高校数学の知識で物理学の成り立ちを知る
2008/11/24 22:23
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
文明が発生して以来、すなわち日々の食料の確保に奔走せずとも生きていけるような社会が確立して以来、世界の成り立ちを知りたいという欲求は、知識人たちを思索に向かわせ、古代ギリシャでアリストテレス哲学に結実し、以後、占星術や錬金術を発展させてきた。しかし、占星術や錬金術は、物理学や化学の前身であることは確かだが、近代の物理学や化学とは別物であることもまた事実である。では、一体何があり何がなければ物理学であり化学というのか。中世の研究者たちの思考の後を辿ることにより、これを定義しようというのが本書である。
上巻では、まずは力学の成り立ちについて語っている。現代でもそうかもしれないが、中世の人々は占星術により運命を知ろうとした。占星術は天体の運行から運命を読み取る技術であるため、天体の動きを知ることが非常に重要であり、天体観測が発展した。この時代に登場するのがケプラーである。ケプラーも占星術師であったが、なぜ天体の運行が人の運命と結びつくのかということに疑問を持ったらしい。そこで、天体の運行の仕組みを明らかにすることにより、この関係性が分かるのではないかと考えた。
ケプラーは、師匠のブラーエが生涯を掛けて集めた正確な天体記録を継承し、未だ確立していない幾何学を駆使し、苦心の末、火星の軌道が長円であることを突き止めた。こうしてケプラーは、思索による哲学ではなく、実際の記録に基づく計算により、天体の運行が単純な幾何学により表されることを明らかにしたのである。
同時代に生きていたガリレオは、単なる観察に基づく計算だけでなく、自らの考えを証明するための装置を作成し実際に試すという作業、すなわち実験により、証明するという方法を編み出した。そして実験により、地上における物体がどのような運動をするのかを明らかにしたのである。
しかし、彼らの考えがそのまま受け入れられたわけではない。中世にはカトリック教会という大きな壁が存在していた。教会は聖書の記述を疑わせるような考えを否定し、弾圧したのである。
ケプラーやガリレオが世を去ったあとに登場するのがニュートンである。ニュートンは、完成した幾何学を駆使し、いくつかの法則を前提とすれば、ケプラーが発見した天上世界の運動とガリレオが発見した地上世界の運動を導き出すことができることを明らかにした。これにより、力学の世界を説明するための言葉を人類が手にしたことになる。
これまでは哲学的な側面から発展した物理学を見たが、物理学には技術的な側面からの発展もある。ワットによる蒸気機関の発明は、人類に産業革命を起こすと同時に、蒸気機関を改良する試みの中で、なぜ熱からエネルギーを取り出せるのかという疑問を生み、熱学の発展を促すことになるのである。
数学として表現することの意味
2012/01/05 22:35
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本人二番目のノーベル賞受賞者朝永振一郎による物理学入門。著者が亡くなり未完に終わったため、執筆予定だった内容の原型となる講演を巻末に付け加えて刊行された。そのため、全体の構成はかなりアンバランス。随所に物理学部生向けの注が挟まれ、数式も容赦なく挿入されるので、わりと想定読者のレベルは高い。この数式の活用はもちろん、本書の狙いにとって欠かせないものだ。
第一章はケプラー、ガリレオ、ニュートンの定番の話から始まる。ここではケプラーの神秘主義的な思考が、惑星の動きとどう関連していたかが述べられているところが面白い。惑星の動きの原因としてケプラーは太陽の自転を挙げていて、その自転は神によって起動され、運動霊の補充を受けて続いていると言う。運動霊とかいいながらも、その運動はきわめて精妙に数学的に記述されている。神霊思考を根本に持ちつつも、数学的記述が並列する、今から見ると非常にちぐはぐな印象なのだけれど、これはまさに過渡期ならではのものだろう。ケプラーのこのあたりの言説を直接引用したのは見たことがなかったので興味深かった。
そして次に熱の問題になるのだけれど、全体の構成が著しく偏ってくるのはここから。じつはこれ以降はずっと熱の話が最後まで続くことになる。付録の講演をのぞくと、全体の三分の二ほどが熱力学の話だ。熱とその運動論の完成にかけての苦難を執拗にたどり直す著者の執念が非常に色濃く出ていて、かなりついていけない部分もあるけれど、後の原子論や相対論、量子論にまで繋がる重要な問題としてこれを扱っているのがわかる。
漠然としか把握できていないけれど、熱の運動は確率的にしか記述できない点で、古典的な力学とはかなり色合いが違う。そこで統計力学とかが出てくるみたいだけれど、これが後の量子論的な世界観にも通じるものがあるんだろうなというのがなんとなくわかる。
まあ、内容の要約は困難なので端折る。この本で印象的なのは、科学的発見や法則を数式として表現すること、数学化する、ということの重要さが繰り返し論じられていることだ。ガリレオの「自然の書物は数学の言語によって書かれている」という言葉を引きつつ、数式化することによって、普遍性と汎用性を得ることができるという利点を説いている。後半の熱力学の話でも、延々と数式化の試行錯誤が語られていて、物理学の研究プロセスがいかなるものかというのが伺える。
湯川秀樹の言として、後世の人々が何を学び、何をくみ取ってきたかということと、創り出した人が当時何を考えていたかということはまったく違う、というのがある(『物理講義』冒頭)。本書はまさに熱との格闘を通じて、いかに創られていったのかということを追体験しようとしているかのようだ。
