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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
言われるままにビットコインを採掘する主人公、中本哲史が達成感のない現代を象徴していました。高層ビルの天井に飛行機模型をコレクションする、荷室のキャラクターも秀逸です。
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モチーフだけ与えといて、全体像は読者任せ。と言う印象を受けたけど、第160回の芥川賞受賞作らしいので、きっと、もっと深いところに辿り着く能力が自分に無かっただけだろう。
もっとも、仮想通貨やマイニングについての初歩的知識が欲しかったので、その点では自分にはちょうど良かった。
なんとなく思ったのは、出てくる小道具やシーンが現在に近いものを実名表記しているところ。
iPhone8やLINEとか。そのせいか、なんとなく作品自体が刹那的なものに思えてきた。
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なんとなくすっきりしない感じ。
なんだろうなぁ。
とりあえず、主人公は触媒役なのかな。
ニムロッドと紀子さんが曖昧すぎて気にはなるが(そもそもニムロッドは同僚なら多少はどうなったかはわかりそうなもんだが)
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友だちから薦められたBLACK COFFEEの「Subconsciously」が良すぎて、妻と娘が寝静まったあと、これを聴き、ウイスキーを舐めながら、読書をするのが最近のマイブーム。
この小説もそんなふうに読んだ。
第160回芥川賞受賞作。
ストーリーは何だかよくわからないが、妙に物悲しい結末がいい。
しかし、ビットコインと採掘(マイニング)の仕組みがよくわかる。
ダメな飛行機の話もなかなかいい。
というか、この小説、もしかしたらすごく面白いのかもしれない…とあとからじんわりとこみ上げてくる。
不思議な読後感。
上田さんはIT企業役員と作家を兼業されている、とのこと。
そのためか、なかなか硬質な筆致で、ビジネスパーソン向け小説だと思った。
新たな価値創造を目指すなら、そこらへんの自己啓発書よりこの小説を読むことをおすすめする…かな?
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整って綺麗な小説だと思う。この世代の寄る辺ない感覚が、理性的に描かれているという印象を受けた。"ビットコイン"という小道具にはあまり興味は惹かれない。
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初上田。芥川賞受賞作。僕、中本、田久保女史、そして"ニムロッド"こと荷室仁。道中繰り返し紹介される「ダメな飛行機コレクション」がすごく好きだ。きっと何かの暗喩なんだろう…。不完全な人間か、それとも紹介しているニムロッド自身を指すのか——。三者三様の結果だが、中本の未来(新たな仮想通貨の作成)のみ、希望に満ちている気がする…。
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淡々と紡がれていく文章がとても心地よく、一息で読み終えた。
情緒的でもなく、悲劇的でも無いと言えるような文章で描かれる独特な作品。
なんとなくテーマは分かるが、作者の意図やそれに対する答えなどが書かれているわけでなく、正直そのテーマを取り巻くものはよく分からなかった。
しかし、何となく感じるボーッと浸れるこの読後感、主張しすぎない文章、冷静に独立したただここに在る作品、とても僕の好みであった。
何度か読み返す作品となるだろう。
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スマホを傍らに<ビットコイン+採掘>のキーワードをYahoo!で検索しながら読み進めた結果、仮想通貨の広告が頻繁に表示されるようになった。情報化社会による利便性の恩恵に預かりながらも、時折薄ら寒さを感じてしまう。結果以外は価値を失うシステマチックな合理化の先に行き着く『すべては取り替え可能であった』社会は今や決して絵空事ではない。0か100かの世界において、何者かであろうと躍起になればなるほど【個としての寿命】は擦り減っていくのだろうか。黙々と【在り続ける】彼だけが健在の世界はそれを物語っている気もする。
