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これぞ壮大なエンディングです。二度目に全巻を通して読んで、やっとゲド戦記の持つ現代性(女性の問題、差別やいじめ)を再認識しました。読み終わって、カタルシスは覚えませんが、深く人間というものを考え直したくなる、そういう本です。
2009/09/14 22:34
7人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
少年文庫版で大きく変わったのは、それまで第五巻として扱われていた『アースシーの風』が第六巻、最終巻となり、外伝で第六巻として扱われていた『ドラゴンフライ』が第五巻になったことです。その根拠は清水の文章ではあまりはっきりしませんが、『ドラゴンフライ』に収められている五つの話の発表が、『アースシーの風』以前であったことによるようです。
私は、『ドラゴンフライ』の評でも書きましたが、ゲド戦記の第四巻『帰還』の話はそのままこの『アースシーの風』に繋がってきます。ただ作品の発表時期から巻の順番を変えてしまうのは不自然以外のなにものでもありません。むしろ、本編は『アースシーの風』の第五巻で完結し、外伝『ドラゴンフライ』は別巻扱いのほうが正しいのではないでしょうか。
閑話休題、さっそくカバー後の内容紹介を見てみましょう。
*
故郷で暮らすゲドのもとを、
まじない師のハンノキが訪
れ、奇妙な夢の話をする。
そのころ、ふたたび竜が暴
れ出し、アースシーにかつ
てない緊張が走る。世界を
救うのは誰か。レバンネン
王は、テハヌーたちとロー
クへ向かった――。
●中学以上
*
となっています。ゲドのところに訪れたハンノキは、タオン生まれの修繕屋です。カバーに「まじない師」とあるのは、話にはなじまないのではないでしょうか。彼は、妻ユリを出産のとき、子供とともに亡くしていますが、以来妻のことを思い続けていいます。そして、ユリが逝って二カ月後、夢を見るようになるのですが、それがこの物語の核です。その夢というのは
「丘の頂から斜面にそって、ちょうど牧草地を仕切るような低い石垣がつらなっていて、ユリはその石垣のむこうの少し低いところに立っていました。そこは闇が濃いようでした。」
妻がの呼ぶ声に丘の斜面に立っていたハンノキは、ユリはもうこの世にはいない、だからこれは夢のなかの出来事だということもわかっていたものの、嬉しくて彼女のほうに近寄っていくのです。
「わたしはユリのいるところに行こうとしましたが、石垣を越えることができませんでした。脚が動かなかったのです。それでユリをことらに引っぱろうとしました。ユリも来たがったのです。来ようと思えば来られそうに見えました。でも、石垣がわたしたちをへだてていて、どうしてもそれを越えることができませんでした。そうとわかるとユリはこちらに上体をのばして、わたしの唇にキスし、わたしの名前を呼び、『あたしを自由にして!』と言いました。」
この夢を繰り返し見るようになったハンノキは、その夢の謎を解こうとロークに向かいますが、その夢の話を聞いた様式の長は、それこそ以前、ハイタカがレバンネンとともに越えていった石垣だと確信し、彼をゴントに暮らす元の大賢人のもとに向かわせるのです。そこでハンノキは、夢こそ見続けるものの心休まる日々を送ります。しかし、彼の夢にこの世界の危機を感じたゲドは、今は王となったレバンネンのもとにハンノキを向かわせるのです。
ハンノキを客人として丁重に迎えた若き王は、彼の夢の話を聞き心を悩ませます。しかし、彼の王国にも別の危機が迫っていました。カルガドの王たることを宣言した将軍ソルは、テナーがもたらした腕環の本来の所有者はカルガド人だと考え、それを取り戻すために自分の姫をレバンネンのもとに寄こし、婚儀を迫るのです。そしてもう一つの脅威、竜たちが・・・
テナー、娘のテハヌー、様式の長、呼び出しの長、カレシン、アイリアンといった懐かしい人々や生き物が登場し、壮大なエンディングに向かっていきます。
最後は、あっさりデータ篇。
もくじ
1 緑色の水差し
2 王宮
3 竜会議
4 イルカ号
5 再結集
訳者あとがき
少年文庫版によせて
カバー画 デイビッド・ワイヤット
光が差す
2024/02/22 11:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もそ - この投稿者のレビュー一覧を見る
死者が呼びかけてくる。
そんなことになったら、おびえるのが普通だ。
主人公のハンノキは闇の中でおびえてる私たちと一緒だ。
彼はゲドに救いを求める。
だがゲドにはもう魔法の力はない。ただの老人だ。
二人にできることはただ一つ、
共にその闇に向かって歩きだすこと。
これは壮大なファンタジーの姿を借りた、
心の治癒の物語なのかもしれない。
光が差したとき、新たな生が始まる。
アースーシーの旅はここで終焉なのだが...。
2020/10/26 15:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語は、竜と人間は昔同じ生き物だったという話。あるとき、竜は翼と自由と火と風を選び、人間はあらゆる手の技とそれが生み出したもの=富を所有する権利、水と大地を選んだのだという。竜の自由は時間を超えて飛び回る自由で、それを選ばなかった人間には永遠の命にも見える自由でもあった。
矛盾することであろうとも何でも欲する醜い人間の姿が物語りに透けて見え、世界に悪しき波紋を呼んだ...。そんな風に読めるのですが、じゃあどんな話?と実は、読後もこころの中で堂々巡りです。
本書と『ドラゴンフライ』は、21世紀に入ってから描かれた物語で、実はこの2作は初読。この2冊の存在を知って、かつて読んだゲド戦記シリーズに一作目から再読し始めたのだが、特に本書を私は物語として俯瞰してみることが難しかった。
作者のル=グウィンがこの話を書き上げたとき、もう74歳。だから、生きることや世界への疑問に対し答が出たことも多かっただろうし、見えてきていたこともたくさんあったのではないかと。それに比して、まだ迷える渦中の私。また時間をおいて再読が必要だと思う。個人的にはそんな風に読み込んでみたいのが、このゲド戦記のシリーズ。