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投稿者:arima0831 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて読む作家。ミズーリ在住で、大学で教え乍らの作家生活らしい。過去にはシリーズになった作品もあるが、ワタシは残念ながら読みそびれている。
夏のある日、一人の少年が鉄道で事故死する。その真実に謎があり、周囲の子供たちは不思議がっている。前半は何やら不吉な予感を孕んで、暗い波動がどこに向かうのか見えぬまま、何かと複雑な人間関係をあれこれ覗いては繋ぎ、あるいは切り離す。
十代初めの少年がいて、それよりもっと幼い弟がいる。弟は失語症で、しゃべろうとするとどもる癖がある。姉は将来性を見出されてジュリアードに進もうとしているのだが、何故か意志がはっきりしない。どうも田舎に残って、そばにいたい男性でもいるらしい。
中盤でこの姉のアリエルが失踪し事件となる。
そこまでは暗く熱い波動を孕んだ予感にすぎなかったものが、目の前で家族を脅かし始める。
アリエルの失踪に関わったのは誰なのか?
そしてどのように?
一貫して話を支えていくのは、謹厳実直でかつ高度に知的な牧師のネイサン。この少年の父でもある。
彼の祈りは情緒的でなく、大きく広くさまざまな人の心を覆い尽くす。
状況がますます錯綜し、すべての人がどうしていいか途方に暮れている時の、彼の「祈り」は実に深く重いところから心を前向きにさせる力が宿っている。
いっぽうで、そんな立派なエネルギーに満ちた「祈り」を退け、ごく当たり前の祈りを求める母。
その「ありふれた祈り」は、少年に奇跡をもたらす。
1960年代のことなので、ネイティブアメリカンはあからさまな人種差別にあっているし、女性の行動規範は今とは比較にならぬ古臭いコードで縛られている。そうした厳しい時代背景の中で、辛い思いを胸に抱えて人々が、神の名を頼りに心の傷をいやすことはできるのだろうか?
ミズーリあたりの自然描写が生き生きとしていて、陰惨な話に明るい光を投げかけてくれる。
暗い奔流のような話の流れが行きつく先は、意外や光に満ちたところで、切ない思いの中で複雑な謎を提示しながらも、読み終わって。非常に救われた思いになった。
少年を成長させるひと夏の物語、というのはよくある背景なのだが、そういう類の話としてもなかなか上出来なのではないだろうか?
対立する二つの祈りのシーンがそれぞれ素晴らしくて、それぞれに泣ける。
全編大変映画的な映像が行間から立ち上がってくる話なので、どこかで映画化されそうな気がする。
正直なところ前半がやや冗長なので、ここでは多少忍耐がいるのだが、後半に入って話の奔流に巻き込まれると、一気にラストまでのみ込まれてしまう。謎自体は非常に単純なものだが、二転三転する展開は牽引力抜群。二つの祈りに集約される、濃厚な人間ドラマが印象的だった。
非常に気に入ったので、他の作品も是非読んでみたい。
クレストブックスでもおかしくない。
2015/09/29 17:41
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはもう、何故かわからないけどタイトルにぐっと胸を掴まれて。
きっと、多くの人はなんでもなく平凡な日常を過ごしていくのに、取り返しのつかない出来事にその平穏を破壊されてしまった人々というのは必ずいて、なにも知らなかった過去を取り戻したいのに取り戻せない、そんな物語なんだろうなぁ・・・、といろいろ想像してしまいました(また、表紙も抽象的な感じですし)。
すっかり大人になった“わたし”は、13歳のとき、1961年の夏を思い出す。
すべての始まりは機関車にはねられて死んだ少年ボビー・コールだったのか。 それとも少年の無力さや非力さを自覚していなかった“わたし”の未熟さ故だったのか。
個人的にも好きな<少年もの>ジャンルではありますが、大人視点からの回想なので瑞々しさは弱め。 その分、文章に深みがあるというか、「これって新潮社クレストブックスに収録されてても違和感なくない?」と感じてしまう文学性の高さが素晴らしい。
