やはり痛ましい最期だった
2018/06/29 22:46
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかく重厚の一言につきる作品だった。
終章での平田の部下との静かなやりとり、その後に続く彼なりの決着のつけ方は胸に迫るものがあった。田島屋との交渉時から、ひょっとして・・・とは思っていたが、武士の誇りを捨て去った処置は、前途に希望を失った尾関の行動と不思議に繋がっているように思えてならない。善も悪もそれを行う本人にすれば紙一重のようなものなのだろう。
とても好きな作家だった杉本苑子さん。お亡くなりになられてとても残念だが、その原点でもある本作品を読めて本当に幸せだ。不条理な怒りに捉われたとき多分思い出してまた読むだろう。
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宝暦大治水・・・小学校の授業で習いました。どうして鹿児島からはるばる行かなければならなかったのか・・・当時はそれが不思議でなりませんでした。
その理不尽さにときにしんどくなりながらでしたが、故郷の人々を扱った話ということで、深く心にしみわたりました。
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昨年8月に、父の7回忌の法事で鹿児島に行った折、宝暦治水で犠牲になった薩摩義士を弔っている碑だったか塚だったかをたまたま見て、小学校時代に課題図書で宝暦治水を扱ったやつを読んだことを思い出し、再度どうしても読みたくなってネットで調べてみました。
すると、先にこの「孤愁の岸」がヒットし、しかもこちらは作者が吉川英治の弟子で、かつこの作品は直木賞受賞作だとのこと。不覚にも今まで全く知らなかったのですが、早速図書館で借りて読んでみました。
すると、もう予想をはるかに上回るおもしろさ。本を読んでここまで感動できたのは、本当に久しぶりでした。途中、思わず本当に涙を流してしまいました。
「逆境」と言うくらいでは到底言い足りない主人公平田をはじめとする薩摩藩の置かれたすさまじい状況、それをすさまじいまでの決意と作戦で乗り切っていくサスペンス。登場人物たちの血の叫び。これが全くのフィクションだったとしても、十分に感動的だったでしょうが、小説的脚色はあるにしても、語られている内容の多くが史実だった、実際に起きたことだったということが、さらに深く感動を深めます。
この本のことを知り、読み、感動できて、本当に良かったと思いました。
ちなみに、この本を読み終えて残った大きな疑問が、ここでできてしまった巨額の借財は結局どうなったのか、ということだったのですが、そこで幕末薩摩藩の調所広郷につながるのかと、改めて深く納得。次は調所についての本を読もうと思いました。
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薩摩藩がなぜ美濃の地で治水工事を引き受けなければならなかったのか。
引き受けたはいいが,費用はどうするのか。
薩摩藩の苦悩を描きだした傑作。
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平田が幕府からの短文による命に打ちのめされたのに始まり、また「もう自分はこれで自分は人生を終えるのだ」と悟る情景が続くように、
「武士としての心意気や絶望」や「幕府(あるいは村役)との折衝・勝負」が生々しくつづられている。一方で、美濃の地域の人々を想う様子も随所に描かれ、しかし他方で故郷である薩摩を想う(寂しく思う)様子も十分に記述されている。平時の戦との表現も印象的。感情に満ち、時代背景にも満ちた、とても充実した一冊を終えての読後感に浸っている。
今にして思えば、平田の「もう人生は終わり」との最初の思い(あきらめ)は、ある種の伏線だったのだなぁ。
(上巻にもほぼ共通したレビュー)
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不可能と思った大事業が完成形にいたりつつあるとき、その事業の担い手に、達成感とは別の感情が浮かぶ不思議さが伝わってきます。
困難な事業は、完成を迎えたときには携わった全員が「大事業を成功させ、苦労が報われた」と感じられることを望みます。しかし、それほど単純な状況ではない重々しさが現場にはあります。
まるで自分がその場にいるかのように、決断と逡巡を読み手に強いる一冊です。
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再読了。
結末が見え見えではありますが、しっかりと読ませてくれます。ちょっと今時ではないかもしれないけれど、こういう空気を纏った作品もありかと。
まぁしかし閉じた世界のお話ですよね、率直に言って。尾関のような人物が忌み嫌われるのだから。そして実は現在もそんなに変わっていないのかも、日本社会は。
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水害対策と藩の弱体化を狙い、幕府が薩摩藩に命じた揖斐川・長良川・木曽川の三川の手伝い普請。すでに財政が逼迫している上の大工事に、藩を賭して立ち向かう薩摩藩士の姿が描かれる。史実であることが、よけい胸を打つ。
『お上からの辛いことも頑張れば達成できる。』のような道徳的な話ではなく、工事終了のカタルシスは描かれていない。むしろ、権力の横暴と公共事業に乗っかって私服を肥やす民衆への強く深い怒りと悲しみが物語を貫く。
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権力を持つもの達の傲岸さ、地を守るもの達の貪欲さ、金を持つもの達の強欲さ…
異郷の地でそれらと渡り合いながら、木曽川・長良川・揖斐川の三川治水工事に身を削り心をすり減らす薩摩藩士達の凄惨な覚悟が辛かった。
7月に旅した大垣・桑名にて、彼等の供養碑に手を合わせられたこと今更ながらに感謝しています。
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宝暦治水。職務上の責任をとり切腹した者が50名、疫病で命を落とした者が202名、さらに仲間に斬られた者、事故死した者、薩摩藩士はどれだけ辛かっただろう。予想通り、最後は奉行も果てるのだが、身の回りの世話をしていた少年・佐田恒弥も命を断つとは悲しすぎる。