著者の愛らしい人柄や1950年代の交通文化が目の前に蘇ってくるような阿川弘之氏のエッセイ集です!
2020/08/02 12:29
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『春の城』(読売文学賞)、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『井上成美』(日本文学大賞)、『志賀直哉』(毎日出版文化賞、野間文芸賞)、『食味風々録』(読売文学賞)など、数々の名作を生み出してこられた小説家で、評論家であった阿川弘之氏のエッセイ集です。同書では、愛車のルノーを駆って都内を走行中、雨やどりをする女子高校生に「乗りませんか?」と声を掛けてしまう著者の人柄が垣間見えたり、また1950年代の交通文化が甦る、乗り物の楽しさ満載の爽快なエッセイです。同書には、「一級国道を往く」、「機関士三代」、「スチュワーデスの話」、「おせっかいの戒め」、「ホノルルまで」、「アメリカ大陸を自動車で横断する」、「ゴア紀行」、「22年目の東北道」が収録されています。
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もとは1960年に出た本なんだけど、古びた感じはなくとても面白かった。国道ならぬ酷道を編集者と走破したり、マイナーすぎる場所、インドのゴアからはるばる船で帰ってきたり。スチュワーデスや機関士の語りを借りて書かれた章も面白い。そのころの交通の様子がまざまざと浮かぶよう。
アメリカ南部の辺りを「まことに荒々漠々たる風景」と評する一方、日本やヨーロッパは「一草一木に歴史があり、味わいがあり、人の情念が染みついているよう」と評していた部分が印象に残った。
ついでに「悪銭身につかず」は「easy come,easy go」というらしい。なるほど。
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戦後、復興していく時代の日本の交通事情を、いろいろな形から描いた物。今の交通事情と比べながら読むと面白い。
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●は引用、→、その他は感想。
●わが国の道路のすさまじさについては、巷間いろいろな冗談がいわれている。曰く、「陸の玄界灘」「洗濯板道」「ソロバン道路」「ロデオ・ロード」「ケ・セラ・セラ・ロード」(もうどうでも勝手にしやがれという意味)「泣く子も黙る道」「銀杏がえし」(胃と腸がひっくりかえる)等々。さらに曰く、「廃ウェイ」「酷道」(国道)「険道」(県道)「死道」(市道)「懲道」(町道)「損道」(村道)―
→「酷道」という言葉は最近になって一部のマニアが作り出した言葉と思っていたら、今から50年以上前に使われていた。
●旅客名簿では、それから「新聞禁止」の項目も目をとめます。北海道とか九州とかの新聞には、その日会社の飛行機で発着なさった主なお客様の名前が出ますけど、出ては都合の悪いという方もございますから、これも心得ていなくてはなりませんでした。
長距離定期便のトラック運転手は(悪路のため)最大限5年、年齢は30歳までしか勤務できない。伊丹空港行きの飛行機が途中、伊丹空港にも着陸する。以前にも書いたが現在ではまったく想像できない時代である。
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乗り物好きな阿川弘之氏の、旅のお話集。
紀行文にとどまらず、戦後の日本の交通に関する興味深いレポートも満載。
一章ごとに写真が載っていて、「手前にいるのが著者」などとキャプションが添えられている。
誰が撮ったのかな?編集者でしょうか?奥様でしょうか?
ユーモアあふれる語り口で、昔懐かしくもあり、大変勉強にもなった。
『一級国道を往く』
日本の道路はひどい!
1958年10月、一級国道を使っての東北の自動車旅に、筆者夫妻と編集者カクさん、運転手スケさんの4人でトライ。
あまりの悲惨さに、実体験が書かれているだけなのに、声を出して笑ってしまった。
『機関士三代』
松井さんちの長男3代の国鉄職員のリレー手記という形をとっている。
日本が鉄道にどれだけ力を注いでいたか(だから道路がひどいのだ)、時間通りに運行される鉄道交通の陰に、乗務員のどれだけの苦労があるかを知る。
3代の認識が時代と共に変わっているのも実感。
『スチュワーデスの話』
正確なところはぼかしてあるが、多分、戦後の日本航空第1期のスチュワーデス(当時はこう呼んだ)の話を聞くという形。
そういえば、振袖姿が売りだった。
『おせっかいの戒め』
突然の豪雨が毎日のように襲った時期・・・
自分だけ安穏に車に乗っているのが悪いような気がして、雨宿りの人、ずぶ濡れの人に、つい「乗りませんか」と声をかけてしまう。
しかし、今で言う、モヤモヤした気分になることばかりだった。
『ホノルルまで』
(1955年らしい)
阿川氏夫妻は、アメリカ留学のため、太平洋の定期航路のアメリカ客船でハワイを目指した。
船内では西洋のマナーで振る舞わなくてはいけない。
慣れぬレディーファーストを演じ、疲れる阿川氏。
狭い船室の中だけ「日本帝国」だ。
人間観察が面白い。
『アメリカ大陸を自動車で横断する』
(1956年頃。アメリカでライセンスを取ったらしい)
州ごとに交通ルールが微妙に異なり、お巡りさんに捕まりそうになる。
『ゴア紀行』
一緒に東北自動車の旅をした編集のカクさんから、今度は海外でルポを書きましょうと言われ。
行きは鉄鋼関連企業の商社マンと共にチャーター便で。
帰りは鉄鉱石運搬用のボロ船で、24日かけてゴアから帰国した。
何もすることがなく、ノイローゼになりかける。
『二十二年目の東北道』
一級国道の自動車旅から22年、メンバーを2代目スケさんに入れ替えて、さあどんな変化を遂げたのか、また東北の旅に出た。
全て舗装済みの快適な道路、解説の関川夏央氏も書かれている通り、紀行文は困難な旅であるほど読者の共感を呼びやすい・・・あまり笑うところもない旅であった。
一つだけ、長距離トラックのベテランドライバーのセリフが面白かったので、ネタバレになるけれど載せてしまう。
「昔は道悪ぐて走(はす)れなかった。今は渋滞で走れねえ。走(はす)れねえのは今も昔も変わらねえ」