私個人は無神論者ですが、<祈り・祈る>という行為に意味はあると思っています。今作で描かれる神はキリスト教ですが、それが読解の妨げになることもなく。
事件そのものは犯人がすぐわかってしまう単純なものですが、この主題はむしろ大切な人を失くしてしまったあとの気持ちのありようや家族や他の人との絆、自分自身意識しない偏見の存在の自覚など、平凡に生きていたら気づく必要のないことに気づいてしまう苦悩と、けれどそれ故により深く相手を見つめられるという利点を得られたような気がするけれど、それもまた事件のために苦しんだせいと考えてしまうような。まるで生きている自分と死者たちとの違いはほんのわずかにすぎないと理解することが救い、とでもいうような。
2歳下の弟ジェイクに比べて、普通もしくは些か愚鈍な“わたし”が語り手だったのも読み終えてみたらそれでよかったと思えた(途中はかなりイライラさせられたが)。
ありふれた祈りが必要なのは、それが普通の人だから。
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あらすじに惹かれて購入。
『少年時代の過去を回想する』という定番の構成。ナイーヴな子供の揺れ動く感情と謎が上手く絡みあい、飽きさせない。当時の偏見を上手くミスリードに繋げているのは著者の問題意識だろうが、あまり鼻につくような印象はなかった。
全体的には良く出来た切ない青春ミステリとして纏まっていると思う。
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なかなかやるなあ、この人。
"少年時代""大人になって振り返る"という点で、思わず「スタンド・バイ・ミー」を連想させられる。
そして終わりには静かな余韻が用意されている。
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最初(2ページまでに)に提示されるキーワードが、1960年代、少年、夏、線路、そして死体。
作者はあえてこのキーワードを並べたんだと思ってますが。読み手はイメージを掴みやすいですから。
しかし彼の物語より遥かにミステリ色が濃い物語。
米国人はノスタルジックな物語が好きなんでしょうかね。
年初にいきなり佳作との出会いです。
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アメリカには少年の冒険小説がよく似合う。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンに始まった少年が冒険する物語は、少年向けの小説であったとして、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』やロバート・マッキャモンの『少年時代』などなぜかホラー作家の正統派少年小説として、かつて少年であった大人たちに読まれ、評価された名作として知られている。
時を経て、リーガル・サスペンスの巨匠、兼売れっ子作家であるジョン・グリシャムですら、『ペインテッド・ハウス』というジャンル外の傑作をものにしている。そららの流れはミステリの世界にも受け継がれ、ジョー・R・ランズデールの『ボトムズ』や『ダークライン』などは少年冒険小説でありながら、一方でミステリの形を損なわないばかりかむしろミステリとして評価されている部分が注目される。
同時に少年の冒険の舞台としてしばしば取り上げられたのが、アメリカ南部である。南北戦争の影、黒人差別の文化、そしていっぱいの手つかずの自然。少年の眼という純粋な感受性のフィルターを通して、驚きと発見に満ち満ちた世界で、様々な大人たちの生と死を見つめながら、人間生活の矛盾に満ちた世界の仕組みを理解してゆくには適した土地風土であったに違いない。
だからこそ南部出身の作家はジャンル外であろうと少年時代の物語を書いてみないではいられないのかもしれない。
さて、その少年冒険小説の系譜に、また一作の金字塔が登場した。本書は、ミネソタ・リバー沿いに広がる田舎町を舞台にしたの郷愁と抒情に満ちたミステリーである。作者はコーク・オコナー
