日本社会で感じる違和感を数字と統計で分析しており、これまでになかった納得感
2019/07/22 16:15
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
新書でありながら600ページという常識外れの分厚さにまず目を剥きました。もし本書が学術出版であれば、内容を正確に伝えるタイトルをつけるとしたら、さしずめ『詳説 日本型雇用システムの形成史』となるところ。本書がそういう内容のものになった事情は、あとがきに書かれています。もともとは、日本の戦後史を総合的に、つまり政治、経済、外交、教育、文化、思想などを連関させ、同時代の世界の動向と比較しながら歴史を描くという構想だったようです。ところが、研究を進めていくうえで、「カイシャ」と「ムラ」を基本単位とするようなあり方を解明しなければならないと考え、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが本書の主題、となったとのこと。これはもはや、日本型雇用システムの形成史に関する、現在の時点の知見の相当部分を包括的に取り入れたほとんど唯一の解説書になっています。社会政策とか労働研究といった分野の研究者が、細かなモノグラフは書くけれどもこういう骨太の本を書かないものだから、これから長い間、日本型雇用システムの関する定番の本になる可能性が高いでしょう。
分厚さが気にならない
2019/09/06 12:45
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぱんださん - この投稿者のレビュー一覧を見る
新書とは思えない分厚さに驚きましたが、非常にわかりやすく、しかし丁寧で読みやすかったです。時間のない方は最初と最後の章を読むといいかもしれませんが。
歴史を紐解き、これからどのような社会を目指すのか?
いろいろと考えさせてくれる内容でした。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽぽ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本社会として働くことのむずかしさを、客観的に書かれているので、納得しながら読むことができました。勉強になる。
投稿元:
レビューを見る
日本社会のしくみ、生き方、習慣の束は、雇用慣行に大きく影響を受けている。
これまで感じてきた、日本型雇用-つまりJob descriptipnが提示されず何でも屋としての順応性を期待されること-への違和感の理由が本書を読むことでスッキリした。
個人的には、職務によって評価される社会へと、早く変化することをねがう。
投稿元:
レビューを見る
なるほど、そうか。ドイツをはじめヨーロッパでは職業別で就職を考えるのか。だから、同じ職種で別の会社に移ることなどがわりと簡単にできるのか。日本は会社自体を選ぶことが多い。その中でどんな仕事に就くのかはあまり関係ない。最近はずいぶん変わっているかもしれないが、それでも大学生は仕事の内容より、会社名で就職先を選んでいるような気がする。私自身は、職種で選んだかな。だから、別の会社でも良かったのかもしれない。ただ、わりと初期の段階で、トップにいる人の考えに共感できるものがあって30年近く同じ会社に勤めてきた。同時に、他の環境に入る不安もあったかもしれない。前の会社に転職後、ちょっとつらい時期があったから。人事考課制度とか目標管理システムのようなものがどうやら軍隊から始まっているようだ。そう聞くと、なんかしっくりいかないのはそれが原因かと思ったりもする。それはそうと最低賃金がまた上がる。良いことではあると思うが、なんだか、昇給のための基準などが無駄なような気もしてくる。パートナーは非正規で働いているが、同一労働同一賃金にはなっていないようだ。それどころか、正規雇用で働きが悪い人のしりぬぐいもしているようで、なんともやり切れないようす。まあ、いろんなことはある。社会のしくみはとにかくややこしい。入試制度にしろ、税金のしくみにしろ、シンプルな方が良いように思うが、一律に決めてしまうような制度設計はそうそう簡単にはできないのだろうなあ。結局2ヶ月で読めた。(もっとかかると思っていた。)間に似たようなテーマの本を並行で読むから、どこに何が書いてあったかさっぱりである。
投稿元:
レビューを見る
