期待を裏切らないノンストップスリラー。
2021/09/30 09:08
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
期待を裏切らないノンストップスリラー。東京オリンピック開会式を1週間後に控えた東京で青酸ガステロ事件が発生するが、犯人は直ぐに自首してくる。しかし、その後も鉄道路線爆破やトンネル内火災など東京への物流を標的にした様々なテロが続発。事件の根深さを伺わせる。遂には東京都内の物流も道路情報システムをハッキングされ崩壊。何しろ一気読みの展開。大量消費を前提に成り立つ東京の物流を捕えた著者の視点の鋭さに敬服。そして、消費の末端に位置する「廃棄物処理問題」が問題提起される結末に。
奇しくも本書を読んでる最中に静岡県熱海市で大規模な土砂崩れが起き多くの人々と建物が流される事故?が起きたが、その原因が違法な産業廃棄物埋め立てにあったらしいという事件が起きてしまった。まだ調査中で結論には至ってはいないが、既に報道された事実からはそれが真相と思わざるを得ない。またもや予言的作品を著した著者の先見性に敬服。
<蛇足>
解説によると、本書は2018年~2019年にかけて2020年の東京オリンピック開催を想定して執筆され、新型コロナ禍が始まった2020年3月に単行本が刊行されたという。しかしその後オリンピックが延期されたため、文庫化に当たっては2021年に変更し、更に新型コロナ禍の様子やその影響なども盛り込んだものであり、そうした意味では単行本とは異なる「書下ろし作品」的作品と言えそう。読み比べた訳ではないが・・・・。
東京ホロウアウト
2022/02/26 17:08
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投稿者:なみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
テロの動機は、オリンピック開催目前を狙う理由としては、あまり理解できなかった。が、普段気に留めない流通のありがたさや、それに関わる人々の見えないところでの努力、大都市での物流の脆さに、引き込まれた。
コロナ禍でオリンピックが1年延期になっているし、物流が途切れた時のパニック、ゴミの問題など、進行形のようにリアルだった。ゴミの問題は、私達が自ら起こしている災害だな、と、考えさせられた。
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倉庫を持たずに物を流すことで消費を支える。それはある意味危うい世界だったと思い知る。時に食品であり薬品であり、日常生活に必要なもの。不要なもの、ゴミもその一つだったか。う~~む
トラックドライバーが大活躍していたのがうれしかった。駅に張ってあったトラック協会の就職面接(?)のポスターが眩しかった。
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78時期に叶ったおはなし。実にありそうな小説でJOC その他の大人たちに読め!って言いたいですね。流通テロの話しは他にもあったけど、これは面白かった。欲を言えばちょっと登場人物の整理ができていなかったかも。
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コロナ禍が収束し、次第に制限が解除された今だからこそ、エンターテイメント作品として楽しむことができますし、あらためて「物流」に携わる方々への敬意の念を抱かされる作品でした。
コロナと東京オリンピックによって過剰なストレスにさらされていた大都市・東京を狙ったテロ行為が起こります。
攻撃そのものは人死にが出るようなものではありませんが、SNSで拡散する情報や交通インフラの遮断により人心はパニックを起こして買い占めが横行、「食べるものが店になく、物流破綻で届きもしない」という状況になります。
主人公たちトラック運転手の生き様の美しさ/カッコよさには憧れますし、車の運転が好きな身としては、トラックの運転手という職業も経験してみたいと思わないではありません。
一般に、「職業に貴賤はない」とはいうものの、どうしても「下」に見られがちな運送業やごみ処理業などの職種。しかし、こういった仕事を回す方々がいなければ、今の私たちの生活を維持することはできません。社会の「縁の下の力持ち」として日々奮闘してくれている方々への感謝の気持ちも呼び起こされる作品です。
