢東は皇帝なのか、という大澤の問いに、橋爪はイエスでもありノーでもあると答えている。毛沢東は歴世の皇帝イメージを最大限に利用したという点ではイエスだが、歴世の皇帝が及ばない力を持つに至った。「(皇帝と決定的に違うのは)毛沢東の中国共産党は、伝統中国の官僚制に比べ、はるかに社会の末端にまで支配の根を下ろしているという点。………農民も、都市生活者も、生活手段を握る共産党に首根っこを押さえられている。この共産党の頂点に立つ毛沢東の権力は、伝統中国の皇帝が及びもつかない、絶大なものである」(橋爪)。
橋爪は中国の社会組織の原則を、「自分は正しくて立派である」「しかし他人も自己主張している」「従って自己と他者が共存する枠組みが必要」とした上で「この枠組みは、しばしば順番です。誰がえらいか、一番から順番をふる。中国ではどんな組織でも、‥…必ず(非公式に)順番がついている。これは争いを避けるためです」。しかし、中国は年功序列を重んずる日本と違って能力社会だから、誰を上位のポストに抜擢するか(言い換えれば誰を排除するか)を正当化する根拠が必要になる。
その排除の根拠となるのが、清朝の制度を踏襲した「個人档案(とうあん)」といわれる個人の人事記録だ。档案は本人ではなく上司が書くもので、本人は見ることすらできない。すべての档案を見ることができるのは中国共産党のNo.1ただひとりである。「ソ連や東欧の社会主義政権は総崩れになったけれど、中国はビクともしなかった。それは、‥…党組織と人事システムがしっかり確立しているから」(橋爪)。
また、伝統的な「易姓革命」の思想について、橋本はこう述べている。「天が、政治の正しさの根源。でも天は、見えないし、観察もできない…。現実問題として天は何かというと、人民の評判なんです。人民の評判を失うと政権は崩壊する、というふうに実際は機能してきた」。
だから、中国共産党がマスコミの統制に必死になり、ツイッターの反応に必要以上に神経質になっているのは、強面の顔の裏側で、実は自らの合法性の乏しさと、その人民の支持の脆弱さを自覚しているために過ぎない。
三人はこんな議論を重ねながら、さらに日中の歴史問題をどう考えたらいいか、中国はこれからどうなるのか、日本は中国とどうつきあったらいいのか、といったテーマに進んでゆく。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
なかなか面白い内容だった。方言が違うために言葉が通じず、そのために文字である「漢字」が重要だったという考察はとても面白かった。
ちょっと中国寄り?
2013/03/16 00:40
5人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「キリスト教」のときもそうだったが、橋爪氏はスタンスが対談前からはっきりしすぎる。フラットに判断するという論旨で読まなければ、それなりに知識は身につく良書だと思うが、本書の話を全て鵜呑みにするのも考えものである。
投稿元:
レビューを見る
本書を通じて、中国がおどろくほどプラグマティックであることを知らしめされた。
広大な地域の政治的統一という至上命題のために、歴代支配者はさまざまな思想を動員した。歴代王朝は儒教と法家思想を巧妙に使い分け人民を支配し、毛沢東は(意識的かはさておき)伝統儒教的な支配概念である天子概念の代用物としてマルクス主義を唱え、鄧小平は資本主義を受け入れ改革解放を断行し高度経済成長に導いた。
政治的統一の重要性を知っている中国国民は、大方の予想を裏切り、政治的統一を維持するために、しばらくは中国共産党による独裁を容認するであろうとの橋爪氏の意見は非常に説得的であった。
また、自分が起こした戦争の目的についてすらも認知することができない、中国的プラグマティズムとは対極にある日本社会の枠組(空気が支配する社会の枠組)において、中国社会が理解され得ないのは至極当然のことであると納得させられた。
投稿元:
レビューを見る
対談方式は嫌いなので星4つにしようと思ったが、やはり内容は面白い。
中国が良いとか悪いとかではなく、かの国を理解するにはどうしたら良いのかを考えさせてくれる。
うっすらとそうじゃないかと思っていたことを、なるほどと頷かせる。
それにしても感じるのは、日本の政治家が無能で、官僚が傲慢だと言うこと。
日本のパンピーを舐めて甘え過ぎだ。
投稿元:
レビューを見る
隣国の事をあまりに知らなさ過ぎた事に反省、同時に日本人の劣化ぶりに慨嘆(いや、もともとか?)。
朝鮮半島、米国を含めた東アジア情勢を過去を振り返った上で俯瞰でき、大変な学びを得た。
行き詰まりをヒシヒシと感じ、転換点にいる日本に焦りを感じるコト頻りなのにも関わらず、よくもこれまで、よくわからないまま刹那の感情に任せた言動をしていたものだ、と。このままでは何の解決もみない。自分から意識改革をしていかねばと思った。
投稿元:
レビューを見る