会社にいる年配の方々の考え方があまりにも理解できないと思い、日本の歴史や社会がこういった価値観を形成しているのでは?と思い購入した本
膨大なデータに基づいた分析をしているので、信ぴょう性が高く
キャリアモデルについても、意外なポイントが多くあった
読むのに非常に根気が必要なので、自分が疑問に思った事をベースに読むのが良いと思う。自分の視野が狭かったと思わされる本。周りに見えているキャリアは日本全体でも20%程度しか見えていない可能性があると思うと、改めて自分の無知さを残念に思った。良書。
投稿元:
レビューを見る
そもそも今年は4月1日から同一労働同一賃金の徹底を目指すパートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法が施行されています。去年4月からの働き方改革法案の適用開始からの流れは続いています。しかし、その流れにさらなる激流が、乗っかってきて、covid19による在宅勤務や時差出勤、さらにはオフィス不要論など、「働く」ということの意味がこれから大きく変わりそうな年になっています。そんなタイミングで「日本社会のしくみ」、深く考えさせられました。テレワーク、押印などの業務の電子化、郊外のオフィス、あるいは副業OK、など表面上のキーワードが踊っていますが、その皮膚を一枚めくった日本社会の「働く」ということについての体質が歴史的経緯と海外との比較で、語られていきます。新書にしては分厚いページ数ですが、まさに新書らしい軽さでぐいぐい読み進めることができます。高度成長時代の「一億総中流」という社会実感が企業内の平等処遇による「社員」という新語によって生まれた、という指摘が、ものすごく納得できた気がしました。「社員」以外を「非正規」という存在で外部化しても、その共同幻想が成り立たなくなっているいま、最終章で提示されるシングルマザーと高校生の給料はどう設定すべきか、という問いは、それこそ1億2500万人が考えるべきテーマだと思います。しかし、これから変わっていく経済は、GDPで測る生産者余剰の原理から、マッチングアプリに代表される消費者余剰への変革だ、としたらその視点も本書から得たかったです。それこそこのwith corona期に急増したといわれるUbereatsの配達員は労働者なのか?個人事業主なのか?実質、ベーシックインカムの始まり、という人もいる給付金の意味を含め、もっともっと日本社会は「働く」ということについて議論を重ねなくてはならないと思います。
投稿元:
レビューを見る
新卒一括採用、長期雇用、定期人事異動、定年制。これらが簡単にはなくならないということがよく分かった。逆に言えば、これらが姿を変えた時が日本がひと皮むける時。
投稿元:
レビューを見る
「保育園落ちた。日本死ね」ブログが炎上したとき、俺は全く同意できなかった一人である。
むしろ、保育園には子どもが集まらなくて廃業が増えていると人から伝え聞いていたからだ。
それは地方都市の実情であり、保育園が足りないというのは都会の事情であり、「保育園落ちた。日本死ね」というのは、日本全体に当てはまるものでない。
この違和感がなぜ起こるのか。
現在の日本人のコミュニティを以下の三つに大別する。
・大企業型:26%
・地元型:36%
・残余型:38%
それらコミュニティの壁が相互理解を難しくしている。
「保育園落ちた。日本死ね」は、残余型の人ではないか。
近年、日本で増加しているのは、残余型である。
大企業の保護もなく、地元社会のコミュニティの一員でもない。
この二つから離れ、非正規雇用、派遣社員、アルバイトなど社会からの保護を受けにくい残余型が増加している。
本書では、現代日本の雇用問題を戦前から検証し、また他国との比較検討を大量の資料を基に調査している。
雇用問題を考える資料としての価値がある。
投稿元:
レビューを見る
読み返してみたら、ジョブ型や同一労働同一賃金の議論につながる歴史的背景が解説されてた。雇用慣行は、長年の積み重ねがあり、新しい制度を導入するには、時間がかかるのが分かる。でも、雇用慣行への挑戦は、必ずパラダイムシフトが起こすだろう。という希望につながる一冊だった。
投稿元:
レビューを見る
500ページほどあり、1〜2週間ほどかけて少しずつ読み終えました。
感想としては、学術論文ほどのデータ量・構成でした。はじめはデータに基づいた事実が述べられているので、関心が薄いと内容が頭に入ってこず、理解するのが難しかったです。終章には考察が書かれているので、そちらを読むと「こういうことだったんだ」と仕組みが理解できました。
