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入門向なので、能狂言の本としては比較的入りやすく、かなり親しみやすい構成になっている。興味のない方がたまたま本を手にとっても、虜にはなり難いジャンルだけに、わかりやすさとくだけすぎなさを限界レベルで保って、読み応えのある初心者向けの本になったと言える。見どころの記述は新書の文字数制約から少ないが、これらは鑑賞機会があればぜひ頭にいれておき、鑑賞したい。
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谷崎潤一郎「陰翳礼讃」で能に興味をもち、今度行くことになったので予習がてら。初心者かつそこまで詳しくならなくてもいい身としては情報量が多すぎる本だったが、著者の能楽への愛が伝わり私もその感情を味わってみたいとより一層関心が深まった。
能以外の古典芸能についても語られており、今後雅楽や舞楽なども愉しめたらなと関心の幅も広がった。
【能楽の素晴らしさ】
・静寂の中での一期一会の音。足の歩みの美しさ。能面が突如変貌するさま。能楽堂いっぱいに響き渡る声や演奏の妙。囃子方の裂帛の掛け声に思わず見入ってしまう瞬間……。
・集団演技の集中力の高さ
・幼き頃から能楽の空気を吸って跡を継ぐ自覚を養い、成人してからの入門者は修練には異常なまでの集中力と時間を注ぎ込む。その濃密な時間が体に閉じ込められ芸となり名品や格調が生まれる
【意識してみたいところ】
●想像力をもって鑑賞する
演ずる側、受け取る側、双方で作り上げてゆく幻想の世界に集中する。能役者と観客が共同作業をしてゆくことで、実は作品を一緒に作っていく、能を心から楽しむことになる。
・におい
能楽堂の木は毎日磨かれ、踏みしめられ、また浄められている。
・三本松の下の白い砂は照明装置
・衣擦れ、足の響き、かすかな笛の音色など、小さいけれど心に届く音を囃子方や謡の激しく大きな音の高揚感とともに楽しむ
【能楽の歴史】
・「舞楽面」など先行の古典芸能から仮面劇の要素が移入された
●猿楽時代
・室町時代(600年前)には能や狂言に近い原型が成立していた。発祥は奈良
・豊臣秀吉や足利義満が能を耽溺。義満は観阿弥世阿弥父子のパトロン
・武士や公家にとって必須の教養
→豊かな経済状況と、大名貴顕の教養世界、さらには面装束、楽器、道具類の高級化が、独特の武家文化のひとつを形づくり、現在の日本伝統文化の底流を作り上げていった
●能楽へ
・幕末崩壊後、能楽者は貧困、失業に追い込まれる
・危機感を抱いた皇室と華族が「能楽堂」をつくる
【気になること】
・蝋燭能
・風姿花伝
・文化財保護法
・雅楽、舞楽、伎楽、神楽、延年、田楽、散楽★
・「「わびさび」は決して、くすんだ色合いではなく、陽光に、篝火に照り映えていたことをこそ知るべきだろう。」
・「それ以前から多様な芸能が存在した。手を打って囃したり、浮かれて踊ったり、身近なもので音を出したりと 人間は、いつからともなく全身を使って、楽しいひとときを過ごしてきた。そうした原初的なもの、土俗的なものから地域や集団での共通性が、まとまりのある「楽しみごと」に整理されてゆき、民俗的な芸能の基本形を取り始める。また海外からさまざまな先行芸能も移入してくる」
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元NHKアナウンサーの著者による能楽の入門書。
本書では、「国栖」や「安宅」、「道成寺」など、具体的に演目をいくつか取り上げ、あらすじから、物語の進行や見どころなどを丁寧に解説する章があり、まるでコメンタリー付きで能を見ているようで分かりやすく面白かった。実際に能楽堂でもイヤフォンを使った音声解説があっても良いと思った。解説の中で「ここは想像力を使って詳細を想像したい」というようなハードルの高い指示もあり、チャレンジングな側面も垣間見られた。
本書には他にも所々に小ネタが溢れていて、著者の能楽愛が伝わるような内容であった。佐渡で行われるろうそく能は、実際に観に行きたいと思った。