ハードSFに近い幻想文学
2019/03/29 12:11
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投稿者:まつしげ - この投稿者のレビュー一覧を見る
幻の女流幻想文学者、山尾悠子さんの初期作品集。ファンタジー系の作品も含まれるが、圧巻はハードSF的な 「遠近法」。目の前に、映像が浮かぶかのような、細密な描写で、ある「世界」を、強固な文体で構築した力技に驚く。この作品のモチーフが、近作の「飛ぶ孔雀」にも活きている。初期のやや硬質な文体は、ハマると抜けられない魅力がある。
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国書刊行会から出ていた『夢の遠近法』のちくま文庫版。文庫化に当たり、2編が追加されている。
元々、『作品集成』のセレクション版といった性格だった『夢の遠近法』だけに、収録作はどれも名作揃い。こういった短編が昭和50年代に発表されていたことを考えると驚く。
特異な想像力を緻密で硬質な文体で描いた『夢の棲む街』『遠近法』『透明族に関するエスキス』、谷崎潤一郎を思わせる『童話・支那風小夜曲集』など、読みどころは多いが、矢張りここは『遠近法』を推したい。
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作品集成→厳選→それに足す、
という軌跡が愛されている証拠。
20101129mixiより
間違いなく私の読書歴の頂点に位置する作家になりそう。
『夢の棲む街』★
『月蝕』★
『ムーンゲイト』★
『遠近法』★
『童話・支那風小夜曲集』
『透明族に関するエスキス』
『私はその男にハンザ街で出会った』★
『傳説』★
『月齢』★
『眠れる美女』★
『天使論』★
付録
『人形の棲処』★
『領春館の話』★
『チキン嬢の家』
『ラヴクラフトとその偽作集団』★
記憶に強く残っている作品に星をつけようと思ったが、
そんな試みもくだらないくらいにそれぞれが強い印象を残す。
ここまで鮮烈で確固としたイメージを植えつけられるとは。
驚愕に近い。
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これは言葉という幻知が練成した、徹底して精緻に描かれた細密画だ。選び抜かれた言葉の一片一片が絢爛でありながら宝石のような輝きを持ち、硬質な文体が万華鏡さながらにイメージを乱反射させる。普段、読書中に視覚的印象が浮かぶ事は少ないのだが、本書においては完全に例外。陽光と月光を浴びて表情を変える廃墟の様に、溢れ出るイメージが次々と微細かつ緻密な美しい絵画的情景を産み出してゆく。幻想文学とは印象派のような淡い文章ではなく、明晰な幾何学的文体によってこそ説得力を持ち得るのだと思い知らされる。傑作中の傑作短編集。
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「誰かが私に言ったのだ 世界は言葉でできていると」
もう、この帯の文だけでめろめろにされました。初期作品選、とのことで、短編から中編まで、みっしりと詰まった重たい宝石のような本でした。日本語って、こんなに美しいものだったのだ、とふるえるように読みました。感嘆。
澁澤龍彦氏の「夢みたいな雰囲気のものを書けば幻想になると信じこんでいるひとが多いようだ。もっと幾何学的精神を! と私はいいたい。」という言葉は胸に刺さった。
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大人向けファンタジーな本。
どのお話も独特な世界でグイグイ惹きつけられます。言葉の選び方もステキで、何度でも読み返したくなる。
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面白かったです。
幻想的で残酷な、崩壊していく美しい世界に浸りました。
「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」が特に好きでした。
夢の~は、人でないもののグロテスクな描写が素敵で、そしてカタストロフィーへ…
遠近法は、《腸詰宇宙》が圧倒的な存在感で構築されていました。絵画のようです。
透明族~は、透明な侏儒がぱん!と弾ける様が目に見えるようでした。透明でぎちぎちと犇めきあうのを、踏み潰すと可視性の内容物(酷い悪臭をもつ)が現れるのがグロテスク。
短編でも、残酷さがあって充足しました。
ほとんど、わたしが生まれる前に書かれてるんだな…。
この初期短編集のあと長い休筆期間に入られてたそうですが、最近は執筆されていて、山尾さんの新作が読めるのが嬉しいです。
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文章が素敵、綺麗。
各話ストーリーも不思議な魅力でいっぱいです。
この方の著作は初めてでしたが、一気に魅了されました。
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この本に手をつけてから読み終えるまでに数ヶ月を要してしまった。山尾悠子の文章は流麗でこそあれ、難解でもなければ読みにくくもない。なのに読了に時間がかかった理由は、イマジネーションという点で、作者が読み手にかけてくる負荷がとんでもなく高いからだ。慌ただしい日常の隙間に読むということが難しい本なのである。
読者は作品ごとに、いつの時代でもなく、地上のどこにも存在しない世界を、言語だけを頼りに創造しなければならない。圧縮されたファイルを復元する作業のように、作者がいったん言葉に還元したイメージを、眼前の光景としてどれだけあざやかに再構築できるか、読み手の力量が試されるわけだ。
夢喰い虫の徘徊する円形劇場。
千の鐘楼を持つ崩壊しかけた水上都市。
垂直方向に無限に層を成す円筒型の建造物と、その内腔の〈腸詰宇宙〉。
地の果てまで続く石造りの都の廃墟。
死火山の麓、旅人を誘う月下の平原。
………
活字からイメージを掬い取る作業は骨が折れるが、その作業の先には誰も見たことのない風景、活字を通してしか出会うことのできない世界が待っている。自力だけでは到達できない景色を見ようと欲するならば、読者は山路を這い登る気持ちで活字を辿ってゆかねばならない。
"誰かが私に言ったのだ
世界は言葉でできていると
太陽と月と欄干と回廊
昨夜奈落に身を投げたあの男は
言葉の世界に墜ちて死んだと"
(遠近法・補遺)
滅びた種族の黙示録にも似た、残酷な幻想世界。それを支えるのは、音楽的な律動を伴って紡ぎ出される文章だ。読んでいるうちに次第に目的を忘れて、ただ言葉に導かれるままに読み進めること自体が快楽になってくる。世界最古の文学はたしかに歌と詩であった、小説もやがては進化の果てに歌と詩とに還るのだと、ぼんやり考えさせられるほどに。
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精巧で美しい、言葉の曼荼羅のような、、
酔える余裕がないときは紙の上を視線が滑るだけだった。
精巧なとか書いたものの、よりハマったのは構造系よりも物語要素の強いほう:
ジェットコースター展開からの穏やかで官能的なラストシーンが印象的なムーンゲイト、見知った果物ですら雰囲気と漢字によってやたら魅惑的にみえる支那風小夜曲集(の龍の帰還)、結末はよくわからなかったけれど、とにかく文章を追うのが楽しかったパラス・アテネなど。