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妻の眼から見た太宰治
2018/06/20 15:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
太宰治の短い、わずか39年の生涯において、なんとも色濃い女性との関係があるが、唯一彼の本名である「津島」姓を自分のものとした女性が、本作の著者津島美知子さんである。
情死した相手山崎富栄さんは「愛人」であるが、美知子さんはれっきとした「妻」である。
だから、この回想記は「妻」の眼を通してみた太宰治であり、ある意味で山崎富栄さんが知ることのなかった津島修治としての回想である。
美知子さんが太宰と井伏鱒二を通じて知り合ったのが昭和13年(1938年)。太宰29歳、結婚を機に生活を一新しようと決意した。 この時、美知子さんは26歳。
確かにこのあと、太宰にとって平安な暮らしと作家としての充実の日々が始まる。
しかし、時代は戦争へと突入していく。
三鷹を焼き出され、甲府もまた戦火にあい、太宰たちは生まれ故郷の青森・金木での生活を余儀なくされる。
しかし、もしかしたら終戦をはさんだ金木での生活が太宰の亡きあと、美知子さんを支える糧になっていたかもしれない。
この回想記に収められた太宰の生家の様子、父や母、兄や姉のことは、山崎富栄さんには絶対書けなかった事柄で、「妻」美知子さんだからこそ書けた真実だろう。
時に美知子さんの視点は冷たくも感じることもあって、もしかしたら太宰にとって山崎富栄さんやほかの女性は癒しのようなものがあったかもしれない。
美知子さんはいう。
「太宰がその作品に書いている自分自身のこと、それが彼の「自画像」なのだ」と。
そして、そんな太宰を見ている美知子さんもまた「自画像」を書いたかもしれない。
太宰の常識的な妻
2018/05/03 00:55
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
太宰治の小説をまとめて読んだ後に、著作にもたびたび登場する太宰の妻に興味を持つのはごく自然。いくつかの作品の執筆背景を探ったり、太宰の実家を山源と言って、その風習や生活を語ったりその語りぶりはきちんとしていて客観的。きっと依存症で理路整然と生活していなかったであろう夫と対照的。おそらく「できた妻」だったろう。常識があり感情的でもなく太宰を支えたことだろう。その自殺については直接語らないが太宰の妻としての重圧は、ひとりになったあとでも続いただろう。読み終えると美知子夫人という人間の方が大きく浮かび上がる太宰伝。
回想というより記録集といった感じがする
2009/06/10 00:36
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
太宰のもっとも近くにいた人の回想録なのだから、よほど太宰の人となりを知ることができるものと期待した。節目節目にどういう言葉を発したのか、どんな表情を浮かべたのかなど、太宰像がくっきりと立ち上がることを願って。
ところが意外や意外、本書はまるで太宰に関する淡々とした記録集のような感じになっている。筆致は極力抑えられ、身の回りにどういうものを置き、どういう行動をとったのかなどが克明に記してある。これだけのものが残せるとは、よほど聡明な奥様だったのだろう。
でも、太宰ファンにはいささか物足りない。やはり、太宰という、その人を知りたいものだからだ。奥様が太宰について触れるときには「太宰は・・・と思う」、「太宰は・・・だったに違いない」など推量が多い。そばにいる奥様にも、思ったほどその時々の心情を吐露してはいなかったのだろうか。
太宰の故郷である津軽へ帰ったときの様子など、非常によく観察し、記録している。研究家には貴重な資料となりうる。
『駈込み訴え』を奥様に口述筆記で、少しも言いよどむことがなく言い終えたところに太宰の天才ぶりを見ることになる。ただ、奥様の姿勢は一貫して情に流されず、淡々としている。あたかも自然観察者のように。
太宰が文筆家のわりには蔵書を持たず、井伏や亀井勝一郎などに借りるところが多かった点など、新たな発見となった。私にとっては、作家は蔵書で埋もれているイメージだったから。
太宰は、天性の作家だったのがよく分かった。ほかの作家と比較されるのを好まず、自己愛的である。この点は、奥様の書きぶりからもうかがえる。
本書は、本書で味わいがあるが、太宰の作品を読み、評論を読み、この回想録を読み終えても、まだ未消化なものが残った。その渇望は檀一雄によって解決されることになる。