他にも、どういう実験をデザインすれば仮説を検証可能なものにできるのか、というのを原子を観察できない時代においての原子論の研究を例にひきつつ語る所なども、見えないものをいかに考えるか、という点でとても興味深いものだった。定比例の法則から原子の組成を割り出す手法には感心する。
しかし、ガリレオの言がそうだけれど、自然現象はなぜ数学で表現されうるのか、というのは非常に興味深い問題じゃないだろうか。数学って何だ? という話になる。これはまた科学哲学の別の話になるだろうか。
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ノーベル受賞者・朝永振一郎氏が、物理学の流れを書いています。
何十年も前の本ですが、今でもこれを越える本はないんじゃないでしょうか。
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本書を読んで良かったと思えたことは、物理学者が偉大な発見をするまでの経緯を知ることができたことである。力学・熱力学について論じられていたが、具体的に得た知見は以下のとおりである。?ケプラーによって正確な観察事実に拠り所を求めつつ厳密な数学的推論を用いる手法が成された(それ以前の物理学は占星術より分化しておらず、思弁に導かれた神秘的色彩が強かった)、?ガリレオによって?に「実験事実」が加わった。自然の法則をばらばらに発見するだけでなく、その中からもっとも基本的なものをいくつか選び出し、それから他の法則が導き出されるような体系をつくった、?ニュートンによって、?、?の成果を踏まえ「ニュートン力学」とよばれる力学体系がなされた。また微分積分学を大成し、「運動」をその動きにおいて捉えることができるようにした。
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【自然科学の歩みを理解するために】
図開架 S420.2:T661:v.1/2 上/下
日本を代表する物理学者の遺作である。物理学を専攻する人も専攻しない人も、じっくり読むと著者の意図を理解できる。
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これは名著です。ただし残念ながら絶筆であり未完成。最終章は病床での口述筆記となっています。
物理学そのものの詳細な中身ではなく、様々な法則を見出して行った先人達がどんな努力をしてきたか、それはどんな時代背景があったのか、科学と哲学や宗教との関係にも言及しながら丁寧に解説されています。
力学から始まって熱学(熱力学)分野の記述にかなりのページを割いています。もし著者が亡くならなかったら、本来の専門である量子論まで及んだのでしょうか。だとしたら本当に素晴らしい、物理学を学ぶ物なら必ず読むべき一冊になっていたことでしょう。
アインシュタインらが書いた『物理学はいかに創られたか』という本はいまいちでしたが、そのタイトルはむしろこちらにつける方がふさわしいと思います。
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物理学とは何かというテーマを、
科学がまだ分離、細分化するはるか以前の時代から説き起こすため、話題は当然、化学 にも及んでいる。
ノーベル賞で授与されるメダルには、 が刻まれている 女神のベール ゲーテの言葉
これらは科学こそ幸福をもたらすという一般的な観念を軌道修正するための
近代合理主義 効率非効率 損得 の主流
思い出すのはラフカディオ・ハーンの存在である
科学こそが「未来の希望」であった時代
9.11の意味
幸福にいたる道
(推敲)
本書は「物理学」の形成過程を、時代の天才たちの着想、推考、継承の営み、そして人間のドラマとして描いた叙事詩的科学史と言ってよいだろう。「物理学史」と限定しないのは、本書の内容が現代物理学への道のりから外れないように慎重に書かれながらも、朝永氏の胸に描いていた構想が実は現代「科学」の課題に向かうものであったろうと考えるからである。
最近、海洋調査船に便乗させていただいたり、天文学や生物系の研究者の皆さんに接しながら、何度も聞くのは、「(その分野については)まだ、ほとんど明らかになっていないのです」という言葉である。その背景には、「新しいことが分かると、そこから次の謎が出てくる」という研究の面白さがあるという。
近代物理学の手法を確立したとされるニュートンは次のような言葉を残した。
「自分はまるで海岸に転がっている、珍しい形をした石や貝殻を見つけては喜んでいる子供のようなものだ。真理の大海は何も手をつけられずに、その子供の間の前に横たわっている」(※)
どんなに科学が進歩したとしても、科学者と真理の関係はいつもこのようなものであるのかもしれない。「真理の大海」は 生徒の目の前にも、ニュートンの時代と同じように「横たわっている」のである。
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名著。上は前半が天文学や力学の歴史を学ぶことができる。とくにケプラーに詳しい。ガリレオやニュートンのやったこと、とくにガリレオが日常的には観測不可能な慣性の法則を思弁から導き出した意味について強調している。後半は古典熱力学の発達史であり、ワットから始まり、カルノー・ケルヴィン・クラウジウスなどの業績が語られているが、分かりにくい熱力学を読みやすい日本語で分かるように書いあって、熱力学の論理的展開がよく分かる。
