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『イスラエル』(臼杵陽、岩波新書、2009)を読んで消化不良を感じた人、あるいはまた物足りないと感じた人はぜひ
2009/12/08 16:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「原理主義」(ファンダメンタリズム)という、ある種のレッテル貼りによって、実態を直視しないで思考の外に追い出してしまおうという態度は、日本だけでなく世界的に存在するようだ。
本書が出版された1999年当時は、「原理主義」といえば、「イスラム原理主義」のことを指していた。その後2001年に発生した「9-11テロ」でこの見方がさらに進行したようにみえたが、最近ではより理性的な議論がされるようになってきてはいる。
一般社会でも、「イスラム原理主義」よりも、「イスラーム過激派」、「イスラーム主義」ないしは「イスラーム政治運動」などが使用されるようになっている。
1999年に出版された本書は、当然のことながら「9-11」以降の状況については触れていないが、1980年代以降、世界的に顕著になってきた、宗教に軸をおいた過激な政治運動をどう「名づけ」るかという、やや込み入った議論を第1章「原理主義とは何か」で行っている。
その上で、第2章では具体的なケーススタディとして、イスラエル国内の「ユダヤ教原理主義」を取り上げ、徹底的な分析を行っている。とくにこの第2章が実に興味深い。
著者の再近著である『イスラエル』(岩波新書、2009)では、世俗国家理念であるシオニズムの国家像に対して、エスニシティや宗教的姿勢にアイデンティティを置く国家像が全面にでてきたことが記述されている。
この新書版で簡単に触れられている「ユダヤ教原理主義」の詳しい中身や、アメリカのエヴァンジェリカル(=キリスト教原理主義)に存在する「キリスト教シオニズム」との同床異夢の共犯関係が、本書『原理主義』第2章では詳述されている。
「ユダヤ教原理主義」の潮流がイスラエルという国をどう変化させてきたのか、宗教思想的な観点から知ることができるのは、大きな収穫であるといえる。そしてまた、アメリカがなぜイスラエルに過剰な肩入れをしているのか、その根本的な理由も知ることができる。
『イスラエル』を読んで消化不良を感じた人、あるいはまた物足りないと感じた人はぜひ、同じ著者による『見えざるユダヤ人』(平凡社、1998)だけでなく、本書『原理主義』とあわせて読むことをすすめたい。急がば回れ、である。
本書を読むことで、イスラーム、キリスト教、ユダヤ教の原理主義運動の、一筋縄ではいかない、複雑で危険な三角関係についても知ることができる。これを知ることは、冷戦崩壊後の世界について考える上で、もはや不可欠の常識となっていいのではないだろうか。
「原理主義」の思考パターンについて、イスラームでもキリスト教でもない、ユダヤ教の「原理主義」について知ることができる本書は、手軽だが内容の濃い一冊であるといえよう。
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