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投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めての篠田節子さんの書籍です。まず、ジャンルを問われた時には答えに窮すると思った。恋愛とも言えそうで、それだけに収まらないような感覚。ホラーとも違うんだけど、グロテスクな表現も含んでいるし、恐怖心だって芽生える一冊。
狂気、という言葉が浮かんで離れない。今住んでいるニューヨークも登場するので、ありありと想像して読めた一編もあった。死を間近に控えた、非常に前向きな妻を前に限界を感じた元編集者、妄想の世界での情事、危険を犯してダイビングに励み、家庭、妻を蔑ろにしてきた夫が事故に遭い、一室に閉じ込めてかいがいしく世話をする女。そのどれもに狂気という言葉が合うように思えて仕方が無い。
今まで読んだことがないようなタイプの書籍なので、何をどう表現したら良いのか分からずにいるんだけれども、生身の人間が抱く感情や恋をしている時に見失うもの、またはそういう時だからこそ見えるもの、日常なんかが巧妙に描かれているのは確かだと思う。そういう立場の人も、ひょっとしたらいるかもしれないと思えるような設定。特に、ダイバーの夫を持つ裕福な女性の話では冷やりとしたものを感じた。見ようによっては、身体が不自由になってしまった夫を介抱し、一生懸命な妻なんだけれどもある視点からだと復讐のよう。
色んな見地から、違った風景や心情が見える多彩な一冊とも言えるかもしれない。飽きずに読み終えることができたので、また別の書籍も読んでみようと思えました。
執心、妄想をはらむ恋
2001/12/11 09:16
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投稿者:アクエリアス - この投稿者のレビュー一覧を見る
全6編の短編集。
遠い過去の不倫の恋人と二人きり、思い出のホテルの一室に永遠に閉じこめられる「38階黄泉の国」。
ダイビング中の事故で動けなくなった夫を、蔑ろにされていた妻が外界と遮断された一室に閉じこめて、熱心に看病する「柔らかい手」など、ややホラー調の話が多い。
個人的には一番最後に収録されている「内助」が一番好き。優秀な頭脳を持ち、スポーツ、気迫など、すべてにおいて際だった存在だった花岡俊一と結婚し、彼が司法試験に合格するまでの2〜3年の辛抱のつもりで生活を支えてきた佳菜子。俊一の成功こそ佳菜子の人生の目的だったのに、合格せぬまま10年目、いつの間にかふやけた体になった俊一は司法試験をあきらめ、料理に凝りだす。そしてある日。
『女たちのジハード』に繋がっていく一編なのだと思う。
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短編集。
女たちのジハードに通じるものがあります。どこか非現実的なんだけど、なんだか緊張感と焦燥感を強いられます。
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恋愛小説の短編集。
今まで読んできた篠田節子の小説のコアの部分がちりばめられているような形に仕上がっている。
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愛の終わりの六編の物語。
ミステリー仕立てもあり、いかにも篠田作品という感じ。
最後の話が救いとなって、読後感は悪くない。
月並みな言い方だが、それぞれ小粒でもキラリといったところか。
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短編六話
秋草
38階の黄泉の国
コンセプション
柔らかい手
ピジョン・ブラッド
内助
内助は、黒い。相手をうまく生かし切れなかった。
ピジョンブラッドもその意味では相手を理解しきれていなかった。
心をというよりは行動を理解しきれていなかったことを悔やむ物語。
小池真理子の解説がいい。
分野(ジャンル)を無視した書き物。
書きたいから書くというような。
篠田節子の技量を褒め称えている。
作家が書く解説は面白い。
読者にはない視点を提供してくれる。
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誠実という言葉が私は嫌い。
どこか嘘くさいから。