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目次
物理学とは何だろうか
序章
第I章
1 ケプラーの模索と発見
2 ガリレオの実験と論証
3 ニュートンの打ち立てた記念碑
4 科学と教会
5 錬金術から科学へ
第II章
1 技術の進歩と物理学
2 ワットの発明
3 火の動力についての省察
4 熱の科学の確立
物理学の発展形態と如何にそれが偶然の産物を含んでいるかを紹介してくれた本。
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[ 内容 ]
現代文明を築きあげた基礎科学の一つである物理学という学問は、いつ、だれが、どのようにして考え出したものであろうか。
十六世紀から現代まで、すぐれた頭脳の中に芽生えた物理学的思考の原型を探り、その曲折と飛躍のみちすじを明らかにしようとする。
本巻では、ケプラーから産業革命期における熱学の完成までを取り上げる。
[ 目次 ]
ケプラーの模索と発見
ガリレオの実験と論証
ニュートンの打ち立てた記念碑
科学と教会
錬金術から化学へ
技術の進歩と物理学
ワットの発明
火の動力についての省察
熱の科学の確立
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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高校時代の課題図書。81年11月発行で当時380円。
字が小さい。
内容はほとんど覚えていない。
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通常の教科書では味わえない
物理学の世界を覗きたい人へ。
【熊本大学】ペンネーム:アニヤ
☆この本は熊本大学附属図書館中央館にあります。
1階 新書・文庫コーナー 岩波新書B
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中学生のときに読んだと思う。これで物理が好きになり、大学受験で物理学部を受けてしまった。受けるだけなら自由だもの。もし、そっちの道に進んでいたら、どうなっていたかな。
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専門的知識がなくてもある程度は理解できる…というふれこみだったが、どっこいほとんど理解できず。鍛錬が必要なり。
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ノーベル化学賞は取れたけれど、今年は物理学賞は無理でしたね。著者は日本で二番目のノーベル物理学者受賞者です。
古典的名作として読み継がれてきた本書ですが、扱っているテーマも枯れた分野であることもあって、未だ古くなっていません。高校数学程度の知識で、物理学の成り立ちを知ることが出来る本です。
文明が発生して以来、すなわち日々の食料の確保に奔走せずとも生きていけるような社会が確立して以来、世界の成り立ちを知りたいという欲求は、知識人たちを思索に向かわせ、古代ギリシャでアリストテレス哲学に結実し、以後、占星術や錬金術を発展させてきた。しかし、占星術や錬金術は、物理学や化学の前身であることは確かだが、近代の物理学や化学とは別物であることもまた事実である。では、一体何があり何がなければ物理学であり化学というのか。中世の研究者たちの思考の後を辿ることにより、これを定義しようというのが本書である。
上巻では、まずは力学の成り立ちについて語っている。現代でもそうかもしれないが、中世の人々は占星術により運命を知ろうとした。占星術は天体の運行から運命を読み取る技術であるため、天体の動きを知ることが非常に重要であり、天体観測が発展した。この時代に登場するのがケプラーである。ケプラーも占星術師であったが、なぜ天体の運行が人の運命と結びつくのかということに疑問を持ったらしい。そこで、天体の運行の仕組みを明らかにすることにより、この関係性が分かるのではないかと考えた。
ケプラーは、師匠のブラーエが生涯を掛けて集めた正確な天体記録を継承し、未だ確立していない幾何学を駆使し、苦心の末、火星の軌道が長円であることを突き止めた。こうしてケプラーは、思索による哲学ではなく、実際の記録に基づく計算により、天体の運行が単純な幾何学により表されることを明らかにしたのである。
同時代に生きていたガリレオは、単なる観察に基づく計算だけでなく、自らの考えを証明するための装置を作成し実際に試すという作業、すなわち実験により、証明するという方法を編み出した。そして実験により、地上における物体がどのような運動をするのかを明らかにしたのである。
しかし、彼らの考えがそのまま受け入れられたわけではない。中世にはカトリック教会という大きな壁が存在していた。教会は聖書の記述を疑わせるような考えを否定し、弾圧したのである。
ケプラーやガリレオが世を去ったあとに登場するのがニュートンである。ニュートンは、完成した幾何学を駆使し、いくつかの法則を前提とすれば、ケプラーが発見した天上世界の運動とガリレオが発見した地上世界の運動を導き出すことができることを明らかにした。これにより、力学の世界を説明するための言葉を人類が手にしたことになる。
これまでは哲学的な側面から発展した物理学を見たが、物理学には技術的な側面からの発展もある。ワットによる蒸気機関の発明は、人類に産業革命を起こすと同時に、蒸気機関を改良する試みの中で、なぜ熱からエネルギーを取り出せるのかという疑問を生み、熱学の発展を促すことになるのである。