また、20代前半の私にとっては知らなかった情報も多く、勉強になりました。
投稿元:
レビューを見る
著者は「日本社会のしくみ」とタイトルした。しかし、それだけでは、本書の内容をイメージするには困難であるので、副題がたくさんついている。
「雇用、教育、福祉の歴史社会学」
「日本を支配する社会の慣習」
「日本の働き方成立の歴史的経緯とその是非を問う」
この「日本社会」という言葉を、「日本の労働社会」とか「日本の経済社会」とかいう意味合いで自身はとらえて読み進めた。
電子書籍で読んだので物理的な分厚さを感じることはできなかったが、新書にしてはかなりのボリューム。しかもすべての論拠に統計データが裏付けられており、直感的に述べたられたようないい加減さは全くなかった。
また、「日本のしくみ」を述べるのに、欧米を中心とした世界的な実情との比較を述べることで、日本の特徴を浮き彫りにしており、本書は著者のこのテーマに関する論文のダイジェスト版ともいえるのではないだろうか。
「終章」において、「自然科学」と「社会科学」の違いについて述べ、その「社会科学」の特徴をアダム・スミス、ウェーバー、ジンメル、デュルケーム等の学者の研究成果などを例示し述べられているあたり、著者の本来の論文は、それらも含めて述べられるべきところだろうと思うが、本書は「新書」の形で、できるだけ一般の読者にわかりやすくまとめられたのだろうと思う(正直、それでも大変な論文と感じたが・・・)。
第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
話のつかみ(序章)では、2018年6月21日の日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」であり、経団連の正副会長19名がどういう人物であるのかが切り口である。日本の経済界のトップの特徴を見れば、現在の日本の経済社会、労働社会の特徴がわかるだろうということだろう。
日本人、男性、62歳以上、年功序列・終身雇用・生え抜き主義の成功者(=大企業システムの成功者)、学歴偏重(東大12名、一橋大3名、京大、横国大、慶大、早大=首都圏大学に集中)。
ここから、女性、外国人、地方が不利の実情を指摘し、また学歴については「何を学んだか(専攻したか)を重要とせず、ただ学校名を重視している」と述べ、経歴については「1つの組織における勤続年数を重視している」と指摘している。
欧米企業では、「どこの大学」というより「何を専攻してきたか、何を専門とするか」が重要要素であり、自身の専門とする職種をもって企業を渡り歩くことによりキャリアップしていく形態が社会の姿であることから、終身雇用の日本とは、この2つの点でまったく異なる特徴があるとする。
これらのを取り巻く、雇用のしくみも、教育のしくみも、社会保障のしくみも、必然的に欧米と日本は異なってくるという。
こういう「しくみ」が出来上がるのは、慣習(=暗黙のルール)によるところが大きいとし、では現在の日本の「しくみ」が出来上がったのは、どんな歴史的背景に基づく社会の慣習が原因しているのかということを述べていた。
最初に興味をひかれたのは、第1章での「日本の生き方の類型」で、3つの類型を提示している。①「大企業型」
②「地元型」、③「残余型(①でも②でもない型)」の分類である。
ここで読者は、自分自身の日本人としての生き方を、この分類に当てはめることになる。おそらく、自身の適合範囲の類型ばかりを見て、他の類型には全く振り返ることなく人生を過ごしてきたことを再認識するだろう。
これらの類型がパラレルで存在しているならば問題はないが、例えば冒頭の経団連の記事のように、「大企業型が日本のしくみである」とされた瞬間に違和感を感じざるを得ない。
そしてまた、日本のしくみがそういう大企業型のしくみへ誘導されることによって、②③の類型にひずみが発生していくる。そのことを述べられていたように思う。
②「地元型」には、自営業や農林水産業の人々が分類されるが、昨今では人口減少傾向にあるという。これまでの仕事を廃業した人は、どこへシフトしているかというと、非正規労働者の増加と連動しているという。そしてその次には、正社員と非正規労働者との処遇のギャップなどの問題が浮き彫りになってくる。
あるいは、学歴偏重の方向性から、中卒、高卒就業者への減少傾向、大卒者の増加、、、しかしながら企業の人材需要に変動はなく、就職難の現象が現れたり、企業内の昇進ポスト不足の問題が発生したりと、現行システムに歪みが生じてくる流れなども説明されている。
