映画は観てもいいし、読んでも楽しい
2019/10/23 17:26
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画評論家はあまたいる。
一番に名前が浮かぶのはなんといっても、淀川長治さん。双葉十三郎さんとか小森和子さん、
川本三郎さん、山田宏一さん、佐藤忠男さん、とすぐに10人ぐらいは名前が浮かぶ。
そんな中、この本で日本映画の「講義」を行っている町山智浩さんは最近人気の高い映画評論家の一人だ。
そして、もう一方の春日太一さんは映画評論家という肩書ではなく「映画史・時代劇研究家」となっているが、日本映画への愛は半端なく、その著作はそんな愛が溢れまくっているという人だ。
そんな二人が日本映画の「戦争・パニック映画」について、語っているのだから、面白くないはずがない。
ここで取り上げられているのは、「人間の條件」「兵隊やくざ」「日本のいちばん長い日」(これは1967年版です)「激動の昭和史沖縄決戦」「日本沈没」(これは1973年版)「新幹線大爆破」、そして何故か三船敏郎を描いた「MIFUNE」の6本。
若い読者にとっては昭和の時代の作品に戸惑うかもしれないが、日本映画が大きな落日を迎えつつある時代の名作と思えば、作品が持っている力は決して失われていない。
これらの作品に出演している三船敏郎や勝新太郎、あるいは仲代達矢や丹波哲郎といった男優たちの演技を観るだけでも面白いはずだ。
町山さんには「映画は。何も知らずに観ても面白い。でも。知ってから観ると100倍面白い。観てから知っても100倍面白い」という名言があるが、だからこそ、映画評論家はいくらでも出て来るのかもしれない。
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どの作品の解説もすばらしかったが、特に「日本のいちばん長い日」がよかった。思わずBDを買ってしまったくらい。現場スタッフの証言から、洋画に与えた影響まで、幅広い視点で解説してくれるのはこのコンビならではだなあ。お二人のSNSでのやり取りを見る限りでは次回作はなさそうだが、本当は今後も続けてほしいところ。
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戦後日本で多く作られた戦争・パニック映画から見る映画史。基本的には有名作品がほとんどだが、黒澤明と三船敏郎、小林正樹と仲代達矢、田中友幸と田中収、橋本忍、長坂秀佳ら、人間関係や人間像に焦点化しつつ作品を読み解いていく視点はとても勉強になる。個人的には、『兵隊やくざ』シリーズの勝新太郎にしても、初期黒澤映画の三船敏郎にしても、戦後日本映画は、じつは〈かわいい少年のような純粋な男たち〉を一貫してヒーローとして描いてきたのだ、という発見もあって、面白かった。
かねてから、戦後日本の戦争映画が作ってきた「戦争」の表象と記憶について考えてみたいと思っていたが、本書はその入口として相応しい内容と思う。岡本喜八の『独立愚連隊』『血と砂』への注目にも、膝を打ちたくなった。これらの作品は、田村泰次郎の小説と並んで、戦後における日中戦争表象を考えるうえできわめて重要。どこかに先行研究は出ているのか?