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あとがきによると『ホロウアウト』=『からっぽになる』という意味らしい。
福田さんお得意のテロによるパニックものなのだが、こういうテロがあるというのは非常に興味深く、いろいろ考えさせられた。
この作品は単行本の刊行が2020年3月、私が読んだ文庫本の刊行が2021年5月なので、当時はまだオリンピックが現実に開催されるのか、開催して良いのかと落ち着かなかった頃だ。
作品ではオリンピック開催を直前に控えた東京で、配送トラック運転手を狙った青酸ガステロ事件が連続し、鉄道の線路が爆破、高速道路のトンネルで火災が起き…と東京周辺の道路が次々寸断されてしまう。
つまり東京が孤立してしまうのが犯人の狙いなのだ。
これまでテロというと大人数の人間が集まる場所を狙った爆破や毒ガス事件など、人を直接的に狙うものというイメージだった。あるいは小説などでは発電所を狙ったテロというものもあった。
だが物流やゴミ処理を狙ったテロというのは盲点だった。
確かに新型コロナウイルスが蔓延し始めたころのあの物流の混乱や狂騒を思い出すと、こういうことを人為的に引き起こす犯罪もあり得るだろうと思う。
作中に度々出てくる、物流とは人体を駆け巡る血液のようなものという表現。ゴミ処理もまた人体を駆け巡ったあとの排泄物として例えられるだろう。
物流システムが精密に組み上げられた交通のダイヤグラムのように、生産から私たちの手に届くまで複雑な過程を経ていて、その均衡が少し崩れるだけでたちまち崩壊してしまう脆いものだということも分かった。
それは人々の生活がより豊かに便利になるように考え抜かれたシステムなのだが、そこには配送トラックなどの物理的な手段はもちろんのこと、何より現場で働く人々の不断の努力があってのことだと改めて考えさせられた。
この事件の犯人はある意味そうした便利な生活の犠牲者でもある。
生きていくためには食べなければならない、物を使わなければならない。だが食べたからには出ていくものもあるし、物が壊れたり新しいものを買えばゴミも出る。
その食べていくためのものが手に入り、ゴミが適切に処理される。当たり前だと思っていることがいかにたくさん人たちの大変な努力により成り立っているのかということが何度も訴えられる。
この作品のヒーローは警察官ではない。配送トラックドライバーたち。
世良を中心にドライバーたちが協力しあって道路情報を交換しあったり、犯人を包囲していく終盤は楽しかった。
危機的状況になって身の危険を感じて逃げ出すドライバーも責められない。だが一方でその状況を何とかしようとそれぞれの立場で知恵を絞り実行する人たちもいる。
ちょっと上手くいきすぎな感もあるが、そうした爽快感もまた福田さんらしさか。
あとがきにある福田さんの懸念(もちろん私も当時は懸念した)を余所に、オリンピックは開催され、いくつかの問題やトラブルはありつつも終了した。オリンピック開催の是非はともかく、そこにもオリンピックに関わった膨大な人々の努力があったことを改めて思う。
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感謝する場面が多く、人と人が支え合うことで社会が成り立っていることを改めて感じた。
満たされた生活ができている喜び、当たり前すぎてありがたさに気づけないでいた。一つのモノにどれだけ多くの人が関わっているのかを認識した。物流のありがたさ。無駄がない分脆弱な現代。東京が空っぽになってしまう恐怖。地方と都市の関係。
「空っぽになる」と「溢れる」ことの2つの問題点が浮き彫りになり、考えさせられる一冊。
人々の大量生産と大量消費の豊かな生活が、誰かを苦しめていることがある。また、その生活の代償は巡り巡って自分に帰ってくる。
コロナ禍でより一層浮き彫りになったごみ問題。ごみを引き取ってもらう価値について考えた。捨てることにも金と手間がかかる。あまり目を向けられない職で働く人がいることが寂しい。
「ローマの皇帝は、市民の目を政治から逸らすため、パンとサーカスをふんだんに与えた。」という文が印象に残った。
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これまで様々な人あるいは場所が標的のテロを、題材にした小説はあるが、本作品は物流がテロの標的になるということで画期的。
