経済政策で人を救え、ということ
2018/07/01 20:01
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投稿者:miyajima - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者二人は疫学者。疫学は病気の本態や原因、影響を調べるのが仕事だが、経済にも応用し、政府の予算編成や経済政策の選択がその国民の生死、病気への抵抗力、死亡リスクをどう左右するかを調べた結果が本書の内容。
ちなみに原著書名である「The Body Economic」とは「ある経済政策の下に組織された集団。その政策に影響を受ける集合体としての国民」のこと。著者は疫学をボディエコノミックに応用した
で、財政緊縮か財政刺激策かという選択はどのような影響を健康に及ぼすのか。それらは大恐慌、ソ連崩壊、東アジア通貨危機などのように世界規模で自然実験が行われてきた。その結果はどうか?緊縮政策をとった国は大きな代償を払うことになったことが明らかになった。経済政策の結果は経済成長率だけでなく平均寿命の伸縮や死亡率の増減にあらわれた。
社会保護政策は命を救う。そしてそれを正しく運営すれば財政を破綻させることにならず、むしろ景気を押し上げる。緊縮政策の提唱者たちは、すでにデータで明らかになっている健康上、経済上の影響をひたすら無視して否定してきたのだ。
先日読んだ「そろそろ左派は〈経済〉を語ろう」とあわせると、もう緊縮一辺倒はやめた方がいいと思うのだがどうか。
た、だ、し、気を付けるべきは単なる積極財政が推奨されるのではなく、求められるのは社会的セーフティネットへの十分な投資である点。特にALMPと呼ばれる積極的な社会保護政策は自殺リスクを下げる最も有効な手段だと断言されている。
医療統計を経済学の視点から分析した画期的な書です!
2018/07/02 11:57
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、これまで類書のない稀有な書です。というのも、医療統計を経済学の視点をもって分析したもので、緊縮財政が死者数を高めていたという驚くべき結果が導き出されています。著者は公衆衛生学者で、本書の視点はとても興味深いものとなっています。経済学と医療統計とを合わせた視点は、とても新鮮で私は、読んだとたんに本書の内容に引き付けられてしまいました。
実験ができない社会科学
2024/12/04 07:01
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会科学は実験ができない残念な学問であり「科学」の名に値しない、という主張を聞いたことがあるが、本書はその意見に対する手厳しい反論である。膨大なデータの収集、整理、分析 という作業があったはずで、その労苦に対し敬意を表したい。本題である経済政策の話にも大変感銘を受けた。現在の日本でも、財政均衡派と緩和派とで論争が続いているが、国民の健康 そして生死の問題をどこまで認識しているのか疑問である。本書に基づき 論争に一石を投じたいものだ、
デスクワークの政策家に
2015/09/30 15:26
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
刺激的なタイトルであり、経済政策の当事者にとってみれば、国民にご負担を願うとか辛抱をお願いするといった政策が、人の死につながるということを前提にしているのだと語っているのである。
経済学も抑制的な社会保障支出や景気抑制策の枠組みにも死亡例を前提にしてはいない。
公衆衛生学という学問に対する無知であったことなのだろうか、冷静に考えれば、独立事業者や失業の結果、何らかの疾病が同時期に生じれば、一時的8貧困あるいは悪化によって十分な医療を受けられず、結果死亡に通じるのはありうることなのだ。もちろん、これを因果関係と捉えるべきか、十分条件の一つであり、必要条件ではないと考えることもできる。
著者は実例のデータの積み重ねより実態はそう考えるべきではない、因果関係と捉えるべきではないかとの主張であり、説得力がある。
デスクワークの政策作りの人たちに沈思黙考も機会を与えるものである。
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投稿者:凄まじき戦士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
医療的方面の視点から経済政策の影響を語った本でした。
視点としてはかなり新鮮な目の付け所で読み物としてはかなり真新しいなと思いました。
ただ、あくまで医療的側面からの視点で描いたものなのでこれだけを頼りに経済政策を非難したり考え直すのは違うかなと思います。
あくまで一側面として読んでみるのには丁度良いのではないでしょうか。
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結論はすでに帯に書いてあるが、福祉や衛生に支出をしなかったり、不況下で労働者保護をおこなわなかった国は、死亡者が多かったことを、ここ近年の主要国のデータをもとに分析したもの。
