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投稿者:小市民 - この投稿者のレビュー一覧を見る
永田鉄山という人については陸軍内部の権力争いで暗殺された人程度の認識であった。しかし、本書を読み進めていくにつれ、戦争の形態が軍隊単独の戦いから軍隊の後ろにある「国家」も含めた戦いになることを見通していた稀有な軍人であったことが読み取れる。
永田本人は戦争を回避せんとしたにもかかわらず、陸軍の特性であるかも知れないが「現場の判断」による戦線拡大に巻き込まれたが、にもかかわらず如何にして「必然性のない戦」を収束せんと努力した。このことが、後々、皇道派の反感を買い、かつ、「国家」による戦争を「政財界の走狗」である統制派の象徴とされ、暗殺につながったと言えよう。
前にも述べたが戦争を軍隊同士の戦いではなく、その背後にある「国家」も含め、冷静に戦力分析をしたということでは、海軍における井上成美と通じる所があると言える。
また、永田自身は実戦経験がなく、井上も実戦では芳しくない評価(これについては井上を貶めるためであるという論もある)があり、「現場の指揮官」ではなくどちらかと言うと軍政家であったことも両者に共通するところである。
歴史にifはあり得ないが、永田鉄山が相沢三郎に殺害されず、東條英機に成り代わり首相になっていれば米内・山本・井上らと交わっていたであろう。
その時、歴史はどうなっていたのか。
このような方がいらっしゃったとは
2015/11/11 06:46
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投稿者:シンジー - この投稿者のレビュー一覧を見る
45を過ぎて、歴史を学びたい衝動に駆られ、自分がその立場でどうするか、考えさせられる場面が多い。まさにそれを感じさせてくれる1冊。
軍民協力を目指して
2015/09/12 05:09
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投稿者:金吾庄左ェ門 - この投稿者のレビュー一覧を見る
仮に日本が戦争となった場合、国家を挙げた総力戦となるのは必定。だからこそ、国民に軍の役割を知ってもらい理解を深めてもらう事で軍に協力してもらい総力戦体制を整えようというのが永田の考えでした。
後年、戦争になったら「国民は軍に協力して当たり前」とする考え方が主流となる中で、永田の考えはあくまでも戦争になったら「国民に協力してもらわなければならない」でした。軍事調練も軍隊とは何か戦争とはどういう事かを国民に知ってもらうのが主目的だったのです。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
暗殺された事件は知っていても実像がわかりにくかった人物に焦点を当ててくれた。客観的に紹介されていて時代背景なども生涯を丁寧につづってくれたおかげで分かりやすくなっている。防衛に関しては少し危険な思想の香りもするが、受け手が考えさせられるようになっている。
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これは読むべき一冊。感動した。正直永田鉄山については、名前を聞いたことがある程度の認識しかなかった。
当時の日本陸軍にこういった人物もいたのだと少し驚いた。現実を見据えながら戦略を考え、合法的漸進的に改革を進めるという姿勢には共感した。
歴史にifは無いが、もし暗殺されていなければ日本の歴史は変わっていただろうと思わせる人物。
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軍務局長として相沢中佐に斬殺されたことで有名な永田鉄山であるが、その人柄、思想、陸軍における立ち位置、この事件の背景などについては何も知らないに等しかった。さすがに、本の帯にある「東條ではなく、この男だったら太平洋戦争は止められた」というコピーをそのまま信ずるわけにはいかないが、「この男」について知りたいという気にはなった。
本書では、永田鉄山のことだけでなく、昭和陸軍の統制派と皇道派の思想や対立理由、暴走を繰り返した関東軍の考え方なども一緒に分かる。
太平洋戦争に進む昭和の日本、特に陸軍についての入門書としても読めそうだ。
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名前は知っているが具体的にどういう人かわからない永田鉄山がよくわかった。長野県諏訪市生まれの秀才。石原莞爾のような天才肌ではない。バランスのとれた人格と思考をもつ。人柄も真面目だが堅苦しいタイプではなかったらしい。第一次世界大戦を視察した経験からこれから起きる戦争は総力戦になると考え、陸軍の改革と国家総動員体制の在り方を構築しようとする。その方法は常に憲法と法律から逸脱しない漸進的なやり方だった。しかもその体制を整えるとこで戦争への抑止になると考えていた。しかし、天皇親政の急進的な革命的変化を求める皇道派と衝突。陸軍大臣を頂点とする秩序と規律を重んじ、非合法的な手段を嫌う永田は恨まれる。また関東軍の独走を抑えるのに腐心した。皇道派の相沢三郎が、怪文書を信じて永田を斬殺。翌年、二二六事件で皇道派が壊滅。永田が望んだ統制を取り戻すが、永田のいない陸軍に長期的視点と鉄の意志と柔軟な思考とバランスの取れた人格を持った人間はいなかった。永田を慕った東条英機などが跡を継ぐが、永田が極力避けようとした戦争に突入する。永田の前に永田なく、永田の後に永田なし。