時は、オリンピックを目前に控える2021年の東京。単行本では2000年が舞台となるが、コロナ渦により1年延期となったことにより、文庫化にあたっては、2021年に変更されている。
まず、配送トラックを狙った青酸ガステロ事件が起きる。オリンピックの警備の隙を突き、続けて高速道路や鉄道が破壊され、交通が分断。東京圏に物資が届かなくなり、スーパーやコンビニで商品が次第に品薄に。
犯人から届く犯行声明。
「これから、TOKYOは孤島になる。心ゆくまで楽しめ」
人びとは食料品や生活用品を求めて、恐慌を来し始める。
「TOKYOが空っぽ(ホロウアウト)になってしまった」
著者は執筆の動機を、東日本大震災での出来事だと、あとがきで記している。宅配の人に東北の友人へ物資を届けてもらおうと依頼するが、危険な場所へ行ってもらうにもかかわらず快く引き受けてくれた。その時、ものを運ぶ仕事に就く人の職業意識と誇りに感銘を受け、いつか小説に書こうと。
本作品には、新聞記者や刑事、鉄道作業員にスーパーの店員等々、種々雑多な仕事に携わる人物が登場するが、やはり主役となるのは、配送を受け持つトラック運転手とその仲間たち。
物流テロというこれまで経験の無い困難に、自分たちの役割を果たさんと、トラック運転手たちは果敢に挑み、そのセリフがカッコイイ。
「俺たちは、単にモノを運んでるわけじゃない!俺たちが運ぶのは、信頼だ」
インフラの分断により、さらに忘れてならないのが、廃棄物処理。本書のもうひとつのテーマはここにあるのだろう。
物流は、人間の血管のようなもの。必要なものを必要な場所に届けるのが動脈なら、廃棄物を処理するのが静脈。静脈が詰まれば人は死に瀕する。
現代日本でも、放射性廃棄物の最終処分所ををどこにするのか決まらず、押しつけられるのは地方。何かを作るなら、それが役割を終えて捨てられるところまで考えなくては。
テロを起こす動機が、産業廃棄物の不法投棄にあることがわかり、犯人を追い詰めてゆく。ここで活躍するのがまた、トラック運転手たち。
「ローマの皇帝は、市民の目を政治から逸らすため、パンとサーカスをふんだんに与えた。現代のこの国も、オリンピックを利用して同じことをやっている。あんたは腹立たしくないのか?」
犯人の言葉に、我々もどう応えられるだろうか。
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物流トラックVSテロ犯罪
内容ももちろんおもしろかったが
日々私たちの生活のために生活物資を運んだり
日々の生活から出るゴミを処分してくれている
人たちに尊敬の念が深まりました
自分が知らない職業を知れてとても勉強になったし
もし物流が止まってしまったらどうなるのか
怖い気持ちにもなった
そんな日の目を見ない業種の人たちが団結してテロ犯罪と立ち向かうのもよかった
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2024年、ドライバーの労働環境が変わる。
過酷な環境で日本の物流を支えてきたトラック輸送の現場こそ、日本の経済成長の証。
それがいま、新しい時代に入ろうとしている。
巨大企業のユニ〇〇の超有名な経営者が「働き方改革はナンセンス」と言う……。
現代においてなぜ「働き方改革」が必要になったのか、その背景を経営者は考えていない。
効率化の名の下で「カイゼン」を進めて、労働から人間性を排除していったのは、その世代の経営者達ではないのか。
依然として経営者を続けている自身こそ、最も恥じるべきであり、ましてや、今更「時間にとらわれないやりがいのある仕事」と美談化する権利はない。
物語は、コロナ禍に行われた東京オリンピックの直前に起こった不可解なテロ事件と、翻弄されながらも懸命に使命を果たそうとする人々の様子を描く。
大都市東京の脆さを痛打している。
「大量に作って、大量に消費して、大量に捨てるんだ」
そんなとき、標的にされた流通関係の現場の人々は、とても逞しく立ち向かう。
ひとりひとりがよってたかってなんとかする……とても地味なこのことが、異常事態にチカラを発揮する……日本の良さでもある。
ただ、これに頼っている限り脆さと表裏一体でもある。
小説はコロナ前に書かれていたが、文庫化に伴いコロナ禍と延期開催された東京オリンピック直前を舞台とするよう変更されている。時事をタイムリーに小説化する難しさもあり、作家さんの苦労も感じられました。