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実際には、「日本沈没」の章だけ読んだところ。
爆発の昭ちゃんへのリスペクトが嬉しい(笑)
黒澤組+円谷組って、そういえばそうか、と今更ながら納得。
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ほんとこの人達、映画についてならずーっと何時間でもしゃべっていられそう。
この中で語られてる映画で視聴済みなおのは「人間の条件」(さすがに全部は見てないけど)と「新幹線大爆発」「日本の一番長い日」の3本。
観た映画をこんだけ詳細に裏話しや俳優のエピソードなども語ってくれると面白い。
著者ふたりが声を揃えて、三船敏郎のナンバーワンという「血と砂」岡本喜八監督、(日本のプライベートライアンだそう)是非、観てみたい。
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町山智浩さんのいわゆる外国映画講義は何冊か読んでいるのだけど、不思議なことに日本映画については読んだことがない。映画館で年間100-140作観る私が常に感心するのは、町山さんの映画評だけだ。必ず面白い話が聞けるーそう確信して本書を紐解いた。WOWOWの『町山智浩の映画塾!』の書籍化。
残念なのか、流石というべきか、戦争・パニック映画を講義して大きく扱うのは7作品だけだ。『人間の条件』『兵隊やくざ』『日本のいちばん長い日(1967)』『激動の昭和史 沖縄決戦』『日本沈没(1973)』『新幹線大爆破』『MIFUNE THE LAST SAMURAI』である。2作は未見だが選択は納得する。
『人間の条件』原作者も監督も撮影監督も実体験をフィルムに焼き付けようとした。
『兵隊やくざ』は『人間のー』の裏返し。公開当時、実体験を持つ観客は多かったから、さぞかしスカッとしただろう。会社組織の上司の関係も同じ。風呂場で喧嘩シーン、前貼りなしなのに絶対アレは見せない(大映撮影布陣の技術力)。有田と大宮の関係はBLだ。赤ん坊のために戦闘が一瞬止まる場面は後に『トゥモロー・ワールド(06)』が影響されたに違いない。等々参考になった。
『日本のいちばん長い日』脚本との違いがある。阿南(三船敏郎)の切腹場面と森師団長(島田省吾)の殺される場面は、音だけの描写だっが、血みどろ描写を丸見せした。奇跡的に生き残った岡本監督の出発点だったからだ。『ヒトラー 最期の12日間』に、書類を焼いている所はこの作品のオマージュ。横浜守備隊の隊長がポケットに入れていたのは『出家とその弟子』、『シン・ゴジラ』で『春と修羅』が出てくるのと同じ。
『激動の昭和史 沖縄決戦』71年岡本喜八監督、新藤兼人脚本。未見。戦争を憎みながら、戦争アクションは見事。東宝スタッフ子会社化前の、総力作品。一人ひとりの生き方死に方に描いて、ウエットに描かない。
『日本沈没』(73年森谷司郎監督、中野昭慶特撮監督、橋本忍脚本、そして木村大作の撮影デビュー)タイトルが出てくるまで1時間。『日本のいちばんー』でも20分かけた橋本脚本。この映画によって、二本立て興行が一本立てになった。
『新幹線大爆破』(75年佐藤純弥監督、高倉健主演)80キロに減速したら爆発する。『スピード(94)』『アンストッパブル(10)』で使われた。タイトルを聞いて国鉄の協力が得られなくなったので、遠景は無許可、駅は私鉄だった。元ネタは黒澤明脚本の『暴走列車』。東映は社会的メッセージを入れる伝統がある。博多市民を救うために新幹線を止めて乗客を犠牲にしろ、という選択は「トロッコ問題」。選ぶことができない、というのが正しい(と私は思う)。宇津井健は「私は一回でも新幹線を止めようと思ったから国鉄マンとして失格だ」という。
『MIFUNE THE LAST SAMURAI』(三船敏郎のドキュメンタリー)『椿三十郎』の殺陣は三船が考えた。それまでの殺陣ではなく、お互い切るつもりでやっている。黒澤明が要求した。みんな黒澤に酷い目に遭っている。『蜘蛛巣城』で矢を射られたのは、後々トラウマになったらしい。
日本映画の知識は、圧倒的に春日太一が上。そのせいか、対談のせいか、イマイチ切口が鋭くなかった。
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前巻は時代劇映画について語った本で、今回は戦争アクションとパニック映画について語った本。内容は言うこと無いくらい面白い=その映画を見たくなる仕上がりだが、少し思うこともある。
時代の流れとともに「戦争」がアンタッチャブルなものとなり、「エンタテインメント」とのハイブリッドが困難なものになってしまった(「不謹慎だ」と怒られる)ようになってしまったのは、悲しむべきか良いことなのか。