悲哀のミステリー
2020/11/02 08:43
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
取り返しのつかない過ちを犯した少年が、己の弱さにもがきながら贖罪を念う悲哀のミステリー。故意に傷が生じた時、はたしてどこからどこまでが加害者なのか。賛否両論、線引きが難しい題材の異なる立場からの切なる描写に、自分はどの人に寄るのだろう?と自分なりの正義を模索させられた。主人公の罪と同じく法的にはグレーゾーンのSNSや報道といった現在進行形の問題定義も、移ろう感情とセットで分かり易く心に残った
許されるべきか、許さらざるべきか
2020/10/29 03:56
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投稿者:Hanaa - この投稿者のレビュー一覧を見る
よく命だけでも助かってよかったなんて言葉を耳にしますが、誰かが死んで自分が生き残ってしまった場合、死ぬよりも辛く苦しいのは後ろ指を指されながら、生きにくい世界を生きていかなければならないことなのかもしれません。
世の中は人の数だけ複雑な事情があり、たくさんの感情が絡み合っていますが『赦し赦されること』の大切さや強さを教えてもらった気がします。
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作品を発表するたびに、社会的な問題を提起する作者。
今作では14歳の時に恐喝から救ってくれた男性が刺されたのにも関わらず、警察にも消防にも通報せず、逃げてしまったことでその男性を死なせてしまった大学生の苦悩の物語。
帯では「事件の加害者は人を好きになってはいけないのか」と問いかけているが、厳密に言うと主人公の星吾は事件の加害者ではない。
もちろん救護しなければいけない人を放置したことは、決して許されることではないが、14歳の少年がその場に居合わせた時にそんな冷静な判断が出来るだろうか?
それでも星吾は、自分を救ってくれた人を放置して死なせてしまったことを、ずっと後悔し、他人と関わらない人生を選ぶ。
しかし、ネットで逃げた少年と特定された星吾の周囲では、彼への脅迫行為が続く。
デビュー当時から作者が問いかけて来た私的制裁の有無が今作の軸でもある。
味方だったはずの人が、事件の関係者であったり、ミステリー要素もありながら、ラストに星吾が描き上げた絵について触れた部分では、14歳の自分が救えなかった命を未来では救ってみせる、と言う強い意志が感じられる。
人間は完璧ではない。時には間違いも犯す。それは誰しも同じ。そのあと、どういう行動をとるか?どう考えるか?どう生きるか?
そんなことを感がさせてくれる作品だった。
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14歳の時3人の男に恐喝され、助けようとして刺された青年を見捨てて逃げた星吾。過去の罪に怯え、SNSでの誹謗中傷に耐えながら孤独に生き、大学生となった星吾の人生に絡み合う人々。誰も皆、幸せになってほしい。
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不良に絡まれているところを助けられたにもかかわらず、その後刺されたその人を見捨てて逃げてしまった中学生の少年・星吾。そのことで世間からの誹謗中傷にさらされ、心を閉ざしてしまった彼の物語は実に痛々しいです。もちろん助けを呼ばずに逃げてしまったことはまずいけれど、中学生だし、怖かったんだろうなあ、と思えば責める気分にはなりません。悪人だったわけでも卑怯だったわけでもなく、ただ弱かっただけなのに。それゆえにその後何年間も苦しむ彼は、至って善人だったのだと思います。だからこそとことんやりきれない物語。
親しい人間を作らないように淡々と生活を送る星吾の周りで、しかしそれでも彼に関わろうとする人たち。彼らに心を開こうとしながら、過去の罪を知られ拒否されるのではという恐怖に怯える星吾。さらに過去の事件の犯人が死亡したことと、星吾の身に起こる不穏な出来事の数々。何者かの悪意が働いているのか、そして星吾はどうなってしまうのか。圧倒的なサスペンスに読む手が止まりませんでした。
悪気のない行為、あるいは行動を起こさなかったことで人を死に追いやってしまった場合、その人は「加害者」になってしまうのか。被害者側から見ればそう感じるのは仕方がないと思いますが。無関係な世間が一方的にそれを判断して糾弾するのは間違っています。むしろそうやって追い込む側が新たな「加害者」なのでは。ある意味、今の時代って誰もが被害者にも加害者にもなりえてしまうので、これは他人事ではない物語なのかもしれません。
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少年が犯した過ち。救急車を呼べば助かったかも…というところが肝なのはわかるけど、それで無関係な人間が寄ってたかって14歳の少年を叩きまくれるって、人間はほんとに怖いなと思った。あなたがたに裁く権利などありませんよ。自分が正しいことを証明して気持ちよくなりたいだけの癖して。
被害者家族の苦しみを思うとやりきれないけど、それでもやっぱり、臆病だっただけの少年の悲劇にも同じように胸が痛む。被害者を思うと許せない、と思う気持ちは理解できる。でもそれは、わたしたちが決めることじゃない。
物語は、希望が見えるラストでほんとうによかった。最後の絵の描写と、名前を呼んで手を振るシーンには、じんと来てしまいますね。 彼らの交流が丁寧に描かれてきたからか、どちらにも感情移入できてしまう……特にラストで視点が代わってから、彼の複雑な感情がひしひしと伝わってくるのがすばらしかった。 2人がお互いにぐちゃぐちゃの感情を抱えながらも、今後もよき友人でいられることを願います。
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登場人物が皆、やるせないほど痛々しい。だがグイグイ読んでしまう。星吾が14歳の時に、カツアゲから守ってくれた大学生が目の前で刺殺された。すぐに救急車を呼べば助かったのに星吾は逃げた。そのことが報道され、嫌がらせや誹謗中傷を受け人間不信になってしまう。大学生になり友人や好きな人ができても心は翳る。薄い本だが結構考えさせられた。生きていれば皆心に何かしらの罪悪感や傷を抱えているもの。どう反省しどう折り合いをつけていくか。物語としては後半残り僅かのページから怒涛の畳み掛け。目まぐるしかったが面白かった。
