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クトゥルフ神話の幻影
2001/07/08 23:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Fw: - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実と虚構、そして狂気が錯綜した、まさしく読者を狂気に陥れる本である。読み進むにつれ何が現実なのかがわからなくなってくるのだ。
多用されるアナグラム。謎掛け。繰り返される警告。のめり込む様に読んで、本当の恐怖を感じた。
しかし章が替るごとに場面(主人公)が何度も変わりいささか混乱を招く。その意図が解るまでには随分と読み進まなければならないため、一気に読み切らないとわからなくなってしまうだろう。しかし、一気に読み切ることができるほどに惹き付けられ、さほど苦にはならなかった。
ただ最後の山場とも言うべき解決編が、中盤まで盛り上がった割にはあっけなかったように感じたのが残念だ。
境界とは
2001/05/29 03:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:春都 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あとがきによれば「本格ミステリと本格ホラーの融合」を目指して著した作品だという。自身も述べているように正反対のベクトルの形式であるこの2つを、どう料理したのか。
読んだら必ず死ぬと言われる『THE RED FRAME——THE MOST HORRIBLE TALE IN THE WORLD』(赤い額縁、世界で最も怖い本)。ジョーグ・N・ドゥームという無名の作家が書いたその本を手にしたものは、みな作者の「悪意」に侵されてしまうという。
現実と虚構、そのあいだに引かれるべき境界線というものが物語が進むにつれ曖昧に、いや無くなっていく。作中作である「赤い額縁」によって構築されているこの『赤い額縁』とは、虚構を現実に、現実を虚構の内にいつしか取り込んでしまうのだ。
解決されることを前提として書かれる本格ミステリと、腑に落ちることを許さない本格ホラーを融合させるために倉阪鬼一郎が試みたのは、対立する2つの要素をリンクさせ、次第に混じり合わせることだった。それは一応の結果を見せているといえるだろう。
しかし、そのことが作品にとって功を奏しているとは思えなかった。難しい企みだというのは分かるが、完成度としてはまだまだ低いのではないだろうか。不格好に「歪んだ形」のまま終わってしまったような感じだったのである。
多用されるアナグラムにそれなりの意味を持たせたことは面白い。たんに「本格ミステリ」を表すためだけでなく「なぜアナグラムを作るのか」ということにまで言及し実践したのは、他作家の作品にときおり見られる「オマケ的」な素材で終わってはいないということで、評価できよう。
ただ、僕としてはいつも「あ、そう。よく考えたね」程度の感想しか持てないのがこのアナグラムというやつなので、それ自体が優れているのか、面白いかどうかは判断できないのだが。
「本格ミステリ」と「本格ホラー」の融合。それがこの作品によって成し得たとは思えないのだが、少なくとも可能性は見出せたような気がする。倉阪氏は今後もこのテーマに挑戦するということだし、新たな、より完成された姿を見せてくれることをしばし待とう。
最後に、作中人物のある言葉を引用したい。
「一度でいいから読者が発狂するようなものを書いてみたい——それは作家に共通する願いでしょう」
倉阪鬼一郎の視線はおそらくここに向いている。
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