でも、よく考えたら、いまのように社会福祉や衛生に対する国策がなかった中世では、飢餓や病気での死者が多かったのだから当然ともいえる。
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最近、読んだ本では1、2に上げられるほど面白く、一気に読みきった。翻訳もこなれており、読みやすいというのもあった。不況下で財政緊縮策か財政刺激策かという選択において、健康に対する影響を疫学的に明らかにした本である。結論は財政緊縮策を取った国は、健康も悪化する上に、経済成長もしないということである。アイスランドとギリシャの比較で詳述されている。しかし、世界の保守勢力の人達は財政緊縮策にこだわる。それを、「緊縮政策は一種の経済イデオロギーであり、小さい政府と自由市場は常に国家の介入に勝るという思い込みに基づいている。だがそれは社会的に作り上げられた神話であり、それも、国の役割の縮小や福祉事業の民営化によって得をする立場にいる政治家に都合のいい神話である」と、喝破する。危機に際してほど、民主主義が求められ、そのためには裏付けがありそして根拠のある政策を見る目が必要である。そのためには私達自身が信頼できるデータを学ぶことが大事であろう。日本の現在の政策は世界的な潮流であるが、その結末は他の国の結果や歴史から明らかであろう。
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大不況に於ける経済政策が、人の生命にどのような影響を与えるのか、実際に起きた具体例を基に公衆衛生学からわかりやすく分析をした一冊です。主として緊縮政策で公共支出を削減したことで起こる様々な人々に対する弊害を例として挙げています。難しい経済用語は殆ど無いので、とても分かりやすく読みやすい本でとても為になりました。
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タイトルの答えは予想通り。人々の健康は経済政策に左右され、不況下の経済政策の失敗は健康にとって有害。
著者の指摘は以下の通り
1. 有害な方法は決して取らない
2.人々を職場にもどす
3.公衆衛生に投資する
まあ結論は普通だ。
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緊縮政策は人を殺す。不況でなく、不況への対策が人々の幸不幸を左右する。不況時にいわゆる医療、教育、福祉へのバラマキ政策がいかに大事か。銀行への資金注入、軍事費を減らさないことが役に立たないか(効果乗数が1より小さい)。定性的に結論は分かった。欲を言えば、定量的な推定値(1カ所だけ終章にあったが)が知りたくなった。
・ポーランドの例を見れば明らかなように、民営化そのものが悪いわけではない。問題は民営化のスピード。
・医療に市場原理を導入すれば効率的になるわけではない。アメリカの医療制度は多くの人を締めだしてきたが、アメリカの保健医療支出はどこの国よりも多い。
・医療サービスでは失業による自殺リスクを大幅に下げることはできない。失業手当も。ALMP( 《Active Labor Market Policy》積極的労働市場政策)のみ効果あり。
・緊縮政策は一種の経済イデオロギーであり、小さい政府と自由市場は常に国家の介入に勝るという思い込み。
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公衆衛生学の観点から経済政策を分析し、社会経済政策の健康への影響について論じている。政策について語る際には、その経済的効果だけではなく、人間への影響にもしっかり目を向けるべきであるというスタンスである。
本来、医療の世界では、薬や治療の効果を評価するために大規模なランダム化比較試験が行われているが、社会経済政策となると、そのような実験を行うのは現実的ではないので、研究対象にしたい状況にきわめて似た状況を過去の歴史のなかから探してくる方法である「自然実験」を利用して、研究を行っている。具体的には、1930年代の大恐慌時のイギリスとアメリカの対応、ソ連崩壊後のロシアとポーランド、アジア危機時のタイとマレーシア、欧州危機時のアイスランドとギリシャなど、同じ不況に巻き込まれた地域で、異なる為政者が異なる政策を実施した事例について比較検討している。
その上で、不況下での緊縮財政は景気にも健康にも有害であると結論づけ、社会保護政策への投資など、賢明な選択をすれば、人命を犠牲にすることなく経済を立て直すことができると主張している。
自分自身はどちらというと財政健全化論者だが、著者たちの研究結果とそれに基づく主張には首肯せざるをえない。経済政策は、経済成長や財政だけではなく、国民の生死、健康に関わるものだということを強く感じた。政策に携わる者に大きな示唆を与える本である。
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経済を立て直す必要に迫られた時、私たちは何が本当の回復なのか忘れがちである。本当の回復とは、持続的で人間的な回復であって、経済成長率ではない。経済成長は目的達成のための一つの手段であって、それ自体は目的ではない。経済成長率が上がっても、それが私たちの健康や幸福を損なうものだとしたら、そこに何の意味があるのだろう?