日本の特徴的慣行として、「定年制」「定期人異動」「新卒一括採用」を挙げている。「大部屋型オフィス」は、どこの企業でも当たり前の姿であるという認識だったが、これは日本独自の特徴なのだと改めて認識した。
現在「人事考課」の基礎となっている職能資格制度なども、しくみの歪みの修復から発生してきた制度のようだが、それらも明治期の官庁制度や、軍隊の階級制度などがベースとなったものがほとんど変化していないようであり、それはそれで様々な驚きの要素がある。
社会のしくみが、慣習に強い影響を受けていること。慣習はある意味、法律などと同等かそれ以上の影響力をもっていること。そして、そういう慣習の流れは、経済界であったり、政府であったり、同労組合であったりが作っているということを改めて認識した。
一方で、戦後の高度成長、石油ショック、バブル崩壊、あるいは団塊世代、団塊ジュニア世代などによる人口現象による影響など、様々な要因でしくみの変化が常に求められるナマモノであるということも再認識できた。
しくみへの不適合が発生しることにより、不満が発生したり、不平等が発生したりする。そして社会問題へと発展してくる。非常に難しいものだという認識だけは深まった。
著者は、これらの分析から、将来の予測と改善に活かせと述べているのだと思う。
投稿元:
レビューを見る
旧帝大出身者が大企業のトップにいる構図は明治時代に出来上がった。学部でhなく校名。
英国は階級社会。ドイツは日本とも英国のようなことはない
終章
パートのシングルマザーが。10年勤務の私と昨日入ってきた女子高生バイトの受給が何故同じなのかの問いに当時の有識者グループは戸惑った。
大企業が正社員を多く抱えるのが限界あり。
シングルマザーでも資格制度等で時給アップ、転職可能な社会は治安悪化が発生
筆者は地域でシングルマザーのような境遇でも暮らせるようにすべきだと思う
投稿元:
レビューを見る
日本の「しくみ」を規定しているのは雇用のあり方であるとして、明治以来の歴史をさかのぼり、また欧米との比較を通じ、われわれが当たり前として受け止めてしまっている制度や慣習を問い直している。部分々々を見ればすでにどこかで誰かが触れているような議論が多いのだが、それらを統合して大きな絵を描くのが圧巻。よく「なぜ歴史を学ぶのか」という問がたてられるが、そのなぜがよく分かるような一冊
ただ、論旨が明快すぎるせいか、また読むコチラとしてもまったく案内のない分野ではないせいか、要約を読んだだけでかなりの所は「ああ、もうわかったわかった」という感じになってしまうところも。もちろん読んでいけば細部に発見もあるのだが、普通の新書の3倍の厚みがあるしね
個人的に新鮮だったポイント:
- 明治期に高等教育を受けた人間が限られたままで官主導でのキャッチアップ型の開発をやったことが、今の社会にまで影響している。まさに歴史の威力
- 団塊ジュニアの受難は単純にデモグラフィーだけから予想されていた(が注目されなかった)。バブル崩壊は追い打ちをかけたただけ
- 戦争が身分格差を大幅に緩和した。知らぬ話ではなかったが改めて複雑な思い
投稿元:
レビューを見る
日本社会の仕組み、とりわけ日本型雇用慣行(年功序列・新卒一括採用・終身雇用etc)について、その概要と源泉について述べられている本。
注目するべきは、筆者が、日本型の雇用慣行を「慣習の束」としている点。
即ち、日本型の雇用慣行は、歴史的・文化的経緯を経て、暗黙含めた合意のうえで成り立っている、まさに「慣習」であるとしている。
それは各国の雇用慣行についても同様であり、即ち、別の国の雇用形態をいいとこどりしようとしても、直ぐに日本の雇用形態に適合させることはできないということである。ある意味、我々が暮らしている社会のしくみは、労働者と経営者の「社会契約」によるものと言い換えてもよい。(例えば、成果主義がアメリカでうまくいっているからと言って、それを日本で取り入れようとも、無理な話。成果主義は、「職務の平等」が実現しているアメリカだからこそうまくいったのであって、「社員の平等」が実現している日本では、どこかの合意の段階で躓く)
※近年「ジョブ型」の人事制度を日本に取り入れようとしている。その動き自体は良いにしても、日本は企業において、何をするかの「職務」を明文化してこなかった。そうした中で、いきなり「ジョブ型」の人事制度は可能なのか?