誠実に生きるという事は苦しい事だ。
「恋は甘く切ないものではなく、欲望に立脚し、執心や妄想をはらみつつ膨れ上がっていく感情」
そうそう、そうなんだよ。
キレイになんてならない。
自分も相手も嫌いになってでもやめられなくて、エゴをぶつけ合ってそうやってどうにかこうにか関わって生きていく方がずっと自分に誠実なんじゃないの。
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6つの短編集。
サスペンスとミステリーという位置付けらしいが、
そこまでのものではないと思う。
ただ女性の怨念や情念、到底男性には理解できないであろう想いが、恐怖に感じさせられる。
それもあってか、男性の純朴さ素直さが浮き彫りになって、とても対照的である。
とてもおもしろかった。
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「愛逢い月」とは七夕の牽牛織姫が互いに愛して会うという月。陰暦7月のこと。牽牛と織姫は愛し合うが、外因により一緒に暮らすことは叶わず、一年に一度だけ逢瀬を許される。この題名のごとく、ずっと幸せには暮らせなかった男女の愛の形が描かれている。最初らか求めていたものがお互い違った、あるいはだんだん二人が別方向に行った、など、変化してしまった愛、といったところか。
篠田氏が30代後半の初期の作品群。登場人物はおおむね30代くらいで、その当時の等身大の思いを描いたのかな。その後になると「女たちのジハード」とか「斎藤家の核弾頭」とかけっこうスカっとした読み心地のもあるが、これはもやもやした愛の形が描かれている。
「秋草」小説すばる1993.10月号
スランプに陥ったイラストレーターの悦子。 ある寺で「秋草の間」という狩野派の障壁画を見て、凡庸とも思える絵の中に引き込まれるものを感じとった行動は・・
「38階の黄泉の国」小説すばる1991.8月号
若年性のぼけになってしまった菜穂子。一人息子は大学に受かったと報告にきて、その息子の食べさせてくれるゼリーしか受け付けない。死への床でやがて記憶は大学時代に思いを寄せた菅原に向かう。
「コンセプション」小説すばる1992.11月号
コンセプションは受胎のこと。ベテランの編集者正木と若い売りだしの小説家、梨沙。末期ガンの正木の妻。3人のからみあう感情。
「柔らかい手」小説すばる1994.3月号
海中写真家の啓介。海中で鱶が迫ってきて急に浮上したことから不随になる。写真第一で妻は放っておかれたが、今度は・・
「ビジョンブロッド」小説すばる1993.8月号
交際した男が逃げそうになり、けりをつけようとしたが、実は男は・・ 私は早まったのだ。
「内助」小説すばる1993.6月号
高校時代の憧れの君、俊一と結婚した佳菜子。司法試験を受け続けるが叶わず、新たな道を俊一は見つけるのだが佳菜子は・・
小説すばるに単発的に発表されたのを、単行本化にあたり全面的に手を入れた。
篠田氏 39歳の時の発行。
1994.7.25第1刷 図書館
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6つの短編作品は、それぞれ独特の雰囲気を醸し出していて飽きることがなく、ひとつひとつ嚙みしめながら読んだ。
『秋草』という作品の中に「芸術の毒にあてられると、破壊するか自殺する」という話がある。本当にあるんだろうか?
アーティストではないけれど、そんな心を奪われるものに出会えるのは、ある意味幸せなんだろう。
『38階の黄泉の国』は、死んでからも仕事すんの嫌でしょ!が正直な感想(笑)
1997年の作品を2020年の今の時代に読んでみると、20年の歳月で環境も価値観も大きく変わったものだと思い知らされる。
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再読。
筆者30歳代の作品という事で力量がぐいぐいのして行った時期かと思われる・・だけに表現や心情の底に流れる情感の言語化は巧み。
その後、一気にブームにもなった嫌ミスならぬホラー恋愛の流れ的嚆矢?
6つの短編が掲載。
標題にある「愛逢い月」に込められている陽の如く「燃え上がっていく恋愛感情が時の流れに拠ったり感情の浮遊などで、気が付けば別の方向を向いていた・・てなニュアンス。
筆者と同世代の男女の機微が惨く、寒く、白々しく描かれる。
そういや、その頃「誠意大将軍」てなはやり文句があったなぁ