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本書は秋田・阿仁地区に住む現役マタギたちの猟や生活風景を撮影したカメラマンの16年の記録を写真と文章でつづったフォトエッセイです。時代が変化し、消えつつある彼らの存在を収めた貴重な記録です。
これは、本書の姉妹編とも呼べる田中康弘氏の「女猟師」(エイ出版社)を読んで、こっちもできれば読んでみたいなぁと思い、手にとって読んでみようと思いました。内容は秋田・阿仁地区に住む現役マタギたちの猟や生活風景を撮影したカメラマンの16年の記録であり、あらゆる意味でも貴重な記録であると思います。
彼らのアイデンティティーともいる、山と調和した生活、その厳しさと熊やウサギ、川魚に山菜やきのこなどの豊穣な恵みがもたらす世界と、時代の移り変わりから、マタギという生き方そのものが、過去のものになりつつあるというある種の「哀しさ」をにじませたフォトエッセイであると思いながら、本書を読み終えました。
冒頭からツキノワグマを「けぼかい」という言い方でナガサ(マタギの使う山刀の一種)一本で解体し、食肉にする技術は、長年の修行の思わせるもので、一連のプロセスを残酷だという方もおりますが、僕は決して目をそむけてはいけないものだと確信を持ってここに記させていただきます。
さらには、冬の山にウサギを追い、皮をはいだウサギがほぼすべて筋肉でできていることを写真で確認し、あの動きの俊敏さはここからくるものであったのかと改めてそう思いました。
そのほかにもシンプルな仕掛けだけで岩魚を釣っていくマタギや、天然ものの舞茸を鳥に山の中へと奥深く入っていく話。そして、筆者をこの世界にいざなうきっかけとなったマタギであり、ナガサを作る鍛冶職人であった西根正剛氏との出会いと別れなど、本当に盛りだくさんの一冊でした。
作中で子供が熊の骨付き肉をかじっている写真がありますが、こういうのを見て自分も熊肉の鍋(マタギの世界では獲物はたいてい鍋にするという)を食してみたいなと思うのでした。
※追記
本書は2021年4月17日、山と渓谷社から『ヤマケイ文庫 完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化』として文庫化されました。