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ひが彼我の差を感じて悦にいる? 荘厳な塔 ビットコイン採掘に充てるサーバー補充の要請をしたが 634関東平野を意味する「武蔵野」という言葉が担ぎ出されたのだ ブルジュ・ハリファの828 ダイバーシティ(多様性)は大事だからと優しく認めてもらえる 寡作のまま死んだ伝説の作家らしい 彼女の中2病的な心情吐露を僕は好ましく思っていた 最適な形状に収斂しつつある最新型スマートフォン発表のネットニュース 創設者としてのアイコンを担いきれていない 鳥の形を模したものだった 操縦桿を握る手を濡らした 蕩尽的に もた凭れる さと聡い よもやま四方山話 荷室仁 バベルの塔 駄目な飛行機コレクション 彼からのメールはあの鼎談ていだん以来途絶えたままだ 桜花が進む距離なんか 誰もが心の奥底に抱えている根源的な衝動に違いない 未熟なロックスターが二十七歳で自殺するように 山っ気 ゆうよう悠揚迫らざる冷静な筆致で進行し こつぜん忽然と締め括られる 快く途惑わせ続けている 何処か超越的な「他処」に位置している それを除けば謎めいた重層化も錯雑化もなく 超越的なトポス(場所)を起点として湧出した言葉の運動がまずあり 聳える窮極の「山」を目指して困苦の旅に出るといった試練は せんしょう僭称 こうとう高塔 上田岳弘の小説家としての欲望の核心の在り処を端的に物語っている こうむ蒙っている 喫緊の課題
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読書開始日:2021年7月30日
読書終了日:2021年7月31日
所感
閉塞感、暗い雰囲気をまとった作品。
読みやすくはあったが、各々の心情が難しい。
ニムロッド、田久保は現代の完璧を追求し、尖りを叩く閉塞感にどうしても嫌気がさしていたのか。多分そうだ。
ニムロッドは誰かの心に文字を通してなにかを記載したかったが、叶わなかった。記載ができなかった。
だからこそ自分と似通った駄目な飛行機を愛す。だが周りがどんどん効率化、合一化することによって愛すべき駄目なものが無くなる。ついに駄目な飛行機も世から尽きる日が怖くなり太陽に向かった。
田久保も、あの日の判断で自分にレッテルを貼ってしまったことで、ニムロッドと同様の状況に陥っていた。仕事柄、合併を推奨し個をつぶしていく作業は、悲しくも完璧、効率化を追い求め、レッテルを貼ってしまった自分だけが取り残された感覚になる。それ故の東方洋上に去る。
2人は泣く資格が無いと思い込んでいるため、なんの感情もなく涙を流す中本サトシに自分の流せない涙を重ねていた。
どこか愛すべき中本サトシの個を、2人は愛していた。
このまま世界が進むと同時に個は少なくなり、効率化していき、閉塞感が増すのは目に見えるが、そこさえも超えると、なにも考えない生き物になる。
誰もが根元に、自分の考えを誰かの心に残したいと思っている。
世界の未来と、人間の根源的な欲望のジレンマの作品か。
難しい…
まどろむ
採掘完了2140年
夫は判断を完全に委ねるべきではなかった。
夜のこんな時間に、深く考えた会話なんて期待していない。
彼女の目元に涙の跡を探してみるが
人口を支えるだけの技術革新が、そのまま高くそびえる塔を支えるのだ。
一つの小説が世の中に存在するためだけに行われる、シンプルな行為。
ビットコインの採掘状況はまるで天気の話題みたいに、挨拶じみてきている。
どうせもうほとんどの人はこの世界がどうやって運営されていているのかなんて、知らないし興味ないんだから
肌理は細かい
言いたいことを言えばいいじゃん。恋人といるなんて、半分くらいはそのためなんだし
サトシ・ナカモトのジレンマ
僕たちは確かに会話しているが、僕たちの会話暗号化されたデータそのものだ。
一緒にいるときは意識もしない彼女の姿をなぜ僕は無機質な文字をみながら思い浮かべているのだろう。
その代わりみたいに僕の左目から涙が流れ続ける。
誰もが心の奥底に抱えている根源的衝動=誰かの心に文字を通してなにかを記載すること
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2019年の芥川賞受賞作。中本哲史(ナカモトサトシ)というビットコインの創始者と同じ名前を持つ男を主人公にした中編小説。レンタルサーバー・ハウジング業を営む企業に勤める主人公が、空いたサーバーリソースでビットコインのマイニングを始めるところから物語はスタートし、そこに同僚で”バベルの塔”に似た小説を描き続ける男と、証券会社に勤める恋人の女性という3人でほぼ物語は進んでいく。
全体を通じて、極めて温度感が低いというかドライというか、独特の質感を持った文章は確かに不思議な魅力がある。ただ、本作に関して言えば、時流に乗ったビットコイン/仮想通貨というテーマを盛り込んだことで、なんとなく世界観が作られてしまっている、という感がしないでもない。もう少し他の作品を読んでみないと、なかなか評価が難しい作家である、というのが率直な印象。
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不思議な読了感。
ディストピア小説と言っていいのだろうか。
やるべきことはAIやコンピュータが代わってやってくれ、欲しい物をすべて手に入れたら、人間には何が残るのか。どう生きたらいいのか。
虚しさが残る小説だ。
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好きか嫌いか?再読したいか否か?
好きではないかな、再読も疲れそう。
でも、現実がこのまま進んでいく先に、あるかもしれない形だと、アリだとは思う。
自分はきっと、個をなくした人間として融合する前に、東方洋上に去る派かな、と、今は思うが、仮想通貨の概念もろくに理解していない古いヒトというだけかも。
書いているうちに、もう一度読みたくなってきた。ダメな飛行機を集めてしまうニムロッドの心情が気になるのか?