しかし筆者は同時に、日本の雇用形態=社会契約がすでに限界にきていることも述べている。そもそも日本の雇用形態(年功序列で長期雇用)は、高度経済成長期のような、パイが十分にある中で機能するものであり、成長が終焉しパイを奪い合うしかない状況、かつ非正規雇用型の人々が増えてきた中で、日本の雇用形態を維持するには、コア部分の人々の雇用のみしか守ることができないのである。したがって、我々はこの合意を見直す段階にきている。
※筆者は、その処方箋の一つとして、評価・採用の透明性確保を提案しているが、勿論それ以外の処方箋もあることは述べている。
個人的に思うのは、企業内でのスキル熟練が結構厄介なのでは、と思う。確かに企業側にとっては人材流出も防げるし、労働者にとっても下手にクビにされないというメリットがある。しかしその一方で、一度レールから外れれば復帰は難しい。成長のパイが限界にきている中で、そうしたレールから外れうる人はどこにでもいうる。(自分もその一人だし)そうなると、そうした企業内でのスキル熟練をカバーできるようなスキルを、残余型の人が身に着け、雇用につなげられるような環境整備が必要になってくるのではないかと思う。ビジネスサービス的には、そういった環境は明らかに増えてきている。(例えば、オンラインで何らかのスキルを学ぶことができたり、インターネットで求人をマッチングできる環境は整っている)逆に言うと、政府もそういった環境整備の後押しをするべきではと考える。(その意味だと、以前読んだ、日本のセーフティネット格差にも似たようなことが書いてあった)
あともう一つ思うのは、情報産業・IT産業と日本型雇用関係の相性の悪さ。日本型雇用は、長期雇用や年功序列によって、副次的に企業内熟練者を育成することができた。しかし一方で、IT産業につ���ては、技術関連のノウハウは、モノによってはノウハウがインターネット上で公開されていることもあるし、企業外に様々な技術は存在する。同時に、変化の速い業界である。したがって長期雇用のスキル蓄積的なメリットは正直存在しない(新しい技術を、都度学ばなければならない)。しかし、大手IT企業は雇用慣行から長期雇用をせざるを得ない。結果何が起こるかというと、マネジメント層や管理層の膨張や、人月商売による多重下請けである。要は、社内人材に「技術的なノウハウ」が蓄積しない一方、「管理のノウハウ」は比較的蓄積が簡単なので、管理層が膨張する。そして、「技術的なノウハウ」が存在しないため、外注せざるを得ない、という状況である。そして大手IT企業は、どうやって他者と差別化するか、と言ったら、「御用聞き」になる。
ちょっと上の感想は飛躍しすぎたかもしれないが、結果として、日本の労働環境・労働慣行を考えるうえでは非常に参考になる書籍だった。