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-2015.10.24
小林秀雄賞を取つた本。シベリアに抑留された著者の父親の半生を、戦前戦後の生活史を背景に描いてゐる。同時代の経済、政策、法制などに留意しながら書かれた「生きられた二十世紀の歴史」は、非常に興味深い読み物になつてゐる。
戦争を中心とする国策に翻弄された人物の物語であるため、国の政策に対する批判的な意見が多いが、説得的だと思はれる。
政府には政府の事情があつたのだらうが、それがどのやうなものであつたのか、明らかにされてゐない場合が多い。何を国益として考へ、どのやうな優先度を設定したのか、政治主導者は事後的にでも発言する義務があるのではないか。
戦前戦後の日本を庶民の立場から知るための好著。若い人にも勧めたい。
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大正14年生まれ 私立中学を卒業し、事務員として就職。
昭和19年陸軍に召集され、二等兵として満州戦線へ。ろくに武器をもつことすらなく終戦を迎える。
昭和20年12月、ソ連軍によって満州からシベリア チタ州に連行され強制労働に就かされる。昭和23年 帰国。
という、特筆すべき戦果を挙げたわけではなく、特攻で散華したのでもなく、特に文才があったわけではない、普通の庶民が、生まれ、育ち、兵隊に行き、シベリアで抑留され、帰国し、戦後の混乱期をなんとか生き延び、そして高度経済成長期を迎え、子を生し、年老いていった記録。
様々な視点から、フォーカスされている戦史・戦記は多くあるが、本書はその様々な視点からこぼれ落ちている、普通の兵隊の生きた姿。
筆者の父親からの丹念な聞き取りと、当時の社会、生活の背景を忠実に書き残した本書の意味は大きいと思う。
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昭和という時代が、淡々と語られております。戦前の学生時代、徴兵、そして敗戦と共に、シベリア抑留、数年を経て帰国をして、今度は、結核療養所に入所。
社会に復帰したときは、すでに30前。そこから、仕事を探し、家庭を持って、子供を育ててという一人の男の人生が語られております。シベリア抑留、結核療養所等の絶望的な状況であっても、希望があれば、生きられる、という最後のコメントが染みますです。著者、小熊英二の父の物語。一読の価値があります。
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ソ連の捕虜になって「生きて帰ってきた男」の体験記なんだけど、その戦前と戦後の生活をその社会情勢とを交えてよくわかる。
あまりにも淡々としていて、これがリアルなのか…
抑留と結核療養の思うままにならない期間を経て、食べていくためにさまざまな仕事をし、裁判や運動に係わっていく。
謙二にとっては下の下で生きてきたという一貫した姿勢。特別才能と幸運に恵まれていると思うが。
多摩に住む私には身近に感じる部分も多くあり、自分の記憶する事柄なども微かに思い出され、戦後は終わっていないという人も未だにいるのが腑におちた。
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どんなに平凡に見える人にもそれぞれの人生があり、社会や時代といった背景を舞台にして語られる時、それは個人を超えた同時代のドラマにもなる。NHKにファミリーヒストリーという出演者の知られざるルーツをたどる番組があるが、これは父兼二の人生を中心に語られた社会学者小熊英二自身のファミリーヒストリーでもある。
以前、辺見じゅん著「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を読みシベリア抑留の一端に触れ、過酷な環境を生き抜いた日本人捕虜の姿に感銘を受けた記憶があるが、今回この著書を通じてソ連全土に散らばった収容所ごとに環境は異なり、そこでの処遇も過酷さの中にも程度の差がかなりあったことを知った。歴史の多様性と複雑さに思いを致し、複眼的にそして謙虚に歴史に向き合うことの大切さを改めて感じた。
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社会学者である著者が、一等兵としてシベリア抑留を体験した実父へのインタビューに基づき、戦前・戦中・戦後の一貫した日本の歴史像を浮かび上がらせようとした意欲作。
それまでの歴史に関する言説が社会における上流階級(男性、白人、富裕層等)の人々によって生み出されたものであり、「語れない」人々によって紡ぎ出される別の歴史があるはず、これが90年代以降の歴史学が重要視するオーラル・ヒストリーの基本的な考え方であるが、本書はまさにその典型例といえる。著者の実父は経済的に決して恵まれたわけではなく、兄弟の大半が20歳前後で結核で亡くなり、自身は中学卒の学歴で一等兵として関東軍に徴収され、そのまま3年間シベリアに抑留される。無事日本に戻ってきてからも、十分な職業経験や誇れる学歴があるわけではなく、中小企業を中心に幾度もの転職を重ね、ついには自らがスポーツ店をほそぼそと経営することで何とか生計を成り立たせ、人並みの暮らしを送れるようになる。
例えば、シベリア抑留の話題では、いかに厳しい抑留生活を乗り越えたかが、日本軍捕虜に対して好意的であった一部のソ連軍将校との記憶なども交えつつ淡々と語られていき、その生活の内実を伺いしることができる。また、戦後日本の社会史において、「大企業のサラリーマン生活」が統計的には決して当時の一般的な日本人を代表していたわけではないように、むしろ彼のように中小企業を転々として、何とか食いつないでいくという生活こそがリアルな当時の世相であったことが理解できる。
オーラル・ヒストリーの典型的な労作としても、そして一人の市井の人間を媒介した戦中~戦後の日本社会を伺い知る材料としても、極めて有益な一冊。一気に読了してしまった。
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シベリア抑留から生還した男の、戦前・戦中・戦後を、いきいきと描く。
「一人の人物という細部から」戦争に突入する日本、日本をとりまく東アジアの情勢、捕虜に奴隷労働をさせる「社会主義」ソ連、高額な恩給を支給される旧高級軍人と官僚たち、なんの補償もされない庶民、日本の復興と高度経済成長といった、大河のような流れが見渡せる。