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東條英機の陸士一期先輩鉄山と言ふ厳つい名前、戦前陸軍の統制派と皇道派の対立、そして戦争への道、これら小生の戦前日本史のいい加減な脈絡に一本それなりの筋を通して貰つた書と言へる。
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おもしろくない、あくまでも表面的に永田鉄山の人生をなぞっているだけ。
暗殺の背景、特に相坂中佐と真崎甚三郎との関係を明らかにしてほしかった
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永田鉄山の生まれ故郷、信州の諏訪まで足を運んでの取材、
これを皮切りに生い立ちが紐解かれてゆく。
ほかの書籍と比べると、永田を美化してるきらいがあるが、
その人となり、とりわけ家庭人としての描写を読むと、
陸軍軍人という肩書きをのぞいた魅力が垣間見え、
それだけでも読んでみる価値はあるように思えた。
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陸軍統制派の中心と言われる永田鉄山。本書では派閥の長ではなく、持久総力戦に耐える国を作りのために奔走した人物として書かれる。鉄山は実戦経験はないが、第一次世界大戦を視察、次に起こりうる戦争は、必ず世界大戦となり長期的な持久戦になると予想する。そのような世界大戦でいかに我が国が生き残っていくための戦略を模索する。資源不足は致命的であり、それを大陸に求める。彼は、できる限り平和的に資源を確保していくべきであると考えるが、彼の対支政策をを弱腰と考える軍人たちと対立する。さらには革命後のソ連との早期対決を希望する皇道派との対立は深く、結果的には暗殺されてしまう。
このような軍部内の不一致は軍部の統制を第一に考えた鉄山が避けたい事態であり皮肉なことである。
その後の日米開戦につながる軍部の失敗は単に暴走というより不一致の中で行われていく意見調整の結果なのである。天才的な戦略家がいたとしても独裁が許されない限り、まわりの声のでかい人がぶちきれない程度に下手な調整を行っていくと結果的にはトンでもないことになりかねないという教訓なのだろう。
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陸軍の至宝と言われた永田鉄山の生涯を知るには良い書であった。ただ随所に『~だったと言われる』とか、『~のようだ』と言う表現があり、このために全体が印象論で書かれているように見えてしまうのが残念。また著者の右寄りな思想が垣間見える所が伝記としてのクオリティを更に下げている。
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軍の存在は戦争を回避するとこという真っ当な軍人の思考をもった人だなと思う。
個人の存在で戦前日本の歴史の流れが大きく変わったかどうかは不明だけども、永田鉄山はこの人がいたら、と思わせる魅力があったのは分かる。
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もし彼があの時に暗殺されなければ、陸軍の暴走に歯止めをかけられた人物の筆頭だったはず、という仮説を検証した内容です。
白昼陸軍施設内での斬殺事件を受け、永井荷風の日記には、「政党の腐敗、軍人の過激思想、国民の自覚無き事という三事が日本現代の禍根なり」と記した。
日本が全国力を上げて、対外交渉をしなければならない時点においてさえ、陸海軍間での覇権争い、統制派と皇道派といった思想の対立を内部に抱えていた点で、日本の敗戦は決まっていたのでしょう。さらに、私腹を肥やす政治家の存在や、マスコミに踊らされ「戦争」を煽る国民など、本当に日本の未来を真剣に考えて行動する人材がこの国にいなかったのは不幸でした。そんな中で、永田鉄山がバランスの取れた国際派であり良識派だったのは間違いありません。歴史に「もし」はありえませんが、彼なら「支那事変の発生を未然に防ぎ、国論の帰一と軍民の一致を実現し、軍を統制できた」と想像させる人物であったのは確かです。さらに言えば、永田を失った後に出てきたのが、小心者の東条英機だったことも不幸でした。こうしたテロは連鎖を生み2.26事件などの軍人の暴走につながっていきました。
勇猛果敢な日本の「サムライスピリッツ」なるものが、戦中には「問答無用のテロ」や「玉砕」などといびつに変容していたのもなんとも哀しい。
本書PR:
斬殺事件から80年 昭和陸軍「スーパーエリート」の人生 戦後70年の夏がやってきます。なぜ日本は太平洋戦争にむかったのか。いや、そもそも日本軍はなぜ中国、満洲に権益を求めて暴走したのか。さまざまな観点から、昭和史の議論が熱くなる夏になりそうです。 本書の主人公、永田鉄山は「陸軍の至宝」「永田の後に永田なし」とまで言われた、日本陸軍史上最高の「エリート」とされた人物。50歳で陸軍省の要職中の要職、軍務局長に抜擢されますが、1年後、白昼の陸軍省内で陸軍中佐に斬殺され、日本中に衝撃を与えます。 なぜ、スーパーエリートは殺されたのか。そして、彼が生きていたら、日本の歴史はどう変わっていたのか。 これまでに「樋口季一郎」「松井石根」の軍人評伝を文春新書で書き上げている早坂隆さんによる筆は、エリートだからこそ背負わねばならなかった運命を様々な証言、資料から編みあげていきます。 かつて理想を掲げあった仲間と溝が深まってゆく目標の違い。相次ぐクーデター計画と怪文書が飛び交う陸軍内の「派閥抗争」。永田が闘い続けたものとは何であったのか。昭和史上もっとも衝撃的な事件の真相に迫る、ノンフィクション評伝の誕生です。
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かの「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」と評される日本陸軍の至宝、永田鉄山の生涯を綴る一冊。永田は昭和10年に同じく陸軍中佐の相沢三郎の刃に沈むのだが、仮に永田が生きていれば大東亜戦争は起こらなかったとも言われる大人物である。永田を一言で説明するのは難しいが、長野県に生まれ、幼少期より一貫して正義を貫き悪きに屈せず自身の主張を最後まで貫徹した点で実直、世界と照らした日本の現状と将来を憂い平和のために国家総動員を推し進める先見性など、真っ直ぐで誠実な天才であった事は間違いない(自分の語彙力では上手く言い表せないが偉大な人材)。陸軍士官学校16期の岡村寧次、小畑敏四郎と並び陸軍の三羽烏と言われ、後々まで親交を深める。バーデン・バーデンの密約も有名な話だ。
傑出した人材であればこそ周囲に多くの敵を作るのはよくある事だ。永田は対ソ戦略についても長期的展望を持ち、関東軍の対支那強行戦略にも反対の立場を採る。よってもう1人の天才石原莞爾とも対立的な立場となる。この事から弱腰と揶揄される事も多かったが、果たして機械化近代化を推し進め、広大な領土を持つソ連を駆逐する事が当時の関東軍に可能であっただろうか。また国共内戦を抱えて思想信条不統一でありながらも膨大な人口と領土を持つ中国相手にどの程度戦えたのだろうか。ましてや中国を相手にする事は、太平洋を挟んで背後にあり、中国進出に野心のあるアメリカを敵に回す事になる。アメリカは世界最強の軍事力と工業力を持っているにも関わらずだ。
そう言った意味で、全てが終わり去った現代の人間(私)が、簡単に評するのは失礼な話だが、永田の考えであった暫時国力を増進し、来るべき日に備える方が余程現実感がある。
因みに石原の世界最終戦争論もこれはこれで圧倒的な先見性に驚かされるが、多少ぶっ飛んだ内容でもあり現実感はやや薄れる。関東軍の最前線にあったからこそ対支那戦略などでは現実的なものであったろうが、西欧やアメリカ、ソ連など世界規模で見た場合は、やはり日本の国力と現状を冷静に判断できていたのは永田の方だろう。
こうして天皇を拝し権力の統一を図った上で、一挙に中国とソ連に立ち向かう皇道派と、それに属さず陸軍内部の統制を図ろうとする統制派との抗争に永田は巻き込まれていく運命にある。こうした状況では永田を悪に見立てるための怪文書も多く飛び交い、陸軍の血気盛んな若者達は徐々に過激さを増し、永田の身辺にも危険が迫っていくのである。
なお当初前述のバーデン・バーデンの密約のメンバーと共に反戦的な立場をとった東條英機も、最後はやるしかない状況に徐々に追い込まれ、結局はA級戦犯として処刑される。最後まで一貫して自身の主張を貫いたまま暗殺された永田と、最終的には折れて太平洋戦争の指導的立場となり結局は処刑される東條は対象的だ。永田の生き方は後に最後の海軍大将となる井上成美(阿川弘之著)とも重なる。
本書では永田の周囲に登場する多くの人々とのやりとりも面白い。同じ想いを描きながら支え合う仲間だけでなく、永田を引き上げる陸軍上層部、対立する面々、いずれも太平洋戦争史を読めば名前が頻出する人々ばかりだ。そうした人々との人間関係や、永田が残した数々の功績が新書の形で小気味よく頭に入ってくるのが嬉しい。
最終的に相沢中佐に殺害された後の、家族や友人達の悲しみようを描いている辺りでは、若干永田への想い入れが強くなり、結末がわかっているにも関わらず、何とか助かりはしないだろうかという気持ちにさえなる。相沢の裁判での発言も興味深い。
以上、歴史にifは禁物とわかっていながら、殺害が無かったら、相沢の乗る列車が運行中止になっていたらと、その後の2.26事件を経て太平洋戦争へと突き進む事態は果たしてどうなっていただろうかと、想像を膨らませながら静かに本を閉じた。