・シリーズで知られる作家だが、シリーズ外作品を書いたことで、なんとこれがアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を受賞、さらにバリー賞・マカヴィティ賞・アンソニー賞と続けざまに受賞し四冠に輝くことになる。
なんと言ってもこの作品の魅力は、1961年に生きる12歳の少年を主人公にした作品世界がとても魅力ある登場人物たちと時代背景によって構築されていることだろう。2歳年下の純粋な正義感に溢れた吃音の弟、音楽の才能に恵まれた年頃の美しい姉、大戦の傷を引きずる教会神父の父に、その父の戦友で放浪者のガス。『大草原の小さな家』と同じミネソタを舞台に、自然いっぱいのミズーリ川流域で、川にかかる鉄道線路を渡る二人の兄弟の姿があまりにもみずみずしい。
それでいながら、これはしっかりとミステリである。死と向かい合い、やがて少しずつ成長をとげてゆく少年たちの物語でありながら、死の絶望的なほどの悲しさと、生き残った者が心に負う痛みは、抉られるようだ。それでも少年たちの生命力は泉のように途方もなく、彼らは真相に迫ってゆく。小さな名探偵たちが辿る冒険の道は、このひと夏にこめられている。
いくつもの死と別れ、真相の残酷さ、癒しと成長をこめたこの素晴らしき世界にこそ、少年たちの夏があった。一ページ一ページに作家の品格が滲み出ていて、少年のどきどきするような好奇心に連れられ読者はこの本から眼が離せなくなるだろう。ぼくにとっても『ボトムズ』以来の傑作登場が嬉しい。アメリカならではの少年時代の郷愁小説である。この種の作品は希少ゆえにとても価値があり、なおかつ誰の心にもあるノルタルジーに共鳴するせいか、いつまでも心に残る。そんな作品に餓えている読者にお勧めの一冊である。
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ミネソタ州の小さな町に暮らす牧師一家を襲った悲劇、渦中におかれた13歳の少年の視点で事件の顛末が語られていく。1961年という時代設定もあってか、時間がゆっくり流れるような前半の語り口が味わい深い。感情の起伏を制御し家族や友人を慈しむ牧師である父親の言動と思春期の入り口で家族に降りかかる災厄に胸を痛める兄弟の姿が琴線に触れる。翻訳ミステリを丹念に読むという久しくなかった行為を楽しめる秀作。
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この作者の作品は以前読んだがさほど好みではなかったが…。
この作品は少年が遭遇したひと夏の出来事が抒情的に、そしてすごく視覚的に描かれている。
サスペンスという括りにするとさほどの事件も起きないし、犯人(真相)もあっさりと分かるのでは?
でもこの作品は殺人事件を核にしながら、61年夏のアメリカの田舎町の生活や人間関係を少年の視線を通して濃密に描きこんで、文芸作品に近い。
この時代を過ごした人々から見るとたまらなく懐かしく切ない物語であろう。
またこの時代を共有しない我々でも、トマス・H・クック、ジョン・ハードの小説や、「スタンド・バイ・ミー」「グリーンマイル」のような映画、ホッパーの絵画に描きこまれたアメリカの古き良き日常の生活が見事に再現され、懐かしさを感じる。
運命の糸のように絡んだ人々の人生と、兄弟の少年時代の終わりと卒業が切なく描きこまれて傑作となった。
こんな文章が書ける作者だったとは!改めて他の作品を読んでみようと思う。訳も丁寧だしおそらく原作にあるリズムが大切にしてあってとても気持ち良く読めた。
・・・エピローグは心に沁みる。
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手にした段階から、自分好みの物語だとの予感がしました。アメリカ中北部ミネソタ、主人公が少年。大草原の小さな家? スタンドバイミー? ジェイムズディーンが出できそうな雰囲気、、、前半、なかなか舞台説明、人物紹介が長くてじらされますが(^^*)、待つだけ後半楽しめました。それだけ奥行きあり!