中国人の奥さんがいる橋爪大三郎氏、大澤真幸氏、宮台真司氏、御三方による中国を読み解く鼎談本。
目から鱗が落ちるとは、まさにこのことだな。中国人の我の強さは、こういうことだったのか。常に自分と相手を比べてどっちが上か下かを探り合っている。
中国人から見たら、やはり日本人は辺境の民なんだな。
たまたま戦後復興を果たして、経済成長できた日本が先進国の仲間入りを果たしたと思い込んでるだけで、日本は先進国としての振る舞いをしていないなと思った。
中国四千年の歴史は、深いなぁ。中国の方が、世界を相手にした時に、交渉もできるし、渡り合えるが、日本は、空気を読んで右往左往するだけ。空気なんてあるように見えて、見えてない。全然読めてないよ。
投稿元:
レビューを見る
なるほど、と納得するところも多かったし、
自分が勉強不足だな、と感じるところも多かったのは確か。
他方で、特に第3部ですが、事実の検証なしに(例えば南京大虐殺、例えば財務省の思惑)議論を進めていたり、簡単になるほど!と言えないところも多かったです。そして、そのことを指摘せず、その依拠するデータが真実であるかのように議論を進めていくことに少し違和感を覚える点もありました。本当にそうなのか?と疑いたくなる。
どちらかと言えば中国の立場に立った歴史や現状について学ぶことができます。だけど、この本から学んだこともふまえつつ、ちょっと立ち止まって考えなくちゃいけないんじゃないかな、と思いました。なんとなく、鵜呑みにしてはいけない気がします。
あくまで、自分の思考を深めるための一助とすべきではないか。
さらさら読めてしまうけど、だからこそ丸々信じるべきではない。
前回読んだ「ふしぎなキリスト教」は、自分と違う世界すぎてあまりそのようには思いませんでしたが、今回は少し、なんだかなぁと考え込んでしまいました。中立的に議論しているように見えてしまう、というのは自分の未熟さがなせる技なのかもしれませんが。
投稿元:
レビューを見る
内容が多岐に渡り、対談形式なのではっきりした結論がわからない部分もあるので感想が難しい。疑問も結構あるが、それでも面白い。特に天の理論。西洋的な神がいない中国が、皇帝の支配を正当化する為の理論だが、何も言わないし正邪もない。ただ勝ち残ったものに天命が下り、支配がうまく行かなくなって反乱が起こり倒されると天命が去る。毛沢東が皇帝か、というのも面白い。中国共産党がイデオロギーのない、つまり政党ではなく皇帝の意を実現する統治機構、いわゆる官僚組織というのもそう。だから毛沢東が失敗しても、マルクス主義じゃなくても、その権威は揺るがない。皇帝と官僚だから。日本と中国の戦後の関係の理解も面白い。周恩来や鄧小平などの理性的で反日感情を越えた政治判断できる人は今の中国にいるのかな?江沢民からかなり偏向した気がする。日本はもっとひどい。だいたい第二次世界大戦についての日本の共通理解が国民にない。教育の問題とか戦後に幅を効かせたマルクス主義史観の問題とか冷戦の影響とかあるだろうが、少なくとも宮沢喜一くらいまでは、日中関係がどうあるべきか、歴史観も含めてしっかりしていたと思う。今は本当にダメだと痛感。
投稿元:
レビューを見る
なかなか。
三人の中国通対談集。
中国は本当に国家なのか。毛沢東の間違い。鄧小平について。
参考になった。
少々、読み応えが有り過ぎる。
投稿元:
レビューを見る
大澤と宮台が気づいたことを言い、橋本が解説していくという形式で書かれた本である。中国のことだけを話せばいいのに、大澤と宮台が横道にそれて何とか自分の専門に持ってこようとしているところが東大話法の実例として面白い。せっかく中国に行ったのであるから、それぞれ3人が観察したことを自分の言葉で説明して欲しかった。
投稿元:
レビューを見る
この本で学んだことがいくつかある。中国は施政者に順番をつけ、それが絶対であること。文化革命は、旧来の中国の旧弊のようなものを打破し、結果としてその後の改革革新をやりやすくしたこと、尖閣諸島を巡る民主党の対応はそれまでの日中間の外交の暗黙のルールに反していたこと等。勉強になった。
投稿元:
レビューを見る
中国は本当に興味深い。私の知っている中国国籍の人々は皆物腰が柔らかく、心からいい人たちなので、あの強硬なイメージの中国と比べると全く異なる。また、世界のお金持ちの国にのし上がったにも関わらず、貧しい人々やゴーストタウンの話も絶えず聞こえてくる。そもそもやっていることは資本主義なのに社会主義と名乗っているのも不可思議。光と影の中国、どんなに知っても知り尽くすことのできないであろうこの国について、面白そうな本が出たので手にとってみた。
中国があんなに威張っているのはなぜか。それは東夷として見下していた国ニッポンが、この数十年中国を押しのいて成長してきたからだという。そもそも日本は漢字を取り入れたり、中国をお手本としている国だった。なのに眠れる獅子をやっつけたあたりから日本は中国に侵入して国をめちゃくちゃにしてくれた。なので、日本のことを絶対に許してくれないのだ。
