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真空からの贈り物
2017/06/09 17:39
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:求道半 - この投稿者のレビュー一覧を見る
二足歩行する二頭身の異星人ぬむもさんとんぽぬくんの外形的な違いは、頭にアンテナのような突起があるか、単眼鏡のような物を掛けているか、であるが、んぽぬくんについては『いないときに来る列車』に収録された書下ろしの短編でその素性が少しだけ明かされており、本巻にもタイトルに偽り無く登場するものの、その活躍は二年前の断片的な出来事が過半を占め、ぬむもさんの地球での滞在記が本巻の大筋である。
『いないときに来る列車』の大部分を占める「斥力構体シリーズ」の続編である『ぬむもさんとんぽぬくん』は完結していない架空の静岡の郷土史の一部であり、本巻では昭和から平成へと作中時間が経過しており、それに伴う少女の裸体表現に対する世間の風潮を反映して、スクール水着を着用する機会は十分に確保されてはいるものの、腰蓑姿は影を潜めている。
年頃の女の子に対する性的な関心は、地球人だけの特質ではなく、本巻に登場する性別不明の宇宙人とも共通する自然律であり、彼らの地球滞在の目的を遂行する上で欠かせない財政的な基盤に資する宇宙規模での一大事業を興す動機ともなっているのだ。
残念ながら本巻では、日本人の少年や成人男性は直接的には登場せず、複数の少女が様々な異性人と交流する様子が和気藹々と描写され、彼らが男の子の代役として、少女の羞恥心を刺激しつつ、微笑ましい日々を共に過ごす。彼らの存在は噂として周知されており、初対面であったとしても、旧友のような自然な応対から交際が始まる。
通常の異星人と「彼等」と呼ばれる存在の区別が作中でなされているのが「斥力構体シリーズ」の真骨頂で、時間的、空間的な広がりが、凡百の異星人の来訪譚とは趣を異にする、独特の謎と訴求力を産み出し、ある状況下での、当事者ですら想定し得ない展開は、物語の根幹に関わる秘密の一端を覗かせ、読者を唸らせる。
半官半民の組織なのかさえ明らかではない杉登機関と呼ばれる異星人との窓口機関や政府の関係者が、男子の件と同様に直接、読者に姿を見せることは無く話が進み、ぬむもさんの居候先の娘である吉川奈美に地球人代表の権限が託される、ある異常事態が本巻の山場である。
空を飛べる機械で自宅の周辺を散策したり、謎の生き物を採集したり、海辺まで遠出したりする、夏の日の出来事や、学校での部活動は、読者の郷愁を呼び起こし感傷に耽らせる役目を果たすだけの陳腐な情景ではなく、気の抜けたような絵柄からは想像し得ないサスペンスの舞台に変貌する性質のものである。
繰り返し用いられるモチーフをマンネリの所産だと決め付けるのは早合点であり、他の作品との比較、類推から「斥力構体シリーズ」を、より深く理解する手立てを読者が自らの意思で放棄する事を意味し、賢明な態度とは言えない。同一の行為や状況が作中の時間経過で、その内実を変化させているのに気付けるか否かで、作品に対する愛着の度合いが変わるのだ。
締め込み姿の少女は健在である。
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