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大学生の星吾は、中学生時代に不良に絡まれ、自分を助けようとして身代わりに刺された青年を見捨てて逃げたという過去を持つ。少年は死亡し、彼は誹謗中傷を浴びながら後悔の日々を過ごす。私達がこの物語を読んで考えることができるのは、自分がその中にいないからだ。関係者の立場だったとき、冷静に考えられる人などいないだろう。ただ普通に生きることすら難しくなるのは当たり前だ。この世に罪のない人間なんていない。どうやって人はそれに折り合いをつけていけばいいのだろう…。答えは簡単には出ない。物語の後味の良いことが救いだった。
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本作は主人公の言葉に共感するものが多かった。
「夢は、普通に生活して、普通に会社員になって、生きて・・・普通に死にたい」
「愚かで、卑屈で、自分本位で、自己愛が強くて、自意識過剰で、それなのにとても弱くて・・・生きているのがとても苦しそうで・・・」
「人生がうまく回り始めると心は強い不安に駆られる。」
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デビュー作『ジャッジメント』で度肝を抜かれた小林由香氏の最新作『イノセンス』。
本作も非常に考えさせられるものがあった。
あらすじであるが、
不良3人からカツアゲされていた中学生がある若者に助けられた。しかし、その若者は不良にナイフで刺されてしまった。その場でその中学生が助けを呼べばその若者の命は助かった可能性が高かったが、中学生は何もせずにその場から逃げ出してしまう。このことが後で世間から問題となった。この逃げた中学生は、犯人以上に社会からバッシングを受け、住所、名前を特定され、ネットで炎上した。この中学生は社会から逃げるように日々を生き、現在身をひそめるようにこっそりと大学生となって暮らしている。そこへまたある出来事が降りかかってくる。
という感じである。
デビュー作の『ジャッジメント』でもそうであるが、小林由香先生のテーマは『罪と罰』であろうと思う。言い換えるなら『憎悪と赦し』であるだろうか。
どんな人間でも『過ち』を犯す。それを『赦す』ことができるのもまた人間だけであろう。
外国の文学であれば、ここに『神の赦し』というテーマが入ってくるのであろうが、日本では『神の赦し』をテーマにするとちょっとおかしな方向に行ってしまう可能性もあるのであえてそこには触れていない。
やはりこの部分が日本と西洋の大きな違いなのだろな。ドストエフスキーの『罪と罰』を引き合いを出すまでもなく、人間を赦せるのは西洋では『神』であり、日本では『人』ということなのだろう。
このテーマを論じ始めるとレビューが終わらなくなるので、このあたりでやめたいが、非常に興味深いテーマであることは間違いない
本書も、人のあるべき姿を映した良作である。
おすすめである。
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怪しげな人物が主人公の周りに配置されていて、それが二転三転する展開はエンタメ作品として面白かったです。真相が明かされてくると、トリッキーな人物が多く、こんなひといる?!こんな思考になる?!となりますが実は主人公を助けて命を落とした大学生の設定や人物像が一番非現実的に感じます、、、
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読んでいる間中もやもやした気分で、読後はなんとも言えない気持ち悪さが残った。もやもやは主人公の少年(青年)の行動や考え方に対して、気持ち悪さは後半の種明かしに対して。ミスリードされているのはわかっていたが、予想のさらに上をいっていてこの展開は読めなかった。登場人物の誰もが心に傷を負っていて、人の痛みがわかるはずなのにやさしさが足りない、悲しい小説だった。
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少年が14歳の時にカツアゲにあい危ない目にあった
その時助けてくれた青年は残念ながら死亡した。
そのことにより少年の運命も他の人の運命も狂っていく
一体何がよかったのだろうか
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確かに主人公は罪を犯していない。自分の弱さから2人を見殺しにしたという罪悪感。しかし彼は生きている間、常にそれと対峙しないといけない。その苦悩を鮮明に綴った作品だった。主人公はそれにどう対峙すればよいのか?一方、故人の家族や恋人は主人公を恨み続けている。それを知ってしまったら、自分は幸せにならなければ良いのか?自死すればいいのか?故人のために祈り続ければよいのか?答えは「ない」あるいは「自分では決められない」ということなのか。主人公が最後に描いた表紙絵、彼の苦悩と赦してほしいという意思が見えた気がした。
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自分にとって、大切な人がトラブルに巻き込まれ、理不尽な形で亡くなってしまったとき、きっと、多くの人がその命を奪った相手に対して"憎しみ"を抱くと思う。
だが、もし、憎みに憎んできた相手が、自分と同じくらい"苦しみ"を背負って生きているとしたら、果たして、それまで抱え込んできた"憎しみ"はどうなるのだろう・・・。
誰かを殺すということは、相手の命を奪うだけではなく、その人を大切に想っている、周りの人の心を殺してしまうことでもあるのかもしれない。
そして、心を殺されてしまった人は、強い。守りたいと思う者がいなくなって、空っぽになってしまった人は、だからこそ、強い。
憎しみの連鎖がどんな風に始まるのか、憎しみは、人をどんな風に突き動かすのか、考えさせられた。
誰かを憎んだり、誰かに憎まれたり、そんな悲しい連鎖が、今もどこかで起きているんだろうなと思うと、なんだか、やるせなくて、とても切なくなった。