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「私小説」なのか「死小説」なのか。
2008/06/13 23:36
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いきなり火葬場のシーンから始まる書き出しに、心中穏やかではないが、読み手の思惑などお構いなしに筆者のペースで物語が進んでいく。中途中途で霞のように昇り立つ筆者の記憶が織り込まれているが、その前後の脈絡もない話が不思議と邪魔をしないのがおもしろい。
死で始まり、生が織り込まれ、死が現れ、性と生とが合間合間につづられた文章から、筆者の視点と同じ場面に出くわし、読み手は勝手に自分なりの思い出を子私小説にしたてあげていて、そこで、一瞬間、字を追う目の動きがとまってしまう。
「私小説」というタイトルから筆者の往年の浮名から、出家に至る話などが本音でつづられているのかと思いきや、「そんなのあたなたの勝手でしょ」とばかりにフィクションとノンフィクションが入り混じっている。だから、私小説なのかと感心しながら、やはり誰でも心の奥深くに抱く秘密は棺桶の中にまで持ち込まなければならないのだろう。
読み進みながら、初めて血族の死体に接した記憶をたどり始めていた。
棺桶に屈葬の状態で父方の祖父を長男、次男である伯父と父が白装束の祖父を納めているのを黙って見ていた子供の頃の自分を思い返していた。
いまや、病院で生まれ、病院で亡くなり、葬儀場ですべての段取りが終わってしまい、日常生活に「死」というものが存在しなくなって久しい。そんな思い出を頭の中に描きながらも物語は進んでいく。
そして、灰になった炭のごとく、焼きあがったばかりの骨は危うげに白い。その吹けば飛ぶような骨にもわずかな赤味がかったものに出くわすが、それを筆者は「桜貝」のようと表現する。「なるほど」とも「うまい」ともつかぬ感嘆の声がもれる。
この作品は「死」を振り返ることによって、「生」と「死」が日常の中に表裏一体となって存在していることを認識させてくれるものだった。「愛別離苦」「諸行無常」、まさに読み手の受け取り方によっていかようにも「私小説」に七変化するものだったが、下手な説法を聞くよりもはるかに内省を求められる。
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