謙二という一人の男が、生きるため、飯を食うために悪戦苦闘するそのさまが、悠久の歴史の中にくっきりと見える。
みごとな、大河小説を読むような感動がある。
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1925 T14年生まれ
四大節 正月、紀元節、天長節、明治節
日常生活の変化 S11年の終わりからタクシーをみなくなった、
S14 価格等統制令 外米が食卓に上がるようになる
S15 砂糖とマッチ配給制 宮城遥拝はじまる ドイツがフランスに勝つと勝ち馬に乗り遅れるなという風潮が強くなった
S16 コメが配給制 庶民にとっては、いつ終わるかわからない戦争よりコメの配給制の方が衝撃
S18 旗を振って出征の見送りはなくなってきた
捕虜の中には敗戦間際に根こそぎ集められた在留邦人が多数いた 現地招集された在留邦人は敗戦直後に除隊、いったん家に帰っていた。除隊証明を出すから軍籍があったものは出頭しろという通知が来て、現地の警察署前に出頭したら武装したソ連へに護送された
おかしいとおもって通知を無視した人もいた
はじめはどこに運ばれるかわからなかった
ソ連に連行された日本兵その他は64万人(シベリア、外モンゴル、中央アジア、ヨーロッパロシア)
死者は6万以上
WWII ドイツ軍の捕虜になったソ連軍将兵は570万 死亡率6割
ソ連軍の捕虜になったドイツ軍将兵 330万人 死亡率3割
日本軍の捕虜になった英米軍捕虜の死亡率は27%
頭で割り切る人は、そういう考えになるのだろう。しかし現実の世の中の問題は、二者択一ではない。そんな考え方は、現実の社会から遠い人間の発想だ
国立内野療養所
柏崎療養所 1939 傷痍軍人新潟療養所として設立 1945/2 厚生省移管で結核療養所
総力戦の中で整えられた医療施設が、戦後の結核療養所の起源
これといった産業がない土地の柏崎は、青森県の下北半島とならんで、その後に原子力発電所と自衛隊基地が誘致された(誘致されていない)
淡々としていた。お互い戦争体験者だから、多くを離さなくても見当がつく。激しく感動したり泣いたりするのは、何も知らない人がやることだ
人生の苦しい局面で、もっとも大事なことは何だったか聞いた。シベリアや結核療養所などで、未来がまったく見えない時に、人間にとって何が一番大切だったかという問いである
「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」
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戦前、戦争、戦後を生き抜く1人の人間・小熊謙二のリアルな生活録。
謙二の息子であり本書の著者である英二が、謙二に対するインタビューや、様々な資料を基に描いた、純然たるノンフィクション戦争体験記であり、社会科学的な視点も随所に盛り込まれている。
「脚色のない、生きた歴史」を知ることができる。
文章も流れるように読みやすい。
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戦前、戦中、戦後と生きた男を、その驚くべき記憶力をもとに、「ドラマ」としてではなく「ノンフィクション」として描き出した作品。
筆者はその男の息子であるわけだが、父の客観的な言葉を踏まえつつ聞き取った内容に社会科学的な分析を加え、当時の一人の人間や家族の暮らし、考え方、政治・経済・社会制度などに具体性をもって迫っている。
一庶民をこのような形で詳細な具体性と考え方を含め息遣いを持って描き出した作品は稀有であると思う。
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とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の日本の生活模様がよみがえる。戦争とは、平和とは、いったい何だったのか。著者が自らの父・謙二の人生を通して、「生きられた20世紀の歴史」を描き出す。
シベリア抑留の過酷な体験談かと思ったら、引越と転職をそれぞれ10回前後繰り返した復員後の過酷な体験がメインだった。昭和天皇の戦争責任、横井庄一さんや小野田寛郎さんへの思いなど、意外な心境も綴られていた。戦後昭和史も大局観に立ったものだけではなく、こうした個人の体験を通して語られる歴史もあるのだと再確認させられた。
(B)
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今、国内でもっとも読まれている社会学者の著作から選んだ。個人史に焦点を当て、日本社会を問う。
(松村 教員)
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小熊英二さんが、シベリア抑留を経験されたご自分のお父様から聞き書きされたもの。
おもしろくないはずはない(「おもしろい」とは不適切か⁉︎)と思い、読んだ。
シベリア抑留について、もっと知りたいと思い、読み始めたが、その前後の人生にもじっくり触れられていて、その部分がまた良かった。
本の中にも書かれていたが、大体の体験記が、学徒兵など、ある程度知的にものを考える層によるものが多く、「庶民」の体験記が少ない。その「庶民」の体験記を小熊さんという知識人がうまく1冊の本にしてくださり、大変良かったと思う。
どうしても時代に流されざるを得ず、でも食べていくためしたたかに生き、数々の困難を乗り越えてこられた。そして、年をとられてからは、頭でっかちでなく、自分の体験を踏まえて、意識高く、社会と関わっておられる。さすが、小熊さんのお父様だ。
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本屋でたまたま手に取ったのは帯に小林秀雄賞受章って書いてあったから。引き込まれて読んだ。戦争のことはあまり知らない。でも世界は確実にキナ臭くなっていて戦争に近付いているような気がする。この作品を小説じゃないけど、小説みたいに読んでた。主人公は作者の父で満州からシベリアに抑留される。シベリアから帰ってきて苦労をしながら、戦後から現在まで、とにかくまっすぐな感じで生きていて、何をしているのか、自分がどこに立っているのかきちんと見てまわりに流されず意見をもっているところがとても素敵だと思ってしまった。シベリアから帰ってきた人たちが冷遇されたりとか、日本はあかんとほんまに思った。間違った方向にいかないようにしっかり意見を言えるようになりたいと思う。
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