性格の違う兄弟、どちらもいいです。
庶民の生活、人生感にも見える神との距離。
心の平和なることを祈る、与えられた境遇から、人それぞれ、か、、、
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「天にましますわれらが父よ、この食べ物と、これらの友と、わたしたちの家族への恵みにたいし、感謝します。イエスの御名において、アーメン」それだけだった。それで全部だった。実にありふれた祈りで、記憶にとどめるほどの理由もないくらいだった。だが、あれから四十年、その祈りを私は一字一句おぼえている。「ありがとう、ジェイク」母が言い、わたしは母の顔つきに変化が生じているのに気付いた。父は魅入られたような、ほとんど幸せともいえそうな顔をしていた。「ありがとう、息子よ」そしてわたしは、畏敬の念に近いものを持って弟を見、心の中で思った。神よ、感謝します。
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★3.5
少年達のひと夏の思い出は、キングの『スタンド・バイ・ミー』や『IT』を彷彿とさせ、取り返しのつかない過ちを回顧する語りは、クックの『記憶』シリーズを思い起こさせる。ただクック作品とは違い、ミステリやサスペンス色はかなり薄く、事件は起きても爽やかさ(と言うには死が身近すぎるが)が前面に出ている印象だ。
主人公兄弟の忘れ得ぬ夏は一人の少年の事故死から始まり、あまりにも痛ましい悲劇を経て否応なく子供達を大人へと成長させる。子供らしい好奇心がひとつの悲劇を生むきっかけを作ってしまうくだりは読んでいて痛ましいが、この後に迎える家族の再生と奇跡はその悲劇ゆえに心に響くものがある。
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始まりが1人の少年の死からなので、『トーマの心臓』を思い出す。
少年の死は直接メインテーマではないけれど、この話の始まりとしてはすごく大事。
子供のままではいられない、というさしせまってくる話。
真実は残酷なものだったが、知りたいと思ってしまった以上、突き進まないわけにはいられないという心理は理解できる。
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エドガー賞受賞作品なので読むことにしたが,推理小説としての出来はよくない.殺人が起こるのは物語の半ばごろになるし,犯人は想像どうり.ただ話の半分以上はキリスト教の赦しとミネソタの田舎の事なので,そこが受賞理由かもしれない.ニューブレーメンはニューウルムのこと.マンカート(Mankate)と訳してあるが,マンケイトが正しい発音です.ミネソタ物.
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アメリカの家族もの、とりわけ父子ものはちょっと苦手だけれど、これはおもしろく読めた。主人公の少年、父母、姉と弟、周囲の人々、それぞれの造型にリアリティがあって、しみじみ胸に迫る物語になっていると思う。
ミステリとしての「真相」は、そういうのに鈍い私でも途中で見当がついたし、すごく派手な展開があるわけでもない。同じようなのをどこかで読んだような気もする。それでも最後までぐいぐい読まされた。あざとさのない語りがいい。欠点のない人などいないし、苦しみのない人生もないけれど、人は生きていくのだ。そんなことを思った。
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少年の日の、ひと夏の事件を回顧する内容。
初めて読んだ作家さんですが、切なく、確かな描写で、とてもよかったですよ。
ミネソタ州の田舎町、1961年。
13歳のフランクはやんちゃ盛りで、街中をすばしこく飛び回っていました。
穏やかで博識な父親は牧師。
母は、良家の出で、芸術家肌。
二つ下の弟ジェイクは賢いが、緊張すると吃音になるため、からかわれることもあります。
姉のアリエルは美しく、音楽の才能に恵まれていて、弟達にも優しい。
一家の希望の星だった姉が行方不明となり、フランクの住む世界はとつぜん悲痛な色を帯び始めます‥
豊かな自然に恵まれた町ですが、上流階級と庶民の住む区画は分かれています。
人種差別もあり、普通の人々の中に、いろいろ癖の強い人間もいる。
互いに許しあってほど良い加減で暮らしていた、ゆったりした描写が、しだいにテンポを速めていきます。
複雑な出来事をただ目を見張って受け入れるうちに、男の子達は大人の世界に一歩、足を踏み入れていく‥
卑小な人間のどうしようもなさ、悪気はなくとも個性がぶつかり合い、弱点がすれ違う哀しさ、苛立ち、切なさ。
タイトルになっているシーンは感動的です。
よく描ききってくれたな、と胸をうたれました。
エドガー賞はじめ全米の主要なミステリの最優秀長編賞を独占した作品です☆