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ユーロ危機、欧州難民危機、ウクライナ危機やパリ同時テロ事件といった安全保障上の危機、イギリスの国民投票によるEU離脱決定という、2010年代のEUを襲った複数性、連動制、多層性を持った危機を「欧州複合危機」と捉え、EUが大きな分岐点にあることを指摘した上で、それぞれの個別の危機を振り返るとともに、欧州複合危機の背景や構造を歴史的、政治学的に分析し、今後の展望を示している。
本書では、歴史的には、EUは、ドイツ問題と東西冷戦の解決の手段として形成されてきたが、現在のEUは「問題解決としてのEU」から「問題としてのEU」になってしまっていることが指摘される。そして、それを読み解くキーワードとして「アイデンティティと連帯」、「デモクラシーと機能的統合」、「自由と寛容」、「国民国家の断片化/再強化」が挙げられている。特に、複合危機に対処するためには、機能的にEUを強化する必要があるが、それを支えるEUの民主的正統性が稀薄であるために、機能強化が進まないという悪循環に陥っていることが強調されている。一方、危機に見舞われても生き残るEUのしぶとさについても、EUの権力性の点などから言及されている。そして、EUのインナーを中心とする同心円的な再編を展望するとともに、欧州複合危機が現代の先進民主国に通底するものであることを、〈グローバル化=国家主権=民主主義〉のトリレンマという観点から明らかにしている。
本書は、必ずしも読みやすいものではないが、複合的な危機に見舞われている現在のEUを理解するために有益な、骨太の内容だと感じた。
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日本を代表するヨーロッパ統合研究者によるEU論。
「複合危機」における「複合」とは、「複数性」(複数の危機が同時多発的に発生していること)、「連動性」(これらの危機が互いに連動し、相乗効果をもたらしていること)、「多層性」(危機が国際、EU、加盟国、地域・地方といった多次元で起きていること)を指す。
2016年出版ということで、「複合危機」を具体的に扱った第Ⅰ部は、今日においてはやや古さは否めない。しかしながら、今世紀の危機を政治学的に分析した第Ⅱ部は、大変読み応えがあった。
とりわけ、機能的にはさらなる統合の深化が必要であるにも関わらず、民主的な正統性を得られないために統合が滞り、さらなる悪循環を招くといった指摘は、非常に興味深かった。
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第一次世界大戦前のバルカン半島が「ヨーロッパの火薬庫」であったように、今ではウクライナが現代版「火薬庫」になっていますね。
この本を読んで、今現在、進行しているウクライナ情勢の背景を垣間見ることができました。
しかし、ロシアの思惑ばかりが進行しているとは一概に言えず、EUをはじめとする国々の利害が錯綜していると思われました。
それはともかく、早く戦闘が終わることを願っています。
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コロナ禍前から欧州はずーっと波乱続きだと読みつつ思い出し、各国の国政に携わる方々は本当に大変だとしみじみ。。
それでも、たくさんの課題と共に、一定の結束を続けるEUのしぶとさについても言及。
中身がみっちり詰まった充実の1冊でした。