尖閣事件の際に民主党政権が中国政府に行なったことが今までの慣習とは異なっていたから中国が怒っていることも、この本で初めて知った。
今まで、なんだよ中国と思っていたが、実はなんだよニッポンなのかも。日本が大好きなあまり、どうしても外側からの目をなくしてしまい勝ちだが、色々な方向から日本を、そして世界を見なければならないと改めて思い知らされた一冊。
投稿元:
レビューを見る
店頭での山積みに、本能的には気が進まなかったのですが、佐藤優さん曰くの「両論のバランスをとるのは大事」との理性で押し切って、手に取ってみた一冊。その佐藤さんが『読書の技法』で定義されていた速読でさらっと。お三方の対談集といった感じでとても読みやすかったのですが、、鵺のようないびつさが後味に残りました。
なんというか、無意識のうちに「中国(大陸)」を礼賛している人々の思考様式を垣間見たような。いや、意識もしているのかもしれませんが、カエサル曰くの「人は見たいモノしか見ない」のいい実例だなぁ、、と。
例えば、先の大戦への日本の参戦を、人権だの道義の観点で徹底的に断罪していながらも、文化大革命での大虐殺や、現在進行形のチベットやウイグルでの民族浄化を、単なる悲劇の一言ですませる不気味さ。
例えば、「中国」の歴史は2000年以上連綿と続いていてひたすら偉大だと言い続けながらも、「元」はモンゴル政権のため今の中国との連続性はなく、日本を侵略しようとしたことは過去に一度もないと言い切る支離滅裂さ。
極めつけは、北朝鮮の拉致なんて大した問題ではないと言い切っていることでしょうか、、うーん。その上で「中国大陸」は複数の民族を融和させた理想郷でマルクス主義の結実でもあり、それは「EU」と同質なのだとまでも、、うーん、悪い意味でのファンタジー?
なにはともあれ、「中国」に取り込まれた人の思考を見てとれるとの意味で、目を通した価値はあったかなと。もしくは「事実との対話を忘れて」歴史をカタル人の典型的な思考パターンを把握できたとも言えましょうか。それにしても「民主主義」「自由」「人権」「法治」「市場経済」といった普遍的価値観そのものを否定する論調って本当にあるんだなぁ、、とあらためて。
ん、彼らに問いかけてみたいところです、チベットやウイグルで今この瞬間も起こっている「民族浄化」をどう評価する気なのでしょうか、と。同じことが自分や家族の身に降りかかっても、「悲劇」の一言で済ますことができるのでしょうか、と。
投稿元:
レビューを見る
第1部中国とはそもそも何か
第2部近代中国と毛沢東の謎
第3部日中の歴史問題をどう考えるか
第4部中国の今・日本のこれから
の4部からなります。
中国と言うのは外から見てもよくわからない国で、歴史を誇りにするくせに何で前時代の文化を根こそぎ破壊するような大規模な革命を起こしたがるのか?なぜ毛沢東はあんな人気なのか?国体は何回も断絶していながら、なんで未だに中華思想が健在なのか?チベットや台湾の事を中国人はどう思っているのか?そもそも本当に台湾を支配下に置きたいのか?何で儒教文化なのにマナーが悪いのか?国民に共産党に対する不満はないのか?などと、僕にとっては疑問の多い国です。
この本の第1部、2部では中国人のメンタリティをよく解説していて今の中国人が何を考えているか参考になりました。
ざっくりですが、
中国人は血縁関係を非常に大事にして、それが担保されれば、支配するものがだれであってもそれ程、関心がないということ。
交通ルールが無いに等しいのに事故を起こさないように、個人が利己的に行動し、皆がそうであることを信頼して、予測することで結果的に秩序が保たれていること。(相手に気を遣うと逆に事故になる。)
中華思想から、西洋的な近代化にいまいち納得していないこと。
などです。
3部では、歴史問題に言及するのですが、ここはまぁ、十分でないというか、すんなり納得できない部分もありました。読むに当たっては疑問に思う部分は立ち止まって、よく考えた方がいいと思います。
4部は、アジアの領土問題のデリケートな部分に触れています。台湾や沖縄が、日、米、中間の均衡に非常に重要な役割をもっていることが再確認できます。
この本は対談形式なので、明確な結論みたいなものは無いです。
また、3人とも、昔の中国びいきなのかなぁという印象があります。
それはいいのですが、「今の日中関係あるいは日韓関係はが上手くいってないのは、かつての日本人のように、中国に対する強い畏敬の念をもって何かを学ぶ姿勢がないからだ。」といった記述があります。(韓国もまた、中国文化をを伝える役割をしていたことから、尊重されていた。)
ここで言う「かっての」とは儒学が盛んだった明以前の時代ですが、さすがにそんなあまりにも昔のことと今とを同じように論じるのは無理があると思います。
それを言うなら今の中国に尊敬できる部分がないと難しい。
しかし、この本によると中国人の考えとしては無くは無いようです。