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ディストピアはなぜか心地よい。
月の分裂にはじまるパニック、分断、希望の象徴としての箱舟宇宙ステーション建造とここまでは地球・人類滅亡の物語だ。
中盤、いよいよ地上最後の日の描写がとても心地よい。
心地よい分、もう少し長く楽しみたかった気もする。
いかんせん最後の日の描写が短いのだ。
もちろん、この物語の視点は箱舟が中心になるから、地上の最後は通過点に過ぎないのだが。
後半以降はいよいよ箱舟だけの人類史がはじまる。
しかし、ここでも権力、対立、分断という人類を人類たらしめている醜く愚かな一面がのぞいてくる。
滅亡を控えた地上がディストピアであったように、地上滅亡後の箱舟も等しくディストピアなのか。
ここで上巻が終わる。
この物語はどちらかというとハードSFでもあるから、難解さや説明過剰な点、いわゆるオタクっぽさもあって宇宙船の姿や動きを思い描くのが難しい。
その一方で時折挟まれるユーモアは、ディストピアSFにふさわしい皮肉やブラックユーモアに溢れている。
P.113『驚異的な身体持久力をそなえ、生死に関わる危険を完全に無視できて、宇宙服を着た状態で生き残るすべを身につけていなくてはならない。その結果、すべてがロシア人ということになった。」
そんなことあるかい。
ロシア人をなんだと思っているんだ。
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長い!けど面白い! 普通の単行本の2~3冊分ぐらいあるけど、これでまだ上巻。
これだけ長いのは、説明にすごくリアリティがあって、話も具体的でかなり細かいからですが、その割には冒頭でいきなり月が7つに分裂して、その原因とかはまったく追求されない 笑。きっと月が分裂する理屈より分裂した後のストーリーにリアリティを持たせようということなんでしょうね。何があったら月が分裂してしまうのか気にはなりますが。
過去にも「ノアの箱舟」的な小説や映画があったが、宇宙に箱舟をもっていくというところが今の時代らしい試み。
下巻でどう展開するのか楽しみです。
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文庫が出たので再読。
月の破裂による人類滅亡までわずか2年。
人類すべてが生き残るための時間はなく、混乱せず死を迎えるための政治が行われる。
ノベルズ版では3分冊が、文庫版では上下巻。
ノベルズ版の方が区切りはよく、テンポよく読めたかも。
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「月が割れる」こんなぶっ飛んだ現象から物語がスタートする。
破片が自らの重力でひと塊になり自転していることから「再び一つになることはないにしろ変わりはないのか?重力の釣り合いが変わってラグランジュ点が変わる?」などと(序盤の登場人物達と同じく)軽く思いながら読み進めた。
物語出だしの設定は突飛だが、中身は完全なるハードSFだった。
ハード・レインに向けて月の破片が分裂していく様子や月の核であった鉄を多く含む部分だけが割れにくいというような細かな部分までリアリティを持って考えられた設定や、現実には存在しない小惑星アマルテアを用意し、宇宙ステーションにドッキングしておくという、方舟がなんとか生き延びられるかどうかギリギリの設定も考えられているなと思った。
物語の随所で描かれる宇宙空間での物体の運動の描写はどれも美しく、小惑星の軌道のような大きなものから、水の泡やチェーンの回転など手元で起こる現象まで、規模も内容も多彩で面白い。
映像的な面白さだけでなく、科学の基礎知識も所々で差し挟まれる。登場人物目線やキャラクター同士の会話だったり、解説のように入っていたり、直後の場面で必要になる知識を不自然にならないように補完している。易しく簡潔に解説されている知識は、SFでおなじみのラグランジュ点や三体問題だったり、本書で最重要となる地球の衛星軌道での物体の移動(= 軌道力学)に関してだったり、「シミュレーションの結果(= 起こりそうなこと)とはどういうことか?」や「確率の解釈(:月を千回割ったことはない/割ることはできない)」のような日常生活でも触れる問題と同種のものだったりする。
