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ゲド戦記のル=グィンによるファンタジー評。
寓話やメッセージを分かりやすく伝えるツールとしてのファンタジーではなく、もっと本質的なファンタジーでしか描くことができないことを語るウィットに富んだテキストはとても素晴らしい。
動物物語について語る章が特に興味深く、いくつかの類型に小説の中の動物の描き方を区分けした上で人間と動物、自然の繋がりを眺めていく。紹介されているどの本も読みたくなってきてしまうこと間違いなしに評されている。
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ファンタジーを何らかのメタファーでなくファンタジーそのものとして読むことに意味がある。そのように受け取り、それは日ごろ思い抱いていることなので力強く響いた。
ファンタジーの魅力を伝えるための大いなる力を得た気分。
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ファンタジーを愛するすべての子どもと大人へ。
ゲド戦記のル=グウィンがファンタジーについて語ったエッセイ集。ファンタジーをよく読む人はぜひ手に取ってもらいたい。なぜ子どもはファンタジーを愛するのか、ファンタジーは子ども向けなのか、ファンタジーとは何か。よくあるファンタジーへの問いかけにル=グウィンが真摯に答えている。
ハリーポッターから起きたファンタジーブームによってたくさんのファンタジーが手に入るようになったと思う。特にあの頃まさにティーンエイジャーだった自分に、たくさんのファンタジーが流れ込んできたのはよかった。確かにペラペラなものもあったに違いない。けれど自分は力を持ったファンタジーをたくさん読むことができた。もしかしたらそれはハリーポッター以前に書かれたもので、ファンタジーブームと関わりなかったとしても。とにかくファンタジーを読むことで、自分の生きる世界とは違う社会を知り、自分とは違う価値観で生きる人とどうやって手を携えていくのか、自分はどのように何を守って生きていくのかを考えられたと思うから。
ファンタジーにおけるジェンダーや人種の問題に関して、少なくとも人種に関しては日本語のファンタジーだとアジア系なので著者が指摘する白人の問題は感じない。しかし日本の中ではやはり差別される人種の問題があり、ファンタジーにはそういう人の問題が描かれていたと思う。ジェンダーや善悪に関して、例えば守り人、勾玉三部作や十二国記を思えば、日本のファンタジーは著者が指摘したところからやや進んだところにあるのではないかと思った。
ところで最近の異世界転生モノとかは英米でもあるのだろうか。なんちゃって中世ではあるけど。あれらはペラペラのファンタジーなのだろうか。それともあの中から力あるファンタジーが生まれて読み継がれていくだろうか。
動物の出てくる物語についても面白く読んだ。人間が動物をどのように扱っているのか、動物寄りから人間寄りのスペクトルで分類された物語をもう一度見直したいと思った。『ソロモンの指環』で語られていた動物の習性を理解して描かれた物語のことを思い出した。
日本はファンタジーに恵まれた国だと思う。日本人はアメリカ人ほどドラゴンを怖がっていないのではないか。それでもやはり日本文学研究者の中でファンタジーは認められていないのだろうか。それを語る人の言葉を今度は読みたい。
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アーシュラ・K・ル=グウィンによる、読み手たち(または書き手たち?)への講義録。とても面白かった! まだ生きていらして、「文体の舵をとれ」のような講義を行なっていらしたら! と心から思う。わたしはファンタジーが大好きで書いているので、不注意にならないようにやっていきたい。封建制度もどきの量産なんてもってのほかですよ、ええ!
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単行本版・紙の本であります。『闇の左手』『ゲド戦記』など、フェミニスト作家であり、SFファンタジー作家であるアーシュラ・K・ル=グウィンのスピーチ。
児童文学ファンタジーで育って、スタジオジブリ作品で育って、『ハリー・ポッター』直撃世代だったので、フィクションに関わる大人たちがファンタジーを「女子どもが喜ぶもの」として軽視した物言いをする、意味が解らなくって、腹を立てていたときに手に取って、衝撃的な切れ味に、それ以上、読み進められなかった。
以下、33ページより引用。
「男っぽさの誇示を
「マチスモ(男性優位主義)」と呼ぶのにならって、
「マチュリスモ(成熟至上主義)」というのはどうだろうか。
そう、自分の大人っぽさが脅かされたと考える
知識人が示す不安ゆえの残酷さをそう呼ぼう」
「ファンタジーと未熟さをごっちゃにするのは、
かなり大きな間違いだ」
「合理的だが、頭でっかちではなく、倫理的だが、あからさまではなく、寓意的というよりは象徴的――ファンタジーは原始的(プリミティブ)ではなく根源的(プライマリー)なのだ」
『バンビ』の人間による狩りの描写を映画化にあたって森林火事に改変したディズニーへの痛烈批判、ハリー・ポッターブームへの皮肉など、縦横無尽。