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【テーマ】
仮想通貨と人間の存在。
多様性(ダイバーシティ)を認め、個性を持て囃す現代社会と、その実、個性と表現されるようなモノまでもが、ある種カテゴライズされているような世界。
端的に言えば、親密な笑顔で手を広げるA面と、存在を保証してもらえるかどうかの瀬戸際を移すB面。
そんな時代性をある視点から切り取った作品だったと感じる。(類作に『コンビニ人間』が挙げられるように思われる)
さて、最近になって、「ある一定の時を経た作品のみ読む」というルールを破って、最近の小説に手を出し始めた。
自分ではなく、恋人に選んでもらった数冊の中に、本作『ニムロッド』が入っていた。
本作の全体を通して流れる雰囲気に「起伏の無さ」がある。解説者は、「悠揚迫らざる(困難な状況や切迫した事態にも、普段と変わらずゆったりと落ち着いているさま)」と表現するが、つまり、素っ気ないのである。
但し、突拍子の無さとも性質は異なる。
一度目の通読を終えた際、寧ろ、一部ではあるが、よく現代日本の性質を捉えていると驚愕した程である。
なのに、印象には残りづらい。
主人公の中本哲史による一人称の語りには、恋人田久保紀子の失踪や、同僚ニムロッドとの音信不通、両者との会話による内面での考察の細部にまで、まるで起伏がない。
冷めきっている。
それは、コンティニューを行う、ゲームプレイヤーのように、自分の人生などに参加していない感を醸し出している。
これこそが、現代の特徴であり、これこそざ、表現したかったものと、もし著者が述べるとしたら、本作は、傑作の一つに加えられるかもしれない。
作品を通しての概観は上に述べた通りだが、数点、考察しておきたい箇所がある。
先ずは、暗号通貨・ビットコインについて。
ビットコインに関しては、綺麗さっぱりに、興味のある人とそうでない人とで分かれるんじゃないか。
ビットコインを肯定的に語る人に特徴的なのが、まるで宝探しをしているかのような無邪気さだ。
存在しないツチノコやネッシーが確固たる存在感を帯び、固有の名詞まで授けられているように、ある事柄に対する、無数の観念や感情が、無から有を想像する過程を目の当たりにしているような感覚をおぼる。
〝限られているから欲しくなる。他社が欲しがるからより欲しくなる。自然な欲望。〟p.32
〝まさに虚無から金を取り出すわけだ!〟p.35
これは、通貨に対する本作の引用だが、本質的だ。
金や銀ならまだ素材として価値があり、米は食材としての価値があって、通貨としての価値は側面的ないものがあった。
けれど、紙幣は違う。ここが面白い。
そして、データ(仮想通貨)。
先程のツチノコの話だ。無から有だ。仮想が現実よりも現実味を帯びる世界。ここが、本作にグッと重みを与える。
次に、駄目な飛行機コレクションについて。
〝駄目な飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。でも、もし、駄目な飛行機が造られるまでもなく、駄目じゃない飛行機が造られたのだとしたら、彼らは必要なかったということになるのかな?
ところで今の僕たちは駄目な人間なんだろうか?いつか駄目なくなるんだろうか?人間全体として駄目じゃなくなったとしたら、それまでの人間たちが駄目だったということになるんだろうか?でも駄目じゃない、完全な人間ってなんだろうか?って聞かれても困るよね。〟
特に理由のないことをする人間。特に理由のないことは絶対にしないコンピューター。この二項対立に、筆者は、人間性を見出しているように感じる。
駄目な飛行機こそ、人間性の証明と言いたいかのように。人間は同じミスを繰り返す。コンピュータは二度と同じミスを繰り返さない。
ここには、合理的になった世界では、人間は人間でいられなくなるんだというようかメタメッセージが隠されているように感じた。
後に登場する、「最後の人間」等は、不老不死を手に入れて、人間性を失くす。
アーカイブから、寿命ありし日の自分の記憶をリプレイするも、もうかつての人間には戻れない。
作中で詳しく語られなかった、この話の背後を想像するとぞっとする。
寿命こそ生の証明なのに。
〝ただ、もうのれないような気がしただけ(略)人類の営み、みたいなもの?〟
わが子の染色体異常を、出産前検査NIPTで発見し、堕胎を選択した、田久保紀子はかく語る。
外資系証券会社という、ザ・システムの環境下で順応する彼女は、「稼ぐ意味」を見失い、「人類の営み」からも乖離していくのだが、これもある種想像に難くない。
貨幣とは無いものだ。
貨幣は食べれない。貨幣だけが存在する世界では生きていけない。米や野菜とは根本的に異なる物質。
それを、何年間と日々取り扱う。
実体のない何か。
当然、人類の営みからは外れるだろう。
本来なら、人がどうしようもない領域にある生を、どうにかしてしまった彼女は、もう戻っては来れない。
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感想が難しい。現実の中でSFを構想するフィクションだった。どこか虚しくて、虚しさに気付いていたとしても、そこに一瞬でも別の何かがあれば積み上げてしまう人間の話だったような気がする。
もしこれが完全なSFだったのなら、苦しみの密度や、痛みの切実さが広がっていくのかもしれないけれど、本書が残したのは、如何ともしがたい青空だった。