まだ平穏だった物語の最序盤、ISSの”バナナ“で会議をする際の様子が面白く、印象に残っている。
慣性による擬似重力は様々なSF作品に出てくるが、その慣性重力発生機構が小規模であるがゆえに感覚として感じる鉛直方向がねじれて ”宇宙騙し絵“状態になっている描写は珍しく、「酔いそうだ」と思いながら現場の様子を面白く想像した。
序盤は宇宙空間入門編のように宇宙ステーション内外の様子や無重力空間での物体の運動が物語に何度も挟まれる。どれも鮮明に描かれ、映像作品を見ているように感じ、ワクワクしながら物語に入っていった。
「月が割れて落ちてくる」という始まりはぶっ飛んでいるが、その後の動きや影響に関してはリアルに、緻密に描かれている。情報の発表以降『株式市場が崩壊し事実上消滅した状態になっている』というのも本編の動きと直接関係ないとはいえ、地球上での経済構造が大きく変化していることを端的に表している。
粗を見せないために地球上での場面を多くは描かず、宇宙空間にいて限られた情報しか入手できない登場人物達のやりとりで完結させているのは上手いと思った。描かれている地球上での場面も、世界を俯瞰しない人間ドラマとしているから、登場人物以上に情報収集ができない作りになっている。
そして、「地球がどうなっているのか」を読者に感じさせない書きっぷりや不満を感じさせない適度な情報の提供具合も上手いと思った。
人類が手を取り合って��難に立ち向かう話かと思いきや『世界は科学者やエンジニアが動かしているのではない』展開も加わってくる。200ページの手前くらいからは政治的な暗闘が匂わされる。
全人類が同じ方向を向くには本書くらいのイカれた設定が必要だが、それでも「世界の破滅を前にしても人類は手を取り合えないのでは?」と思い始めていたところへ、この展開を打ち込んでくる。
滅亡まで2年と予想され、時間が少しも無駄にできない貴重なものとなるが、物語内ではそれが惜しげもなく経過していく。節のタイトルに『第○日目』と書かれているが、大きく時間が飛ぶことがあり、ギョッとする。
計画が回り始めて少し落ち着く第一部の中盤では、宇宙空間で人類が長期間生存するための問題点も描かれる。スカウトであるテクラの救出では無重力空間での外科手術、特に血の飛沫の問題を避けるために微小重力下のトーラスへと移動している。また、このシーンでは宇宙にいる人間が科学者、技術者に偏っているため経験豊富な外科医がいないことも暗に描かれている。
そのしばらく後では、腎臓に対する恒久的なダメージの話こそないが、長期間の無重力、微小重力下で生活する弊害も描かれ出す。プライバシーのない閉鎖空間での精神的影響も話題に出始めている。
本書の中盤(第一部では終盤)の、アークレットを初めてイズィに結合させる場面は緊迫感を上手く描けている。本書はリアルに描くがゆえに宇宙空間でのダイナミックな場面が無く、また、本書の設定にも慣れて読者が少しダレがちになるタイミングで、テクラの救出と併せて、息を飲む状況を差し挟む手腕は見事だと思った。
アークレットのドッキングのように(突発的な事故ではなく)計画の中でありながら緊迫する場面を組み込んでくるのは良いなと思った。計画通りであっても初めてのことは何が起こるか分からない。それまででは考えられないほど短期間で設計され突貫工事で作られたものであるし、地上ではできない性能試験もある。そういった常識的に考えられる緊張感に加え、直前のテクラの事件で「事故で閉じ込められる/宇宙空間に放り出されることも起きうるぞ」と暗に意識をさせられ、ドキドキしながらページをめくり、無事に完了した際は登場人物と同じようにホッと一息ついた。
この思い出深いアークレットの一号機だが、しばらくすると旧式化している描写がサラリとなされているのも良いと思った。
第二部でも時間が大きくジャンプする。ドゥーブの『まだ一年残っている』から1ページで11ヵ月が飛ぶ。日付を見て「ウッ」となる。
第一部では比較的平穏で日常生活を維持していたように見えた地球だが、ホワイト・スカイが間近に迫ると現実を突きつけられてパニックを起こしはじめている。
