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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
答えのない、混沌の小説。
ただの変化に不可逆な時間軸を混ぜ込んで、
「進歩」と名付ける人類の業が洗われる気がする。
宗教への信仰か。科学への信仰か。
いずれにしても、信仰なくして人類の繁栄はない。
事実の羅列で人を従えて、理想郷を作るのは、
パンドラの箱を開けてしまったそのときから、できないと決まっているのだと思う。
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ずしりと重かった。
読了後、いろいろのテーマが頭の中で駆け巡った。
あらすじは単純だ。
日本人永岡英彰(新聞社勤務)が、パスキム王国なるヒマラヤの奥地での華麗な仏教文化美術に魅せられる。
王国で政変が起こり、仏教美術危うしとさとった彼は、国交断絶の王国に潜入、そこで壮絶な経験をするのだ。
物語性があり追っていく楽しさがある。
美しい弥勒菩薩の仏像の行方はどうなったか?と。
今のイラク、北朝鮮もかくやとばかり、髣髴させる場面がでてくる。
仮想のパスキム王国は仏教王朝、カースト制度などで趣はちがうのだが、類似点が恐ろしい。
物語は変化に富んでいるが、突きつけられるテーマは重く、深刻に考えさせられた。
☆ 人間が生きて行くこととは何か。
哲学的に考えるのは意味のあることなのか。
理想の国家体制はあるのか。
『そこに導いていく絶対原理』はあるのか。
衣食住が足りてこそ文化文明があるという事実。
☆ 人間が生きるためには何をしてしまうのか。
身体を維持していくには他の動物を殺して食べていかなければならない。
(今朝もニュース鳥インフルエンザ問題で2,800羽が死んだ、出荷数は15,000羽と聞き、その数の多さに愕然。)
この物語の中ではカースト制度でもって殺すのを一部の人に押し付け、一部の人は罪や不浄から逃れ美しいことだけ考えて暮らしてるとある。(今、日本人が飽食に走り、あらゆるものを殺生して食べ尽くしているのを思う。私を含めて。)
☆ そして、救いはあるのか。
『弥勒』にこう書かれている。
『……死に至る理由は夜空の星の数よりも多く、生きるためのよすがとなるものは、真昼に見える星の数ほどしかない。太陽が昇り、月が沈み、太陽が沈み、月が昇るように、ただ生と死の輪は巡る。』
私は涙が止まらなかった。
篠田節子さんの『弥勒』に光明は示唆されていると思う。(これから読む方の興を削ぐので書かないが)
篠田節子さんの筆力と構成力。相変わらずすごい!
1998年に書かれたのだが、今もって世界で起こっていることを見れば、繰り返しである。普遍的である。
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仏教美術の保護のため、ヒマラヤの小国「パスキム」に潜入した新聞社員・永岡英彰が直面したのは、壮絶なる政変という現実であった。この世に「救い」は必要なのか⋯
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これほどに重厚感のある小説を書ける作家はそんなにはいないのではないか。
パキスムという小さな国でのクーデター。クーデターが起こった中、そこに閉じ込められた極限状態の人間から浮かび上がる、人間の愚かさや醜さが重厚感を持って描かれている。人間の心を救済するものは果たして何なのか。
600ぺージを超える小説でしたが、一気に読み進めることができました。