この視点で、過去の経済政策が人の健康や幸福にどのように影響したかを教えてくれる。
筆者と対立する考え方をする人は、恐らくこの本に書かれたデータの切り取り方を指摘するのだろうが、それを差し引いても、難しい経済の話を、わかりすく解説し、経済政策の捉え方を教えてくれる良書に違いない。
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不況時に国が経済政策として緊縮財政を行うと人が死に、景気もさらに悪化する。一方、緊縮政策を行わず、医療や住宅、就業など公衆衛生に寄与する投資を行うと、国民の健康は損なわれず、経済成長にも寄与するということを、データを元に解説する内容。
1920年代の世界恐慌時のアメリカで、ニューディール政策を受け入れた州と受け入れていない州の比較や、リーマンショック以降のイギリスとアメリカ、ギリシアとアイスランドの比較、などとにかく事例が豊富でどれも興味深い。個人的には、旧共産国がソ連崩壊後に資本主義化したとき、国営企業の民営化を急いだところほど、経済が破綻した話はおもしろかった。
著者はこれらの事例の分析から、不況時の緊縮政策について「データや論理に基づかない一種の経済イデオロギーであり、自由市場と小さい政府は常に国家の介入に勝るという思いこみ」であると説く。その上で、不況時の経済政策の原則として「有害な方法はとらない」「人々を職場に戻す」「公衆衛生に投資する」の3つを挙げている。
著者のふたりの専門は、それぞれ政治経済学と公衆衛生学、医学と統計学。ふたりとも若い頃にとても貧しい環境にあったそうで、そのことが「公衆衛生」という観点から経済政策を研究するモチベーションになっているそうだ。思えば、日本語の「経済」って「経世済民(世をおさめ、民をすくう)」の略なわけで、「公衆衛生」はまったくもって正しい視点だと思う。
とても読みやすく、高校生の公民の教科書などに使えばいいのになあなんて思った。経済政策の見方を養うと言う意味では、飯田泰之「ゼロから学ぶ経済政策」あたりと一緒に読むとさらに有益かもしれない。
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経済政策が人々の健康に及ぼす影響を公衆衛生の観点から評価した本。緊縮政策は国民の身体的・精神的健康に悪影響を及ぼすだけではなく、経済効果も乏しい。それに反して正しく運営された積極財政は健康のためだけではなく経済的にも有効である・・ 経済政策にも医学と同じような厳密な評価が必要である。
確かに小さな政府と新自由主義は国民の1%に大きな利益をもたらすかもしれないが、99%には経済的、精神的な負担を強いる・・ 行き詰まったとしかいいようのない現状の再評価のために豊富なエビデンスに基づいた事実を提示してくれています。おすすめ
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・読み終わって感じたこと
現在の新型コロナウイルス感染症に対する政策が公衆衛生学からどのような評価を得ると思われるか、これまでの研究成果を活かしたものとなっているのかを考えながら、現在の状況と本書の内容を見比べながら読むとおもしろい。
・おもしろいと思ったところ
一貫して公衆衛生に対する投資の大切さを説いている。本書だけ読むとなぜ公衆衛生の予算が削られるのか分からないほど。他の主張をする研究も読んでみたいと思わせられた。
・印象に残った文章
p.239 民主的な選択は、裏付けのある政策とそうでない政策を見分けることから始まる。特に国民の生死にかかわるようなリスクの高い政策選択においては、判断をイデオロギーや信念に委ねてはいけない。
p.240 政治家は事実や数字よりも、先入観や社会理論、イデオロギーに基づいて意見を述べることが多い。それでは民主主義はうまく機能しない。正しくわかりやすいデータや証拠が国民に示されていないなら、予算編成にしても経済政策にしても、国民は政治家に判断を委ねることができない。
p.243 疾病予防対策は普段は国民から注目されない。それがどれほど重要なものかわかるのは、たいてい手遅れになってからである。
p.243 経済を立て直す必要に迫られたとき、わたしたちは何が本当の回復なのかを忘れがちである。本当の回復とは、持続的な回復であって、経済成長率ではない。
p.244 どの社会でも、最も大切な資源はその構成員、つまり人間である。したがって健康への投資は、好況時においては賢い選択であり、不況時には緊急かつ不可欠な選択となる。
・こういう人におすすめ
公衆衛生学、政治、統計に興味のある人