予定通り物資が送られてこないかもしれないと危惧しているところでのスペース・トロールとの接触はゾクゾクする。『地球上ではない』場所にいると称する正体不明の人物からの型破りな信号と、それが『トロール』ではあり得ない情報を持っていることが分かったときの鳥肌、ドゥーブが参加しての謎解きとショーンのイミールが氷の塊を連れて帰還するという期待と政治問題になる不安が高まるというてんこ盛りの展開を、モールス信号という���報量の少ないもどかしい方法でお預けをくらいながら見守る。
肝心のショーンとのやりとりは核攻撃によって場面が切り替わり中断する。
核の使用は予想できる事態だったが「遂にか・・。」という落胆があった。世界の最後が迫って現実感から逃れられなくなった人間が出てきたか。という感じ。
その後は中休み的に新しいメンバーが加わり、拡張されて様変わりしたイズィの中を見て回ることになる。
このあたりでのSF的な表現で気に入っているのは、受精卵の冷凍保管庫に冷気が“しみ込んでくる”という表現や施設内での方位に““が付いていて「便宜上そう読んでいるだけだ」と思い起こされるのも良い。
400ページを超えたあたりからまた時間の感覚が狂わされる。
と言っても狂うのは物語内の時間ではなく、ホワイト・スカイまでのタイムリミット。これが一気に、そして悪い方へ傾いていく。読んでいて緊張感が高まるも、登場人物らと同じくどうすることもできず、彼らの日常を眺めながらその時を待つしかない。地上からの支援が絶えた後の体制がようやく稼働し始め、”その時”に備えて心構えを持とうとしている矢先に物語が先手を打ってくる。憎らしいが優れた展開だと思った。
そこからは計画が前倒しされて最終段階に移行し、クラウド・アークも独り立ちの準備を急ピッチで進める。
数日の後、ハード・レインが始まり世界が崩壊していく。登場人物達が最後のやりとりをする姿が哀しい。
ここではたっぷりと時間を使って、地上と宇宙の視点を切り替えながら人類の最期を精巧に描いている。この部分も映像的で、自分も物語に入り込んで「自分はハード・レインを見るのだろうか、その前に家族と安楽死薬を使うのだろうか」と思う。
これ以降地球は『オールド・アース』と呼ばれるようにになる。
本書終盤(第二部としては中盤)では物語の中にいくつも別の物語がある感覚だった。イズィでの生活の他に、ショーン・プロブストの冒険でも中〜短編が書けそう。ニュー・ケアードでの探検も短編にできると思った。
イミールへニュー・ケアードが近づいているときは急に場面が変わり、全乗員が気絶しているというヒヤリとする光景から再開する。
大きな山場であるイミールヘのランデブーでは物語にアイディアとワクワクが散りばめられている。
乗員が死に絶えた後でもドッキングポートの位置を知らせるロボット名、ロボットを使ってイミールヘと“錨をおろす”、宇宙服での穴掘り、ドッキングから放射能汚染の可能性のある幽霊船の内部探索へ。といった具合だ。
幽霊の代わりに放射線に脅かされながら、イミールの司令船を掌握し、残されたログからショーンらに起きたことの種明かしがなされる。そこからは短い探検ホラー譚から従来のサバイバルへと物語が戻っていく。
「読者の想像にまかせ語られることがないのではないか」と思っていたショーンらの奮闘が知れたのは良かった。サラリと語られるこの物語も、片道切符での彗星への出発、予想外のトラブルでの生存状況の悪化、彗星から破片の切り出しとその際に起きる“汚れた雪玉”問題、流星塵よる燃料棒へのダメージとその破損による乗員の死亡、後継を託す最後の通信とSFのワクワクが詰まっていた。
最終盤は冒険やサバイバルとは反対側に振れて政治の話で時間へ続いていく。発見時から救うべきではないと思っていたJBFが暗躍する。アーキーを丸め込んで“オールド・アース流”とも言うべき権力闘争を始めようとしている。
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大作の上巻。突然、月が分裂、あと2年で人類滅亡。こんな危機に対して人類はどうする!
テクノロジー、コミュニティ、そして政治、様々な事柄が交錯する。
次々に起こる問題に対する人々を描く作品、さぁ下巻を読もう!